四話
「ねえ、人間。あんたもう少し早く歩けないわけ?」
街に向かう途中、1時間ほど歩き続けた私はついに足の筋肉が悲鳴を上げ始めどんどんとペースが落ちていった。
「だ、だって。ここ、全然舗装されてないし、歩き辛いんだもん…」
「だらしないわね。これだから日本なんていう緩い世界にいたお嬢さんは…」
「む!死神の身体能力と一般人の私を比べてイキるのやめてくださいよ!」
「はぁ?私があんたなんかにわざわざイキッたりしないわよ、これは呆れてるだけよ」
「それをイキるって言うんです!」
「面倒くさいわね、もう街もすぐ近くなんだから喚いて無いでがんばりなさい」
「あれ、心配してくれてるんですか!?リズさん優しい!!」
「……どこまでも能天気ね本当。まぁ神に向かって自分の欲望全開で転生する世界決めちゃう様なやつだし仕方ないのかな……」
「欲望……?はっ!?そうだった!!この世界は女の子だけの世界!百合ワールド!!あの街には麗しの可愛い女の子が雌フェロモン全開で待っているえちえち世界が広がってるんだった!!私頑張らなきゃ!!」
「あんた、少しは発言を自重しなさいよね……」
はぁ……と溜息をつくリズさん。
その表情は呆れたと言わんばかりだが、その裏には少し息の荒さというか疲れが垣間見えた。
「あれ、リズさんもしかして疲れてます?」
「ん?まぁ少しはね。ていうかあんたはさっき死神の身体能力って言ってたけど、神の力はほぼ失っているからそんな能力皆無よ、今は殆ど人間と変わらない。歩けば疲れるしお腹も減る、だからちゃっちゃっとついて休みたいのよ」
「そ、そうだったんだ。ごめんなさい遅くて」
「……別にいいわ、倒れてさらに時間をロスする方が迷惑だし、この辺は街の周辺だからか危険な魔物もいないみたいだしね」
「ま、魔物!?そんなのいるんですか?」
「アリサ先輩の話じゃ、この世界には魔物の他にもゴブリンやエルフといった亜人種もいると聞いてるわ、それがどうかしたの?」
「どうかしたじゃないですよ!そんなものがいたら街の女の子が危険じゃないですか!!」
「女でも剣を持てば振れるし、魔法が使えれば放つことができのよ、心配いらないわ」
「魔法?この世界には魔法があるんですか?」
「ん?ああ、そういえばあんたの世界には無かったわね、そっちの世界ではファンタジー扱いされてた様だけど大抵の世界に魔法は存在するわよ。まぁだから平和な世界の元住人のあんたとは価値観がそもそも違うのよ。あんたみたいな弱者が心配してもこっちの住人にとっては見当違いもいいところってことね」
魔法があるなんて、本当にファンタジーな世界に来ちゃったんだな私。まぁ異世界に転生って聞いて、そういう小説を全く想像しなかったわけじゃ無いけど、こうあっさり言われるとあんまり実感湧かないな。
でも、アリサさんから貰ったこの私を薄く纏っている光も言うならば魔法みたいなものか。
にしてもリズさんの言い分はもっともだ。
この世界を何も知らない私が、勝手に心配するのはこの世界の住人に対して失礼ですらある。
どの世界でも生物というのは環境に合わせて適応するものだ。この世界の食物連鎖の頂点が人間でなくても、強者から守る術は身につけているはず。私の様な平凡な少女はむしろこの世界の住人に習わなければならないのに、心配なんて傲慢な考えだった。
「すみません…確かに考えが浅かったですね」
「まぁあんたにとっては世界が一変してるんだから非常識な事に多少は目を瞑るわ。でも、それは私以外には決して通じない事よ。きちんとこちらの世界の常識を身につける努力はしなさいよね」
と、厳しく私にアドバイスをするリズさん。言葉遣いは確かにきついけど、そこには悪意の無い純粋さがあり、私は少し感動していた。
嫌いなはずの私にここまで気をかけてくれるなんてリズさんはなんて根がいい人なんだろう!
これで急に殺しにこなければ完璧なのになぁ……
「ありがとうございます!リズさん!」
「は?なんでお礼……まぁいいわ。にしてもお腹が空いたわ。食べなくても死なないんだけど、食べないと元気が出ないわ…あぁご飯…」
「魔法でご飯作れたりできないんですか?」
「できるわけないでしょ……そもそも私は魔法なんて使えないわ。元死神の今はちょっと丈夫な人間ってところなんだから。まぁ死神だから死ぬことは無いけど」
魔法のある世界なのにリズさんは使えないのか。死神だったリズさんが使えないのだったらやっぱり私も使えないのだろうか?
「うー、そうなんですねー。てか私もお腹空きましたー」
「じゃあ立ち止まらずさっさと行くわよ」
「はいー」