天司と死神のイベント前半
「幸先いいね……お兄、あれ何?」
上の方を指差すマイに続いてケイも上を見上げた。そこには丸い球体のような物が2人の周りをフワフワと漂っている。試しに弓を構えて矢を球体目掛けて放つと、矢は球体をすり抜けてアーチ状に草むらへと落ちていった。
「多分カメラじゃないか? 弓当たらなかったし。気にしないで相手探しに行こうぜ……ん?」
カメラを放置して歩くケイの前方には草むらから尻餅をついたプレイヤーが驚いていた。恐らく、ケイが放った矢が偶然プレイヤーの前に刺さったからだろう。プレイヤーはケイに気付かれたことに気づくとすぐさま立ち上がる。
「奇襲失敗! 全員でやるぞ!」
声を合図に辺りの草むらがガサガサとプレイヤー達が2人の前に現れた。パッと見で数えて約12人くらいだろうか。どうにかして上位に入ろうと結託したプレイヤー達が2人に向かって駆けてくる。傍から見れば卑怯に見えるが反則ではないのだ。
「数の暴力すぎるだろ! マイ、退くぞ」
広場の中央に立っている2人にとって不利な状況を判断したケイはマイを連れて森の方へと逃げていく。4チーム分のプレイヤー達が後を追いかける。
森の中を走る中、マイは考えていた。
あの程度の数なら倒せるのでは? と。
「お兄、マイを抱えて木の上の方まで飛べる?」
〈天司の翼〉発動
「任せなさい!」
何か考えがあるのだと感じ取ったケイはマイを抱えて高く飛翔して主枝に降り立つ。バレていないかこっそり下を見てみるが、バレている様子はないのでひとまず胸を撫で下ろす。
視界の悪い森だったのが良かったのか、追いかけていたプレイヤー達は2人が急に消えた事に戸惑いながらも周囲の捜索を続けていた。
「それで、どうするんだ?……マイさん?」
「お兄のスキル発動……してる……うん。〈ライフドレイン〉……行ってきます」
ケイの質問には全く答える気がないマイはブツブツ独り言を呟く。かと思えば、マイはフードを頭に被り鎌を手に持って主枝からフワリと飛び降りて行った。華麗な着地を決めたマイに気づいたプレイヤー達は各々の武器を構えて詰め寄り、攻撃を仕掛ける。なるべく避けるように動いているが相手は実際にプレイしている人間である為、予想通りの動きをしてくれるわけではない。
1人のプレイヤーが振り下ろした剣がマイの左腕に一撃を加えたことによってマイのH Pが減るが、マイが反撃の鎌を一振りすると減ったH Pは元通りに回復していく。
〈逆王手〉発動
[スライムリング]効果発動
〈ライフドレイン〉発動
〈天司の加護〉発動
〈狂人×12〉発動
「……刈り取るね」
鎌を構えたマイは相手プレイヤーの攻撃を受けてもお構いなしに鎌を振り回して走り廻る。苦労して手に入れたスキルのおかげでH Pは減っては回復を繰り返しているので相手から見れば不死身そのものである。そしてケイのエクストラスキル〈天司の加護〉とマイの〈狂人〉スキルの組み合わせによって相手プレイヤーはほぼ一撃で光の粒子となって消えていく。
無情で冷酷に切り裂いて相手を刈り取るその姿はまさに死神。
「……ふぅ。お兄もう降りてきていいよ」
一通り刈り終えたマイは立ち止まってフードを脱いでケイを手招きした。羽ばたきながら舞い降りたケイは勢いよくマイに近寄る。
「マイ凄いな! あんだけいた人数を1人で倒すなんて凄いぞ!」
「……でも数人逃した」
「数人がどうした? あいつらはマイに勝てないと思ったから逃げたんだ。それほどマイが最強に見えたって証拠じゃないか! あんなにかっこいいの見ることができて兄ちゃん嬉しい! もっとこっちに近う寄れ! ホレホレ」
「お兄のスキルもあったから……倒せると思った……ふふっ」
ケイ興奮した様子でマイの頭や頬をこれでもかという程撫でまくる。満更でもないマイはしばらくされるがまま兄の愛情表現を受け入れるマイなのであった。