ゴルムドダッシュ
実家から自宅に戻っていたので執筆時間が取れませんでした。ごめんなさい。
「今回の作戦について説明する」
中隊長のキナー・ツェテン・ダワが、黒板を背にしてブリーフィングを始める。
「本作戦の目標は、半包囲されているガルムを速やかに解放せしめ、兵力を輸送し、劣勢な現地守備隊を救援することにある。事前に伝えられた通り、我が教導戦闘車大隊と日本軍第12師団の隷下にある騎兵第12連隊は、許される限り全力でガルムに向かって突進することが求められる」
ツェダはナクチュからゴルムドに向かって大きく矢印を描いた。日本軍では騎兵科で戦車を運用するため、騎兵第12連隊は十年式軽戦闘車を装備する立派な戦車連隊である。
「中隊長!質問があります!」
「なんだキャロリン候補生」
ツェダが発言を許可すると、キャロリンはわざとらしく仰々しいしゃべり方で質問を始めた。
「我が軍の戦闘教義によれば、戦闘車は常に歩兵との連携をとり、側背面からの奇襲を受けないように進撃するものとされております!」
この小説をわざわざ読みに来る方には常識かもしれないが、戦車の防御力と言うのは割とあっさり無効化されてしまうものである。と言うのも、戦車の視界は乗用車の比ではないくらい狭く、死角が多いため、物陰に潜む歩兵や砲兵から奇襲を喰らって撃破されやすいのだ。
「しかしながら、おそらく随伴歩兵を務めるであろう日本軍第12師団は、一般的な歩兵師団であり、我が方の進軍速度についていけないように見えます!これでは我々も下車して歩いた方がいいのではありませんか!」
あちこちで笑いをこらえているような息遣いが聞こえる。初めて教官と離れて戦場に出るため、カチコチに緊張している者もいたが、少しはほぐれたようだ。
「……えー、キャロリン候補生の言う通り、一般的な歩兵では戦闘車の足に追いつけないのはその通りだ。そこで、第12師団は大量の自転車を使用して我々に随伴してくれる。これにより全力とはいかないが、接敵していない時の進軍速度は12km/hが確保できる計算だ」
いわゆる銀輪部隊である。接敵してしまったら自転車を降りなければならず、進軍速度が徒歩と変わらなくなってしまうが、豆戦車側も敵の防衛線を押し通るような装甲はないので問題はないだろう。
「了解いたしました!ありがとうございます、中隊長殿!」
やっぱり仰々しく礼を言ってキャロリンが着席した。まだ複数人が笑いをこらえている。
「さて、実際のところ、話そうと思っていた作戦の大部分は先ほどの通りだったんだ。自転車に乗せた歩兵を随伴させ、戦車を突っ込ませて敵防衛線を突破。敵司令部を蹂躙しつつガルムとの連絡を復活させ、もしこの時ガルム守備隊が別方面から攻撃されていたなら、補給を受けたうえでそちらの救援に向かう、と言った感じだ」
「中隊長、質問良いですか」
今度はツェダと同学年のペマ・ツォモである。
「どうぞ」
「ガルムでは補給が受けられるのですか?もう2週間ぐらい孤立していたと思いますが」
彼女はろくに補給ができないまま、ガルム守備隊の増援として連闘することを心配しているようだ。
「少なくとも燃料の補給はできるだろう。製油所はまだ健在らしい」
「弾薬は……?」
「現地にも陸軍工廠から、40mm砲弾はまだ在庫があるとの連絡が来ている。とはいえ早い者勝ちかもな」
「早い者勝ち?」
一緒に戦う日本軍騎兵第12連隊と取り合いになりそうなのだろうか、とその場の者達が思っていると、ツェダが複雑な表情で答えを告げる。
「民国との戦線に散らばっている戦闘車と突撃車を集めて、我が国も機動旅団を編成しようという話が持ち上がっているらしい。そいつらの集結地がガルムなんだ」
「中隊長、その機動旅団、もしかして我々も頭数に数えられてるんですか?」
なんてことはなさそうにミカが聞くと、ツェダは辛そうにうなづいた。隊員たちの反応はバラバラである。
顔も知らない熟練兵たちと肩を並べることにおじけづく者。
学校も卒業しないままなし崩し的に少尉にされそうだとげんなりする者。
一応、国から頼りにされていることに自信をつける者も少数居た。ミカもどちらかと言うとこのグループである。
「いいか、我々はまだ士官学校も卒業していないひよっこだ。少しでも危ない気配を感じたら、敵前逃亡にならない範囲で退避しろ。大隊長のテンジン・タシ少佐からもそう厳命されている」
ざわついていた隊員たちが静かになる。少なくとも大隊長は、自分たちの身を案じてくれていることに気づいたのだ。
「何においてもまず生きて帰れ!そしてちゃんと卒業式に出席しよう!以上、解散!」
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