天司と死神の初バトル
勢いよく振り下ろされた戦斧に、木はメキメキと軋む音を立てて倒れた。
「す……すごい力だな……」
呆気に取られるケイだったが、マイは「……違う」と言って別の木に向かってもう一度戦斧を振りかざす。
刃が木に触れた瞬間、生気に満ちていた葉は枯れ、太い幹はみるみるうちに萎んでしまう。
「これが死神のスキル」
そう言ってマイはメニューを開いてケイに見せた。
〈死神の力〉装備中の武器が対象にヒットした際、確率で相手を即死させる。即死が失敗した場合はクリティカルヒットになるという、相手の命を刈り取る死神を連想させるスキルとなっていた。
「木が真っ二つになったのはクリティカルになったお陰ってことか」
マイはその通りだと頷く。
「じゃあお互いのスキルはわかった事だし、モンスターとの戦いに行きますか!」
準備が整った2人はモンスターがいそうな場所を探して歩き出すが、ケイは不意に腕を掴まれた。
「お兄……まだマイ達の目標、決めてない」
2人はどのゲームをする時でも必ず目標を決めていた。レースゲームをする時には最速ラップを叩き出すだとか、シュミレーションゲームでは所持金をカンストさせて借金を返済するといった目標を立てていた。
今回も目標を立てたいとマイは考えていた。
「上以外無いだろ?」
そう言ってケイは歩く。マイは静かに笑みを浮かべケイの後を追う。
2人はさらに奥の方へと進む。しかし一向にモンスターは現れる気配がない。
「だあああ! 全然いないぞ!? 他のプレイヤーに狩られてんのか?」
「んー……あっ」
何か閃いたマイは戦斧を構えると近くの木を探す。良さげな木を発見すると、てくてくと歩いて発見した木を目掛けて戦斧を振りかぶった。ズドンと大きな振動が響き渡る。すると、先ほどまで気配の気も無かった茂みがガサガサと動く。
「ナイスだ! マイ!!」
マイの閃きを褒めるとすぐさま茂みに弓を射抜く。すると数体の影が空中に飛び出すとケイ目掛けてキックが繰り出される。咄嗟に弓から盾に切り替えて攻撃を防ごうとしたが1体のキックをお腹で受けてしまい吹っ飛ばされる。
「痛っ……初手で腹はダメだろ」
顔を上げたケイの瞳にいたのは5匹の兎。追撃しようと近づいてくる兎にケイはすぐに立ち上がり盾から槍に切り替える。
「一発蹴りが入ったからって調子に乗るなよ!」
ケイは1回転して槍の柄を勢いよく飛びかかる兎に運よく全匹ヒットさせて空中へと打ち上げる。
「マイ! 後は任せる!」
「……ラジャ」
マイは兎の後を追いかけるようにジャンプして1列に綺麗に並んだタイミングを見計らうと戦斧を縦に振り下ろす。空中で身動きの取れない兎達は手足をジタバタさせて戦斧から逃れようとするが、それも虚しく戦斧がヒットして地面へと叩きつけた。
傷ついた兎達の頭上付近に表示されていたH Pゲージが緑から赤へとみるみる内に減っていき、赤い部分も消える。
H Pがゼロになった兎達は何も残すこと無く光の粒子となり消えていく。
華麗に着地したマイとお腹をさするケイの頭上にLv アップの表示と音声が流れた。
『レベルが上がりました』
システムの音声に続いてマイの頭上にスキル取得の表示も現れた。
『スキル〈狂人〉を取得しました』
「お兄ナイスアシスト」
そう言いながらマイは取得したスキルを確認してみる。
〈狂人〉スキル保持者は敵の数が2匹以上の場合攻撃力がアップする。数が増えるごとに自身の攻撃力が更に上乗せされる。
〈取得条件〉5匹以上の敵を無傷の状態で同時に倒すこと。
「マイはどんどん脳筋化してきてるな」
横から覗いていたケイは笑いながらマイの肩を叩いて先へ進む。ケイの脳筋発言が気に食わなかったマイは頬を膨らましながらケイの背中を何度も軽く殴りながら2人は奥へと進んで行った。