天司と死神の初期設定
2人が目を開くとそこはいつもの部屋ではなく、星々が無数に広がっている空間に立っていた。
ゲームの世界に入っている事に気づいた2人は周りを見渡すことも無く、すぐさま設定段階に取り掛かる。
「……お兄、名前どうする?」
「本名でやってもだしな……いつものやつにしとこうぜ」
司の言葉にコクリと頷いた舞菜は名前の入力画面に〈マイ〉と打つ。司も自分の画面に〈ケイ〉と打ち込む。
「何時見ても安直な名前」
「妹よ。その意見には激しく同意するが、これ考えたの君だからね?」
2人の名前を考えたのは妹の舞菜である。数年前に2人でオンラインゲームをする際に名前付ける時、兄妹だから〈ケイ〉〈マイ〉で良いだろう。という理由から、以来2人はずっとゲーム内ではこの名前を使っている。
名前を入力し終えた次は、武器選択……ではなく、ゲームシステムからメッセージが表示される。
[これからあなたのクラスを選定します。画面に手をかざしてください。なお、通常クラスから別の通常クラスへの変更は可能ですが、エクストラクラスから通常クラスに変更する事ができませんので注意してください。]
「クラスガチャって事か? 運ゲーの臭いがプンプンするな」
期待していただけに、想像と少し違っていた事にちょっとした不満を吐く司。舞菜は無言のまま画面の指示に従う。
[クラス選定します。画面に手をかざしてください]
「はいはい」
司もシステムの言われた通りに手を画面にかざす。待たされている合間にWWOの攻略サイトを調べながら時間を潰す。
「スキル取得方法、最強クラス、おすすめの武器におすすめの狩場所……まだリリースされて間もないのに情報更新が盛んだねぇー。……ん?」
正確なのか否か判らないが、画面の向こうで誰かが膨大に書き込んだ攻略情報を流し見する司は、1つ気になる箇所に目が止まる。そこに記載されている注意書きに「へぇ」と、いう表情を浮かべながら続きを読もうとするが、その手を止める。
[クラス選定が完了しました!]
システムからの表示と同時に司はサイトを閉じ、自分のクラス選定に期待に胸を膨らませて待つ。
[ケイさんのクラスは……天司クラスとなりました。エクストラクラスなので、専用スキルが存在します。後で確認してください]
「天司……めちゃくちゃ強者な感じがする! これは当たりを引いたのでは?」
そう言って司は先ほどの攻略サイトを再度開いて調べに取り掛かる。
〈エクストラクラス:天司〉
天の力を司る者。幾多もの力を有しているが故に、使い方を違えれば地に堕ちるだろう。
エクストラクラスの中で最もトリッキーなクラス。負傷している者を癒し、前線に出て闘える力を持ち得ている。火力の出し方は使い方次第なのでここでの記載は不可。単純な火力を求めたいなら別のクラス推奨。〈専用スキル現在調査中〉
結果、エクストラクラスの中で天司は弱くはないが、扱いが難しいと言った所だろうか。
「……まぁ慣れれば大丈夫か」
「ねぇ、お兄のクラス何だったの?」
舞菜の質問に天司というエクストラクラスだった事を伝える。ついでに扱いが難しいことも一応伝える。
「ふーん。お兄が天司……ふふ。似合わないね」
珍しく舞菜の口角が少しだけ上がる。
「そう言うお前は何のクラスだったんだ?」
舞菜は自分の画面を指でクルリと反転させ、司の前に持っていき「これだよ」と、誇らしげな顔で司の顔を見つめる。司が舞菜の画面を注視してみると[死神]の2文字が表示されている。司はそれを見るや否や、すぐさま攻略サイトを開いて死神クラスを調べ始める。
〈エクストラクラス:死神〉
死の力を司る者。傍若無人な死神は狙ったモノを逃す事は決してしない。逃げ切ったとしても安心してはいけない。死神は常に背後から迫り来る。
耐久面は多少乏しいが、火力はエクストラクラスの中ではかなり強力な部類。遠方からでも闘う事が可能だが、前線に出てこそ本領を発揮できる。〈専用スキル現在調査中〉
書かれている事は天司と大体同じなのだが[死神]という、いかにも強そうな2文字にかっこよさを感じずにはいられない司。それに加え、舞菜の無駄に勝ち誇った顔を見せつけられている司は何故だか腑に落ちないまま「良かったね」と言って舞菜に画面を返す。
[クラス選定は以上で完了です。もう一度やり直しますか? はい いいえ]
指が磁石に反応しているかのように、司の手は[はい いいえ]画面の前で何度も右往左往する。
このまま始めても良いが、他のクラスに興味がないわけでもない。クラスはランダムで決められるから天司がもう1回出てくるとも限らない。どうしたものか……。
「兄……お兄ってば」
「……舞菜さん? 僕はいま考え事の最中なんですけど」
しつこく袖をグイグイと引っ張る舞菜に司は思考が止まる。
「このまま始めようよ。死神と天司ってかっこいいから、このまま始めたい」
頭の良い舞菜の言葉とは思えない程素直な意見を述べる。司は舞菜の率直な言葉に先ほどまでの悩みは自然と消えてしまっていた。気がつくと司の指は[いいえ]の表示に指を合わせ重ねる。
「そうだな……かっこいいもんな。さすが俺の妹だ」
そう言って司は感謝と妹を愛でたい為に舞菜の頭を撫でる。
「お兄の妹だもん。当たり前…………お兄?」
撫でられている事に満更でも無い様子で答える舞菜だったが、延々と撫で続ける司に疑問を抱く。
「って、凄いな! ちゃんと髪の毛の感触がするぞ」
妹の髪の毛の感触に興奮して撫でる手を止めてくれない司に対し、舞菜は司の手を掴んで頭に触れられない位置に浮かせて頬を膨らます。
「悪い。可愛い妹の頭だったから止めるタイミングを失った」
流石に悪いと思ったのか、引っ込めた手で合掌して軽く謝るが舞菜はそっぽを向く。
「……知らない」
舞菜の機嫌を直そうと色々と試してみるが、舞菜は目を閉じたまま聞く耳を持とうとしない。その2人の間を割って入るように、ゲームシステムが大きく表示を出す。
[セットアップは以上で完了です。WWOの世界を楽しんで下さい!]
空間に散りばめられている星々の光が徐々に強まりながら2人を包み込む。
新たなアバターとしてケイとマイが始まりの広場へと放たれた!