The Tibetan Sand Fox
ツイッターをやっていたら天啓が降ってきまして、衝動に従って書き始めてみることにしました。
見切り発車ですが、今作でもよろしくお願いいたします。
1930年某日、カザフスタン方面。
「第3小隊、通信途絶!」
「第2小隊、指揮官戦死!」
「中隊長、敵勢力に対して我が方の戦力は少なすぎます!我が第1小隊もこれ以上持ちこたえられません!撤退の許可を!」
「むむむ……」
中隊長は悩んでいた。
本作戦はチベット陸軍との合同作戦であり、主攻である「機動第1旅団」がカラタルから攻勢発起してマカンチを突破し、北西に約40km離れたウルジャルまで一気に進撃するというものである。初動はうまくいき、機動第1旅団は現在ウルジャルを攻略中とのことだが、後方のバラクパイ近郊で南西方向から反撃を受け、現在彼の中隊が防衛に当たっているのだ。
ここを抜かれてしまうと、先鋒のチベット軍が孤立してしまう。
「撤退は許可できないっ……!少しでも現時点での持ち場を死守し、友軍が到着する時間を稼ぐのだ!」
中隊長は遠い異国の地で護国の鬼となる覚悟を決めた。
「……了解!お供させていただきます!」
「よろしい!敵は十倍と言えど恐れるな!日本男児の意地を見せてやれ!」
とはいえ、気合で敵が殺せるなら今頃日本は覇権国家になっている。衆寡敵せず、戦況はどんどん悪化していった。
「ぐあああああ!」
運悪く砲弾が至近に落ちた兵士が、轟音とともに吹き飛ばされる。この調子では、所属する大隊からの増援が到着するまで持ちそうにない。
「くそっ、増援はまだか!」
「先ほどチベット軍から『そろそろ腕扱きの戦車兵がそちらに着くはずだ』との連絡がありました!」
「そいつはたすかぬぁぁああああ!」
塹壕内で部下とやり取りをしていると、近くで榴弾が炸裂したらしく、中隊長たちは爆風で壕内にたたきつけられる。
「くそっ……もうこんなところにまで……」
何とか立ち上がった中隊長が壕から外を覗くと、遠くの方に歩兵戦闘車──この世界線の日本では突撃車と呼ばれる──が数両来ていることが分かった。先ほど自分たちを吹き飛ばした砲弾は、あの車両群のいずれかから放たれた物だろう。
「……ここまでか……」
中隊長が絶望した直後、敵突撃車が慌てたように旋回したと思ったら、次々とあるものは爆発し、あるものは炎上し始めた。遅れて、機関砲の発射音があたりに響き渡る。
「まさか、間に合ったのか……?」
音のした方を見ると、9両の豆戦車……十年式軽戦闘車が、ちょうど敵突撃車に砲を向けているのが見えた。おそらく彼らが、ロシア突撃車の側面を攻撃し、自分たちに突っ込もうとしていた一群を撃破したのだろう。
陸軍技術本部 十年式軽戦闘車
全長3.7m
全幅1.9m
全高1.8m
乾燥重量:4.8t
戦闘重量:5.9t
乗員数:3名(運転手、車長兼無線手、砲手兼装填手)
主砲:毘式四十粍機関砲(ヴィッカースQF2ポンド砲)
装甲
砲塔正面:25mm
砲塔側面:13mm
砲塔天蓋:7mm
砲塔背面:7mm
車体正面
上部:13mm30°
下部:13mm30°
車体側面:13mm90°
車体背面:7mm90°
車体上面:7mm
車体下面:7mm
エンジン:帝国人造繊維"A040C" 強制掃気2ストローク強制空冷水平対向4気筒
最高出力:120hp/3000rpm
最大トルク:34.7kgm/1400rpm
最高速度:42km/h
軽戦闘車たちは稜線の裏に出たり入ったりを繰り返し、眼前の敵歩兵を次々掃討していく。また、1両はそれに参加せず、中隊長たちが守る陣地へと走ってきた。
中隊長を含む第1小隊の生き残りたちが呆然と味方戦闘車を見ていると、やがて陣地近くにできたクレーターの中に戦車を止めて、車長と思しき女性──と言うよりもはや少女である──が降車した。彼女は塹壕内に滑り込むと、中隊長たちのもとへ駆け寄ってくる。
「お待たせして大変申し訳ございませんでした。チベット陸軍、機動第1旅団所属、カヤバ・ミカ・サカダワ少尉です」
少尉は敬礼し、流暢な日本語でそう名乗った。この世界線のチベットでは日英からの投資によって急増する生産力・技術力に対し、あまりにも軍人の成り手──正確には絶対的な人口──が少ないため、陸軍では戦車と航空をはじめとするいくつかの兵科において、女性の士官学校入学を認めている。と言うか、男性はみんな歩兵科に取られてしまうため、「乗り物に乗って戦う兵科」の士官は女性ばかりであった。
「歩兵第12師団で中隊長をしている長田大尉だ。この度はわが隊が窮地に陥ってしまい、大変ご迷惑をおかけしてしまった。力不足で申し訳ない」
数か月程度チベットで高地戦訓練をしていたため、そうした事情を知っている彼であったが、それでもやはりうら若き女性に助けられてしまったことを情けなく思い、感謝するより先に謝罪してしまう。
「おなじチベット三州で暮らし、身を鍛え、そして戦った仲じゃないですか。このくらいはお安い御用ですよ」
そんな中隊長を元気づけようとしているのか、あるいは生来楽天的な性格なのか、まだ二十歳にもなっていなさそうな女性士官は明るい調子でそう答えた。
戦闘描写うまくなりたいなあ……
1/5:ミカの階級を士官候補生から少尉に変更