Love you
吉野くんに助けられたあの一幕から数日。最近は彼とも話す機会が増え、毎日が新鮮で、前よりも生き生きとしている自分を自覚する。
学校一の不良で、あまり良くない噂を聞いていた米沢 健司だったが、あの日からは特に絡まれる事もなく、普通に過ごせている。これも吉野くんのお陰だ。
最近は特に彼を意識してしまっているらしく、彼の近くに他の女子がいるだけでモヤモヤとしてしまう。私は独占欲が強いのだろうか?普段通りに振る舞えているか、自分でも心許ない。
更には、彼の方から話しかけてくれたこともあった。
その日は、嬉しさの余韻で中々寝付けなかったのを憶えている。
吉野くん。吉野くん。
頭の中で彼の名前を、顔を、思い浮かべてはニヤケながら今日も学校へと通う。
学校に着き、靴を履き替えようと下駄箱を開けると、そこには一通の手紙。
自分はあなたのことを異性として気になっている。あなたとの関わりは少ないし、どう思っているかは分からないけど、それでも返事だけは聞きたいから、放課後体育館裏まで来て欲しい。
要約するとそんな感じの文章だった?
長々と書かれた文には少し汗が滲み、所々文字が掠れたり、紙がよれていたりした。
この人には悪いけど、私には今、好きな人がいる。
しっかりと断ろう。
そう思い、差出人の名前を見る。
『え?』
最後に添えられた差出人の部分には、米沢 健司の名前が記載されていた。
♦︎
放課後になる。部活動が始まる前。周囲はまだ静かで、少し遠くでは部活をしていない生徒が帰宅していく姿が見受けられる。もう数分もすれば、この辺りも体育館の部活で騒がしくなることだろう。
体育館。正確にはその裏に向かう足音が二つ。
私と、吉野くんだ。
あの後下駄箱で出会した彼に、手紙の話をすると、念のためと言ってついて来てくれることになった。彼がいた方が断りやすいという事も実はあったために、彼の申し出は有り難かった。
『、、!!』
体育館裏へ行くと、そこには腕を組み、仁王立ちをする米沢 健司がいた。予想外の人物がいた事で、彼は少し苛立っているようだった。
『おい!なんでそいつまでいるんだよ!』
ずっと、嫌だった。
『部外者が、なんで!!』
どうしようもなく卑小で、ちっぽけな自分が。
周りを騙し、自分も欺き、それで成り立った偽物が。
だから、彼に憧れた。ありのままで輝く彼に。
彷徨っていた気持ちが、定まらなかった覚悟が、彼に出会って、彼を知って、彼に助けられて、、
『おい、聞いてんのか!?』
『私は、、』
『あぁぁ?』
『私は、吉野 和也くんが好きだ!!』
『、、え?』
後ろで彼の驚いたような声がする。
とてつもなく恥ずかしい。体の中で羞恥が躍り狂っている。だけど、、
『だから、ごめんなさい!!あなたとは付き合えない!!』
暫くの沈黙が続いた。
その時間はとても長く、果てしなく長く、、
また暫くしてから、目の前の彼が口を開く。
『、、そうだったのか。悪い、関係ない奴が急に来たから苛ついちまった。そうか、、。お前は、そいつのことが好きなんだな。』
もうそこには先程までの覇気は無く、頭を掻きながら、自身の失態を悔いるように、また何処か落ち込むように。
その後、彼は体育館裏を去っていった。
残されたのは、私と吉野くんの二人。
彼の方に向き直ると、彼はどこかバツの悪そうに下を向いていた。
『あの、私、、本当にあなたのこと、、』
『嬉しい。』
『えっ?』
『そう言って貰えて嬉しいよ。こういうこと言うのはなんだか恥ずかしいけど、実は僕も君のことが好きでした。』
『ーー!!?』
『こんな僕で良ければ、付き合ってくれますか?』
その日、私は吉野くんと恋人になった。
リア充、、、死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!