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1話 足が速くなるチートとかないですか?
「ハァッ……ハァッ…クソッまだ追いかけてくる…!」
息を荒くしながら男が走る。やや長めの髪は汗と乾きかけの血で湿り、妙に年季の入った革の鎧は汚れ、肩には袋、その腰には既に中身のない鞘が揺れている。
「ハァッ……ゲホッゲホッッッ…ハァ、どこだよここっ出口はどこだッ」
大きめの荷馬車がすれ違える程度に大きな道。周囲は岩で囲われ、天井に生えた光る苔が辺りを照らす。
本来なら来る予定のなかった場所。本来探索予定であった場所からは少し、彼にとってはかなり深くまで潜った場所。
ここはダンジョン。
一攫千金と名誉を求めて毎日多くの命知らずが潜る場所。
四割が二年足らずで命をおとし。
三割が身の程を知って去ってゆき。
二割と五分がそれでも細々と小銭を稼いでそれを生業とし。
四分は幸運にも「お宝」を得て凱旋し。
一分はその上でそこに残り続ける。
「運がいいと思ったら、なんでこうなるんだッ!!」
その四分になるため、男は走って、そして逃げまくっていた。