天司と死神と女の子
〈リーブル森林〉のとある場所。そこに男女がモンスター達と戦闘をしていた。
男は襲い掛かるモンスターを軽々となぎ払い倒しているが、女は迫り来るモンスターに苦難していた。
ピャアー!
「わっ……! 1人じゃ無理だよ……お兄ちゃん……助けて……きゃああ!」
女に飛びかかるモンスターを横から剣を振るうとモンスターはたちまち光の粒子となって消えていく。
「ルーナ……そろそろあれくらい倒せるようになってくれ」
「ごめんなさい……リアお兄ちゃん。急に飛び掛かられると身体が強張っちゃって……」
倒れ込んだルーナはおぼつかない足で立ち上がって頭を下げる。
深いため息をついたリアは辺りにモンスターがいないことを確認するとルーナを置いてそそくさとその場を離れる。ルーナも兄の後を急ぎ足でついて行く。
「お兄ちゃん……待って……っ!」
「しばらく別行動しよう。レベル差もついて来たことだしさ、ルーナもゆっくりレベル上げしたいだろうし」
「えっ……?……でも……私はお兄ちゃんと遊ぶの楽しい……よ?……」
「俺も楽しいけどさ……ルーナがダンジョンをクリアしたらまた一緒に遊んでやるからさ」
思いがけない言葉を兄の口から聞いたルーナは何も言えずその場に立ち止まってしまう。足を止める様子のないリアはそのままルーナを残して立ち去ってしまった。
「……お兄ちゃん……」
悲しさと虚しさの入り混じった瞳で兄の背中を見つめるが、そこに兄の姿はもういなかった……。
それからしばらくして……。
プレイヤーが滅多に来ないほどの森の奥。ルーナは1人モンスターの群れと戦闘していた。
「やっ!……はぁ……はぁ……」
最後の一体を倒すことができたルーナの頭上にレベルアップの文字が表示されたことを確認してへたれ込んだ。
「もう少しレベルを上げられたらダンジョンも余裕ができる……でももしかしたら、今ならダンジョンクリア出来るかもしれないっ……!」
早く兄と合流したいルーナは急ぎ足でダンジョンへと向かった。
しかし数分後、ルーナは逃げ足でダンジョンから逃げ出していた。中にいたゴブリンや鉱石の結晶のモンスターに怖気付いて逃げ出したのだ。
ダンジョン前で息を荒げるルーナの様子をみたプレイヤー達はクスクスと笑いがら素通りしていく。
「……やっぱり、ダメだ……もっとレベル上げしよう……昨日のイベントの人、強かったな……私もあの人達みたいに強かったら、お兄ちゃんに迷惑かけずに済むのにな……」
昨日のイベントを広場で見ていたルーナはプレイスキルの差に落ち込んでしまう。己の未熟さを嘆きながら再びモンスターを狩にゆっくり歩き出した。
一方その頃、
イベントを終えた翌日、ケイとマイは……遥か上空から落ちていた。
「「うわああああああっ!!」」
「お兄……っ! 早く、翼出して」
翼を広げようと意識するが、翼は折り畳まれたまま一向に広がる様子はない。ケイの画面にはアクション使用不可の文字。
「無理だ! アクション不可になって出せないんだよっ!! なんで上空上限に来たらアクション不能になるんだよ! つーか、この高さから落ちたら流石に死ぬか!?」
「……あっ、マイは〈影移動〉あるから大丈夫だ」
そう言ってマイはケイの背中にしがみ付いて黙り込む。
「ちょっとマイさん!? 君が「空に上限あるのかな?」って言ったから飛んであげたんだぞ!? 1人で助かろうとしないで俺も助かる方法考えてくれ!」
「……お兄ごめん……」
「諦めるなー! 初めてのゲームオーバーが落下死なんて死んでもごめんだっ!!」
徐々に落ちて来る速度が上がると共に地面との距離も近づいてぶつかる直前。
ケイが諦めかけたその時、
アクション〈天司の翼〉使用可能
「きたっ! ちゃんと掴まってろよマイ!」
ケイが意識すると今度は思い通りに翼が広がることを確認すると勢いよく羽ばたかせると森の辺り一体に風を巻き起こしながら速度を減速させることで地面との直撃は免れた。
「……危なかったね」
ケイの背中からぴょんと跳び離れたマイは何故だか楽しげな顔を浮かべる。それを見て一瞬落胆するケイだったが、マイの顔を見て気が抜けてしまったケイはバタリとその場で倒れ込んだ。
「お兄、お兄……お兄ってば」
倒れている横でケイを突くマイ。
「なに? 兄ちゃん心臓バクバクなの、少し休ませて」
しかし突くことを止めないマイにケイは顔をあげる。
「お兄、あそこ」
「あそこ?」
「空から人が降ってきた……」
マイの指差す方に顔を向けた先には女の子が1人腰を抜かして2人を呆然と眺めていた。