三話
転生して目が覚めたとき私は草原の上に立っていた。
「ここが異世界」
赤ちゃんから転生されるのかと思いきや、私は15歳の少女そのまま記憶も見た目も引き継ぎ転生された。
「とりあえず、遠くに街が見えるしとあそこを目指すかなぁ」
と私が溜息混じりにこぼすと、いきなり私に襲いかかる影が現れた。
「う、うわ!!ってリズさん!!」
「チッ、外したか」
リズさんは片手に小さいナイフのようなものを持ってこちらにその刃を向けてきつく睨み付ける。
「あんたのせいで私は天界から追放されるわ、こんな世界であんたのお守りを任されるわたまったもんじゃないわ!私の鎌も力を失ったせいでこんなデザートナイフみたいになってしまったし!本当最悪!!アリサ先輩との契約だとあんたが死ぬまでって言ってたし、あんたを殺せば私はすぐに天界に戻れるんだから早く殺されて!」
「リ、リズさん、お、落ち着いて。最初はあんなに大人しかったのにどうしたの…」
「あんなの演技に決まってるじゃない!!あんたから直接許してもらえれば追放だけは免れると思ったのにアリサ先輩は全然話聞いてくれないし…もぅ!!なんなのよ!私が何をしたっていうのよ!!」
「何って、私を殺したんでしょ…?」
「だから私はあんたを殺すつもりはなかったの!!あんたと一緒にいた女を殺すつもりだったのにあんたがふざけてあの女を押し倒したせいで手元が狂ったのよ!!」
「一緒?それってもしかして姫ちゃんのこと?」
「姫?ああ、そんな名前だったわね。あの子はあんたが死んだ日までが寿命だったの、だから私が殺しに行ったのになんで仕事して罰を受けなきゃいけないのよぉ!!!」
「姫ちゃんが寿命……」
「まぁそんな事はどうでいいわ!さぁ!早く私に殺されて頂戴!」
「あ、あの!!リズさん一つ質問いいですか?」
「なに?」
「私が姫ちゃんの代わりに殺されたって事は姫ちゃんは生きてたりするんですか?寿命が伸びたり…」
「しないわ」
「…っ」
「私が殺さなかっただけで、彼女は他の死神に殺されている筈よ。寿命は絶対。代わりになることなんて出来ないのよ」
「そ、そうですか…」
「それだけ?じゃあ死ね!!」
「ひ、ひぃ」
と、私が手で顔を庇った時、脳内から声が響いてきた。
『リズ……あなた何をやっているのかしら』
「ア、アリサ先輩!?」
この声はアリサさん。姿は見えないけど、おそらく神の力かなんかで私達を見てるのかな?
『あなたは約束もまともに守れないのかしら?神の癖に幼稚園児並みの思考回路しかないという事なのかしら?非常に残念ね…』
「い、いえ、こ、これは」
『あくまでも私達は魂の管理人として過度に干渉する事は控えていたんだけど、仕方ないわね。ミユリちゃんには少しだけサービスしてあげます、そこの出来損ないの死神に殺されない為に』
「え?」
「ア、アリサ先輩!!わ、私は頑張ってきたんです!出来損ないとかい、言わないで…」
『ミユリちゃん、あなたの希望でリズを案内役にしたのだけれど、その契約は簡単に破棄はできない。だからリズと死ぬまで生活するにあたり少しでもサポートできる力をあなたにあげるわ』
とアリサさんが告げると、私の身体の周りを薄い光のようなものが包み込んだ。
『その力は悪意を持ってあなたに近づく者の接触を無効化する力よ。それがある限りあなたに危害を加えようとする存在は一切触れることができないの』
「アリサ先輩から力をもらうなんて、ぐぐぐ、なんてずるい」
「ほう、でもこれじゃあリズさんと手を繋ぐこともできないってことじゃないですか!?」
「何アホなこと言ってんのよ!!そんな力がなくても手なんか繋がんわ!」
『さ、私ができるのはここまで。神って忙しいのよ、一つの魂にばかり時間は裂けられないわ。じゃあまた会いましょうねリズ、人間の寿命の数十年なんて私達にとってはとても短いのだから頑張りなさい』
「うっ、はい」
「あの!色々お世話になりました!アリサさん!!」
『ふふ、じゃあね、ミユリちゃん』
とアリサさんの声が途切れると同時に、リズさんが私に向かってナイフを振り下ろした。
しかし刃は私には届かず、バチッと弾き返す音が響く。
「くそ!本当に触れられない」
「手繋ぎたかったな」
「はぁ…まぁいいわ。先輩の言う通りあんたの寿命なんてわざわざ殺さなくてもすぐ来るでしょうし」
「むぅ!そんな悲しいこと言わないでくださいよ!!」
「ふん!ちゃっちゃっと行くわよ人間。こんな場所、退屈で私の方が死んじゃうわ」
と悪態を吐きながら、街に向かうリズさん。
本当にこの先この人とうまくやっていけるのかな?
傍若無人というか自分勝手というか…でも顔はかわいいんだよな…
てかよく考えたら本人の希望を無視して無理矢理案内役にした私も自分勝手じゃ…
でも元はと言えばリズさんが私を殺したのが悪いんだもん!少しくらいの我儘許せるよね!
「むぅ!まぁいっか!手を繋げなくてもこんな可愛い死神さんと一緒に旅ができるんだから!」
「あんた…本当にブレないわね」
と、リズさんは呆れた様に溜息をついた。
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彼女達二人の言い争いの少し後ろで隠れる様にそれを見張る影が一つ。
それは女神アリサによって転生されたもう一人の人間。
「ミユちゃん……なんだか楽しそう」
と、羨ましそうに隠れながらそれを眺める彼女はある問題を抱えていた。
「でも…なんで……なんでわたしだけ」
彼女もまた女神アリサによって転生した一人なのだが……
彼女にはあるものが無かった。
「なんでわたしだけ裸なんですかぁ……!」
そう、女神アリサ、何故か彼女だけ手違いで転生する時に服をつけるのを忘れていた。
神というのがいかに信用できないのかよく分かる。
これでは彼女達の尾行など出来るはずもなく、遠のく彼女たちをただ見つめることしかできないのであった。
「待っててね……ミユちゃん…私頑張るから!」
一人決意を固めるが、その姿は間抜けそのものであった。
この後、通りかかりの商人に拾われることになるのだがそれはまた別のお話。
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