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反撃ののろし

 独立教導混成連隊は解散したが、その指揮下にあった教導戦闘車大隊は士官学校に復帰できなかった。ラサ防衛戦での活躍、特に第1中隊の敵中突破が評価されたこと、何より、貴重な機甲戦力を手放したくなかった軍部の思惑から、引き続き前線で戦うことになってしまったのである。


「かわいそうに……戦闘処女ではなくなったとはいえ、まだ士官学校も卒業していないだろ……」

「我が国も、本土に上陸されたらこうなってしまうのか」

「こいつはくせぇ……末期戦のにおいがプンプンするぜ……」


 もしかしたら自分たちの国も海軍の強い国……たとえばアメリカあたりと戦争になり、負け続けたらこうなってしまうかもしれないと思い、日本軍の将校たちは戦慄した。


「勇敢なるチベット鉄騎兵、新疆・ロシア連合軍を撃退!」

「戦友の死に涙する鋼鉄の乙女!彼女達の謎に迫る!」


 戦慄したといえば、チベット王立士官学校生達も、新聞紙上での自分達の扱いに動揺していた。活躍を誇張するのは序の口で、容姿をやたら褒め称えたり、聞いたこともないようなお涙ちょうだい話が捏造されていたりなど、どこまで本当でどこまで嘘かがわからないような事が大量に書かれていたのである。


「……なあにこれ。全部嘘っぱちじゃない」


 キャロの読んでいた英字新聞を後ろから斜め読みしたミカが、あきれたようにそう口にした。


「まあ、自分で言うのもあれだけど、まだ士官学校も出ていないうら若き乙女たちが、欧州大戦で活躍したロシア人たちを撃退したんだもの、そりゃ外国メディアが騒ぐのも無理ないんじゃないの」


 新聞を読む手こそ止めないが、キャロもだいぶうんざりしている様子である。


「女の人が車とか飛行機に乗るようになったの、我が国ではそこそこ昔からなんだけどなあ」

「定期的に民国との領土紛争を取材していた新聞社は、その辺わかってる感じのことを書いているみたいね」


 そう言ってキャロリンはミカに別の新聞を渡す。


「チベット戦闘車部隊強し!ロシア義勇兵相手に文句なし!圧勝!」


 そんな大見出しが躍っていた。ミカ個人としては戦略的勝利、戦術的敗北という認識であったが、死傷者で見ると新疆・ロシア側が4倍以上の損害を出しているため、数字を見たこのメディアはそう受け取ったらしい。


「確かにさっきのよりはマシかな……」

「とはいえ、国威発揚だとか、同情を買うだとか、そういった観点ではこれくらい書いてくれた方がいいんじゃないかなあ」


 何かをあきらめたような顔をしながら、キャロリンはそう言って新聞をとじた。




 初陣前にツェダが言った通り、守ってばかりではジリ貧である。後づめのインド人達が続々と到着し、日本から数両のジムニートラックが空輸されたことを受けて、教導戦闘車大隊の編成も変更された。


教導戦闘車大隊

├大隊本部

├戦闘車第1中隊:十年式軽戦闘車×9

├戦闘車第2中隊:十年式軽戦闘車×9

├自走砲中隊:自走三八式野砲(ジムニーテクニカル)×9

└その他諸隊


 損害を受けた3つの中隊を2つに再編し、空いたところに自走砲中隊を新設したのである。字面だけ見ればとてもアジアの小国の編成には見えない立派なものだ。


「まだ士官学校を卒業していない者たちを動員しているというのは大変心苦しいが、その1点を除けば我が国でここまで立派な部隊を運用できる日が来たというのは誠に喜ばしいことだ」


 戦車は6t未満の豆戦車、自走砲も三八式野砲を荷台に載せたジムニートラックのテクニカルとその実態はお寒い限りであったが、チベットの地形を考えるとこのくらいの方がむしろ取り回しやすく、十全に力を発揮できるともいえる。


「まだ教えることがたくさんある者たちを戦場に送り出すというのは、教官の立場からすれば痛恨の極みなんだがな、テンタ少佐」

「君は昔から途中で仕事をほっぽり出すのを嫌うやつだったもんな……心中お察しするよ、萱場教官」


 テンジン・タシ少佐はチベット独立紛争の時からたたき上げで昇進してきた萱場の戦友で、ついこの前少佐に昇進したばかりであった。


「この大隊だって、上からは君が指揮してほしいと言われていたんだろう?」

「俺だって彼女たちの面倒をみてやりたかった。でも自分には教官の仕事がまだあるし、何より、前線指揮官としては致命的に野生の勘が鈍ってしまっている」


 ヒヨッコたちの面倒を見続けることは、様々な理由で萱場には難しかったのである。


「君の思いはしかと受け取った。安心して……とは口が裂けても言えないが、やれるだけのことはする」


 友の心中をおもんばかりつつ、テンタはそう誓った。




 教導戦車大隊の再編成が行われている間に、大日本帝国陸軍第12師団は新疆軍に逆襲を行う。攻撃を撥ね返されて態勢が整っていなかったことから、ナクチュはあっさりと奪還された。


「ひどいね……」

「噂には聞いていたが、実際に見ると堪えるな……」


 砲塔から頭を出していたミカと、萱場に代わって1号車車長(つまり第1小隊長兼中隊長)に就任したツェダは、略奪されたとみられるナクチュ市街の惨状に眉をひそめている。


「ガルム-ラサ間の物流の中継基地だから、結構な物資が積まれてたんでしょ?奴らにとっては喉から手が出るほど欲しいよね」


 なんともなさげに、操縦席のキャロリンがそんなことを言う。実際のところ、東トルキスタンにはそこかしこに油田やガス田があるのだが、この時は未開発であったし、それを知るものはこの辺りにはいない。


「ここからガルムまで一気に打通するって聞いてるけど、私たち何をやらされるんだろうね」

「というか、歩兵の人たち、ついてこれるのかな。小型トラック(エルフ)は持ってるみたいだけど、兵士を乗せるためのものじゃないみたいだし」

「まあ、大隊長殿のお手並み拝見と行こうじゃないか」


 前回の戦いはよくわからないうちに戦場にきて、余裕のない防衛戦をしたが、今回はこちらが主導権を持つ攻撃側である。また、運用幹部も勝手知ったる教官連中ではなく、民国との前線から引き抜かれてきた士官たちにバトンタッチされていた。信頼に足る上官たちなのか、興味半分不安半分といった形で、集合場所へと愛車を走らせた。

 話の進みが悪くて申し訳ないです。

 チベットの軍人、将軍クラスでもほとんど名前すら残っていないのですが、逆にここまで歴史が変わってしまえばやりたい放題できるという意味でもあるので、史実がどうだったか調査の必要がある日本軍よりも人名をひねり出す手間以外は楽かもと思い始めました。


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この作品はスピンオフです。本編に当たる作品はこちら

鷹は瑞穂の空を飛ぶ~プラスチックの専門家が華族の娘に転生したので日本は化学立国になります~ 

よろしければご覧ください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、細部が残されていないから、創作の自由度が大きい。期待‼️ 史実と最初から違う英国とチベットとの関係が、どうなるのかが重要ですかね。
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