天司と死神のイベント前日
「というわけで、本日は森に行って明日のイベントに向けてのスキルを習得したいと思っております。何か質問がある子はいますか? はい、マイさん」
「先生……どうやってスキル習得するんですか」
「……分かりません! 色々試してみましょう」
ケイとマイは昨日に続いてW W Oにログインしていた。広場で遠足の引率をする先生と生徒の真似事をする2人は準備を整えて森へと向かう。
「さてと、着いたのは良いけど何からするかな……普通のゲームならレベルアップで覚えるもんだけど」
昨日手に入れることが出来たスキルは全て偶然の産物であって、2人が狙って手に入れられたわけではない。それにW W Oはレベルに関係なくスキルを得ることができるが、逆に言えば取得条件が整わないと一生取得できない可能性もある。自分からスキルを習得するとなると結構難しいものであるのだ。
「ひたすら攻撃を貰ったり……ひたすら攻撃を続けたりとか?」
「それで試してみるか。マイ、昨日のモンスターをおびき寄せるやつやってくれ」
マイは鎌を持つと木に向かって振りかざす。クリティカルヒットした木は真っ二つになって地面に叩きつけられて大きな振動が発生した。
身の危険を感じたモンスター達。兎の群れ、針を隠し持っている大きな虫、空中には羽を飛ばしてくる鳥。地上から空中まで様々なモンスター達が2人に襲い掛かる。
「マイは攻撃に集中してくれ! 俺はこれでっ! 延々と……弾く!」
盾を手にとったケイは襲いかかってくるモンスターが攻撃する瞬間を見計らって攻撃を弾く。攻撃を弾かれたモンスターは無防備になり、しばらくするとまた襲い掛かる。それを繰り返して何かスキルが手に入らないかと考えた。マイはモンスターの攻撃を喰らいながらも攻撃を続けるスタイルのようだ。
それから1時間後。
『スキル〈リフレクトパリィ〉を習得しました』
システムの音声が聞こえた瞬間ケイは「ふぅ」と、息を吐いて座れそうな木に腰を下ろす。1時間延々とモンスター達の攻撃を弾き返していたからだ。辺りにいた大抵のモンスターはマイが片付けてくれていた。
ケイは新たに取得を確認する。
〈リフレクトパリィ〉
弓や魔法などの遠距離攻撃を弾き返せる様になる。盾以外でも可能
取得条件
モンスターの攻撃を連続100回タイミングよく弾き返す。
「100回連続!? 99回で失敗してたら絶対発狂してた自信がある……マイはどうだ? 何か覚えられたか?」
「……5分くらいで覚えたよ。これ、〈逆王手〉っていうスキル」
マイは自分のスキルをケイに見せた。
〈逆王手〉
戦闘において強力な攻撃を除いた攻撃をノックバックせずに攻撃することができる
取得条件
攻撃を受けながらも攻撃を続けてモンスターを30体倒す。
「そんなに早く!? 言ってくれたら自由行動にして良かったのに」
「……お兄が失敗する所見たかったから。次どうする?」
「疲れて思い浮かばない。攻略サイト見てみるか……これは? 〈ライフドレイン〉」
休みがてら攻略サイトを開いて何か使えそうなスキルを探してみつけた〈ライフドレイン〉はスライムを倒すと低確率で覚えることができるスキル。昨日攻略した隠しダンジョンにはスライムがわんさかいる事を知っている2人にとっては都合が良い。
休み終えた2人は早速昨日の隠しダンジョンへと向かった。中に入ると昨日と同じようにスライムがぞろぞろと湧いて出てくる。
「低確率って書かれてたし、どっちが先に〈ライフドレイン〉を取れるか競争! 負けた方は何でも言うこと一回聞くってのはどうだ?」
「負けない」
「決まり! レディ……」
「「ゴー!」」
「〈イメージクラフト〉……これもハズレ。全っ然出ないんだが!……実はガセでしたってオチだとシャレにならんぞ」
「……お兄が言った……黙って倒す」
2人は低確率という言葉を舐めていた。スライムは中心の核を割れさえすれば楽に倒せるのだが、簡単すぎるが故につまらない作業となっていた。疑心暗鬼になりかけてスライムを倒すこと5時間が経過した頃、マイが何千匹目かのスライムを倒すとその場に赤色の指輪がぽとっとドロップした。そして、ついでかのようにシステムから2人が待ち望んだ音声が流れる。
『スキル〈ライフドレイン〉を習得しました』
「……取れた! あと何かドロップも……[スライムリング]」
システムの音声が聞こえた瞬間2人は本当に取得できた安堵と5時間倒し続けた疲れでその場にへたれ込んだ。
「良くやったマイ……俺たちの冒険は……これからだ……」
「勝手に打ち切らないで……お兄もスキル取れるまでやる?」
2度とやりたくないとでも言いたげな様子でケイは首を横に振る。スライムがドロップしたものは後で確認することにして2人は千鳥足で広場へと戻った。
その頃、広場で露店を開いていたメロ。
「あ、ありがとうございました! またよろしくお願いします!」
買い物をしてくれたお客のプレイヤーに深々とお辞儀をして見送って顔をあげた先にはちょうど戻ってきたボロボロのケイとマイがいた。
「ぎゃああ! あ……ケイさんとマイさん……? ど、どうしたんですか!? ももも、もしかしてプレイヤー狩りに遭われたんですか!?」
「ち、違いますよ! ちょっと明日の為に下準備してたところです」
「な、なにをやったのか物凄く気になります。こ、これ良かったら飲んでください! 私物のポーションですけど」
「……ありがとう。いただきます」
メロはポーションをケイとマイにそれぞれに渡す。ごくごくと勢いよく飲み干した2人の疲れは一気に取れていった。
「凄い効き目! 助かりました。メロさんありがとうございます」
「と、取り敢えず今日の所はもう休んだ方がいいですよ! 明日の為にも」
「そうします。じゃあまた明日」
「……メロさんも明日……頑張ろう」
そう言って2人はログアウトして現実の世界へ戻った。
「ふぅ……スライム恐るべし……ん? どうした、こっちをジッと見て。俺の顔に何かついてる?」
ヘッドギアを外した司に対し、舞菜はヘッドギアを着けたまま司を見つめるその姿はまるでロボット映画に出てきそうな雰囲気を醸し出している。
「お兄、何でも言うこと聞くんだよね?」
「あ……あぁ! 忘れてた。お兄さんにできる事なら何でも言いなさい! でもスライム以外で頼む」
「じゃあ……明日のイベントで上位に入ろう」
「それお願いじゃなくて意気込み……でもまぁ、可愛い妹に言われたならしょうがない。お兄さんに任せなさい!」
2人は明日のイベントに闘志を燃やす。