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頭上ががら空き

本作の独自設定ですが、チベット軍将官の階級は

将軍(少将相当)

大将軍(中将相当)

元帥(大将相当)

となっています。


「何か見落としている気がするな……」


 チベット機動第1旅団司令官、ケメー・ソナムワンドゥ将軍は、ささやかながら冷房の効いている指揮通信車の中でそうつぶやいた。


「あまりにも順調すぎますよね」


 幕僚のアウもそれに同意する。


「誘いこまれているのか……?しかしなぜだ……」

「冷涼な環境で暮らしているチベット人(われわれ)に、この砂漠は堪えますからね」


 アウは新彊側が砂漠の厳しい環境を利用し、チベット軍を消耗させようとしているのではないかと予測した。


「違う気がするな……竹上中将に相談してみよう」


 ケメーは第12師団司令官の竹上常三郎中将に短距離無線電話で相談することにした。


≪ケメー将軍か。どうした≫

≪竹上中将。実は私、何か見落としている気がするのです。あまりにも順調にいきすぎています≫


 こんなぼんやりとした相談されても困るよなあと思いつつ、いやな予感のしているケメーは藁にもすがるような気持ちで竹上中将に懸念を伝える。


≪うーむ……そういえば、このあたりではほとんど空に航空機を見かけないな。土地が広いわりにインフラが整っていなくて、飛行場が少なすぎるからか……ん?≫


 竹上中将がそう応答した直後、二人同時に


≪≪それだ!≫≫


と叫んだ。




≪え、さっきのオアシスまで撤退ですか!?≫


 命令を受け取ったツェダが素っ頓狂な声を上げる。


≪そうだ。ケメー将軍が情報部に問い合わせたところ、新疆軍はウルムチに飛行場を建設したことが分かった。我が軍の機体はガルムの飛行場からコルラまで届かない。一度撤退し、前回休憩したオアシスの近くに飛行場を建設するとのことだ≫


 情報部も情報部で、そういう大事な情報はきちんと前線に伝えるべきである。何もかもがバタバタしていた影響だろう。


≪了解。直ちに撤退します≫


 ツェダは指揮下の小隊にも撤退命令を伝え、反転してロプノールに戻ろうとした。

 その時であった。


≪敵機発見!≫


 前哨から敵航空機発見の方がもたらされたのである。


≪第1中隊、散開して遁走しろ!空から撃たれるぞ!≫


 各隊長は同じことを考えたのか、豆戦車たちは一斉にわらわらと南東方面に全速力で逃げ去ろうとした。練度が低いとこういう時に事故が起こるものだが、どうやら彼女たちには関係なかったようだ。


「くそっ、方位175に敵襲撃機!」


 十年式戦闘車の最高速度は42km/hでしかないが、ロシア軍の襲撃機と言えど200km/hは出る。捕捉することは容易だ。


「車長!少し逃げれば奴らの足は届かないはずです!落ち着いて全力で逃げましょう!」

「そうだな!キャロ!私が合図したら全力で左旋回しろ!」

「Aye aye captain!」


 やがて獲物を定めたのか、ロシア襲撃機たちは次々と豆戦車めがけて降下してくる。運悪く、その中にミカたちの乗る中隊長車も含まれていた。


「こっちくんな!くそがっ!」


 いつもとは比べ物にならないほど口が汚くなるツェダ。一方ミカはその悪態にどこか親近感を覚えていたのだが、なぜそんな気持ちになるのかはよくわからなかった。


「うおっ!今だキャロ!」

「Yes, maaaaaaaaaam!」


 襲撃機が機銃を撃ってきたため、ツェダは慌てて車内に飛び込みつつ回避を指示する。

 数秒後、爆音とともに車内が揺れ、砂を被るようなさらさらとした音が車体から聞こえてきた。どうやら襲撃機から投下された爆弾は無事に回避し、その代わり巻き上げられた砂を思いっきりかぶったらしい。


「……まだくるか……?」


 再びキューポラから頭を出して上空を確認するツェダ。少数での襲撃だったのか、もう全機が投弾を終えたようで、北西の空に去っていくのが見えた。


「はぁ~……」


 大きくため息をつく。正直なところ彼女は、ロシア軍に後方を遮断されかけ、敵中を突破して撤退した時よりも命の危機を感じていた。


≪第1中隊、無事か?≫

≪こちら第1小隊、ペマ車の履帯が切れたようです≫

≪第2小隊、被害ありません≫

≪第3小隊だ。ペッツィの奴がオーバーレブでエンジンぶっ壊したが、人は死んでねえ≫


 どうやら人的被害はなかったらしい。足が止まってしまったら格好の的になってしまうが、ペマ・ツェリン(ペッツィ)は運よく標的にならなかったようだ。


≪よくやってくれた諸君。各小隊は足が止まってしまった車両の乗員を回収して速やかにオアシスまで離脱せよ≫


 そんなこんなで、彼女たちは制空権の大切さを身をもって学ばされたのであった。


 これまでほとんどの登場人物が架空の物であった本作ですが、日本軍第12師団の竹上中将と、チベット軍機動第1旅団のケメー将軍、アウ幕僚の3人は実在した人物です。彼らのキャラがこれで正しいかは全く分かりませんが、調べても情報が出てこないのでこれで行きます。


参考文献

http://echo-lab.ddo.jp/libraries/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%A5%BF%E8%94%B5%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E3%80%85%E5%A0%B1/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%A5%BF%E8%94%B5%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E3%80%85%E5%A0%B1%20%20(57)%20(20110731)/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%A5%BF%E8%94%B5%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E3%80%85%E5%A0%B1%20(57)%20005%E6%97%A5%E9%AB%98%20%E4%BF%8A%E3%80%8C1927%EF%BD%9E28%E5%B9%B4%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%9D%E3%83%A6%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%A0%E9%A0%98%E4%B8%BB%E3%81%AE%E5%8F%8D%E4%B9%B1%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%20%EF%BC%9A%20%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%B3%E3%83%9D%E3%82%BF%E3%83%B3%E6%94%BF%E6%A8%A9%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%80%8C%E8%BF%91%E4%BB%A3%E5%8C%96%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%9D%E3%81%AE%E5%BD%B1%E9%9F%BF%E3%80%8D.pdf


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この作品はスピンオフです。本編に当たる作品はこちら

鷹は瑞穂の空を飛ぶ~プラスチックの専門家が華族の娘に転生したので日本は化学立国になります~ 

よろしければご覧ください。
― 新着の感想 ―
[一言] ひー、引き込むつもりとは、相手は持久戦狙いとは怖い。気づいたのが早くて被害が無くて安心。 航空基地ができるまではウルムチ出れないですね 砂漠は遮蔽物がないですし。 どのくらい足留めくらうこ…
[気になる点] 対空も考慮したのに使えなかった九二式重装甲車なんてのもあるなぁ ナゼ車体機関砲で対空射撃出来ると考えたのか···
[一言] 航空優勢は実際大事。もしルーデルのような存在の跋扈を許したら、全戦車が食われるでしょう……この世界でもルーデルは活躍するんですかね。 あと、対空自走砲が欲しいですね。それもドイツみたいに、…
2022/01/14 22:27 退会済み
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