接続
全3線の新彊軍陣地が日本軍歩兵によって浸透突破され、寸断されたころ、ようやく日蔵の戦車部隊も前線に移動した。ゴルムドを半包囲していた新彊軍右翼が、汎用装甲車「コムソモーレツ」のピストン輸送で撤退中だというのである。
第37工場 汎用装甲車「コムソモーレツ」
全長:4.6m
全幅:2.0m
全高:1.8m(兵員輸送車形態)
重量:4.9t(兵員輸送車形態)
乗員数:2名(運転手、車長兼機銃手兼装填手兼無線手)
乗客:12名(歩兵一個分隊分)
武装:7.62mm MT機関銃×1、その他乗客の携行火器が車室内から使用可
装甲:全周10mm
エンジン:GAZ-M 自然吸気4ストローク水冷直列4気筒 50hp×2
最高速度:50km/h
史実のコムソモーレツより全長が伸ばされ、エンジン1基と乗客6名分のベンチシートが追加されている。取り外し式の装甲板を装備して簡易的な装甲兵員輸送車としても使えるようになっており、色々便利ということでロシア陸軍ではよく見かける車両になっていた。
「おーおーやってますねー」
時折放たれる日本軍山砲弾を避けながら、装甲車の車列が野砲や兵士を次々と西方へ運んでいっている。彼らを逃したら、ただでさえ天山山脈に守られているウルムチの防御がさらに固められてしまうだろう。
「逃げる相手をわざわざ追いかけて殺すというのも、それはそれで嫌な感じがするな」
遠路はるばるゴルムドまで走った挙句、敗残兵狩りに参加することになったツェダは複雑な表情を浮かべる。
「悲しいけど、もうこれ戦争なんですよね。情けは我々のためになりませんから」
どこかで聞いたことがある台詞を、ミカがツェダに投げかけた。
「……時間だ」≪教導戦闘車大隊第1中隊、突撃を開始せよ≫
≪騎兵第12連隊、突撃!≫
≪天皇陛下、バンザァァァァアアアアイ!≫
山の稜線を越えて、豆戦車たちが次々と装甲車の車列に突っ込んでいく。装甲車たちは面食らったようで、てんでバラバラな方向に壊走し始めた。
「!……暑苦しい人たちだな」
「ああ、日本軍の方々の突撃、すごく迫力がありますよね」
40mmを次々と装甲車に叩き込みながら、ツェダの独り言にミカが反応する。
「良く聞こえたなミカ……」
「聞こえてはいませんよ。いませんけど、車長がしかめっ面をしていたので、周りの状況から、日本軍の車長の方々が騒がしかったのかなと」
ミカは撃ちきった弾倉を取り外し、未使用の弾倉に交換しながらそう言った。
「……天皇陛下と言うのは、我々で言うところのダライ・ラマ猊下のように慕われているのだな」
「我々も今度やってみます?ダライ・ラマ猊下万歳って」
車両の間を縫うように自車を走らせながら、キャロリンが茶目っ気たっぷりに言う。
「いいアイデアかも」
「まあ、考えておくよ……」
めぐるましく周辺警戒をしながら、ツェダがため息をついた。
≪野砲を牽引しているヤツから仕留めろ!その場で展開されて撃たれると厄介だ!≫
≪こちら4中隊8号車!発動機が死んだ!≫
≪敵に対物銃を持っている奴がいるぞ!注意しろ!≫
注意喚起が無線機から聞こえてくる。無抵抗に逃げ惑うだけの敵だと思っていたが、どうやらいくらかの対戦車能力があるらしい。
「ちゃんと抵抗してくれるとはな。心置きなく戦えてこちらとしてはむしろ助かる」
適宜目標をミカに伝えながら、ツェダが内心を吐露する。戦闘前に言っていた通り、事実上無抵抗の相手を一方的に攻撃するのは抵抗があったようだ。
「だから走り回ってたんですよね?私達」
ミカがタイミングよく発砲しながら言う。
「……そういうことにしておいてくれ」
「あ、これ突撃命令を出した後、その場のノリで機動戦を仕掛けちゃった奴だ」
やっぱり今回もテンパっていたのか、ツェダは突撃して敵の車列を乱した後、停止射撃で落ち着いて撃破するように命令するのをすっかり忘れていた。おかげでチベット軍はむやみやたらに戦場を走り回っており、中には日本軍車両の射線に割り込んで怒鳴られる者も複数人出す惨事になっている。
「車長向いて無いなあ、私」
「第1小隊小隊長と中隊長が兼任なのが一番悪いと思いますよ。各中隊に中隊長車を1両増やした方がいいですね」
あとで戦訓として報告しておこうと、ミカたちは思ったのだった。とはいえ、動き回っていたことでチベット軍車両はここまで被害を受けておらず、結局無傷で今回の掃討戦を終えることができたのであった。
ゲームでも射線に飛び込んできた味方に腹が立つことがよくありました。今となっては懐かしい思い出です。
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