決別
鈍い打撃音が路地裏に響く。
最初は目を疑った。
音のした方を見ると、あのケンジが一撃でのされていた。
『あり、得ない、、。』
吉野 和也は、思わずそう呟いた。
♦︎
なんだぁ、今度は痴話喧嘩?前の方では何やら二人の男が一人の女を取り囲んでいた。
そっと避けて、今度こそ帰、、る訳には行かないな。
目を逸らそうとしたが、彼女の瞳と目がぶつかってしまう。
それは、明らかに助けを求める視線。
ほんと、今日は散々な目に遭う。そういえば、前もこんなことがあったなと思い出した。
まぁ、たまにはこんな日もある。
相手の男の一人がスタンガンを手に持つ。ナンパにしては物騒過ぎる。
向こうは敵対心を此方に向けている。
初対面の奴に警戒してスタンガン向けてくるって、警戒心が強いとかの問題じゃない。
おそらく、さっきキレてのしてしまった彼の仲間なのだろう。
先程の彼よりはまだ話は通じそうだが、、
『クッソ、一体なんなんだよ!』
そう言ってもう一人、素手の方の奴が殴りかかってくる。
拳で語るってか?
バックステップ、右に逸れる、左ストレート、鳩尾を打つ。
『があっっ、、』
怯んだとこをすぐさま手刀。狙うは首筋。
小説みたいに気絶、とはいかないか。
『、、はっっ、クソっ。』
実験台はもう一人いるので君には退場してもらおう。
手刀を振り下ろした形からそのまま真上に切り返し、手の甲で顎を打ち上げる。
まだ足りない。そのまま左手を振りかぶって、、
首トンよりも確実に脳震盪による気絶を狙える方法。それは、相手の顎を強打すること。
打つ!!
限界まで引き絞った体を引き戻し、遠心力による加速で最大限の威力となった掌底を放つ。
『ガッ?!』
後ろに吹き飛ぶ形で倒れ、そのまま意識を失う。
あと一人ぃぃ。
♦︎
目の前で仲間が急所を全力で打たれて気絶した。
残るは自分一人。
何故か手刀の構えで、右手を中空でブンブンとさせる少年。
それに、この強さ。
吉野 和也は納得した。
彼はおそらく“組織“の上層部の人間。
流石の情報網というべきか、自分たちのしくじりを知り、切り捨てに来たのか。
それにしてもあまりに早いが、、
組織の恐ろしさを改めて実感した。
お前たちは使えないからもう要らない。そう言って警察署にポイ捨てされる。
それが切り捨てられるということ。
無能な味方ほど、恐ろしいものはない。
自分たちは、組織にとっての不要物と判断されたのだ。
警察に組織のことが漏れる心配があるのではないか?
それはない。組織の力は警察の一部にまで行き届いている。
もし、組織についての情報を漏らしたことを知られれば、、間違いなく消される。
元々は遊びだった。
友人(玩具)を使ったただの遊び。
だけど、自分たちは踏み込んで過ぎてしまったのかもしれない。
それだけに組織に加入することには魅力があった。
はあぁぁ、ほんと、しくじったなぁ。
少年が近づいてくる。
少年の手刀が彼の首筋を捉える前に、吉野 和也は手にしたスタンガンを自身に当てて、、
♦︎
残るは首トン実験要員が、突然自分にスタンガンを使って気絶した。
嘘だろこいつ。
首トンって割と危ないから中々試せないんだよね。
今日は災難だったが、首トン練習要員みっけられたじゃん!ってプラス思考に切り替えた。
最後の人は気でも狂ったのか、勝手に気絶しちゃったけど。
静けさが戻った路地裏。
残った一人の少女が、腰を抜かしたのか、地べたに座っていた。あと、何故か手が首筋に当てられていた。
地面に手をついて、尻餅をつく彼女は、なんというか、見るのに困る。
顔を逸らしながらも、手を伸ばしてあげた。
少しの間はあったが、彼女の手が俺の手を握り、彼女は立ち上がった。
『、、あ、あの、、ありがとう。』
『、、どういたしまして?』
ありがとうと言われたら、どういたしましてと返す。お袋から言われた言葉だ。
『えーと、じゃあ。』
『あ、待って!』
早く帰りたかったので、別れを告げると彼女に制止させられる。
彼女は気狂いスタンガンくん(名前知らない)に近づいていき、何かを呟くとまた此方に戻って来る。
『あ、もう大丈夫です。』
何が大丈夫なのだろうか。
俺が歩き出すと彼女もまた俺の隣についてくる。千秋ちゃんかよ。
『あのっ、お名前はなんて言うんですか?』
『、、千宮 彰。』
『あ、私は胡桃沢 景って言います。』
それから彼女からは、連絡先や住所やら色々聞かれたので全部適当に答えておいた。
それから駅に着いて再び礼を言う彼女と別れ、遂に、俺は帰宅することができたのだった。
♦︎
手を差し伸べてくれた少年は、どこか見覚えのある顔だった。
そうだ。通り魔の時の、あの時の少年だ。
彼の手を取り、私は起き上がる。
自分でも情けないほどに体は震えていた。
何というか、助かったのは幸運に過ぎない。
一時の感情に左右されたとは言え、無警戒にもあり過ぎた。
もし彼が通りがからなかったら、そう思うと顔が青ざめるばかりだ。
それでも、幸運にも助かった。助けられた。
向こうの方で気絶する黒髪の少年を見る。
無防備な彼の顔は、純真無垢といった感じで、先程まで露わにしていた人を蔑むような感じは見られない。
私は彼に近づく。
私が初めて好きになった人、好きだった人。
彼の本心を知って、悔しくて泣いて、悲しくて泣いて、、
例え危険を犯したとしても、
最後に伝えたかった。
後ろの方で佇む少年に聞かれないほどの小声で。
『私は、あなたのことが、大っっ嫌いよ。』
私は眠る彼にそう言って、決別した。
主人公ガ思ッテタヨリ強クナッタヨ。物語ガ路線変更ドコロカ脱線シテイクヨ。組織ッテナンダロウネ?ラブコメッテ、ナンダッケ?果タシテ上手ク纏マルカナ?オ先真ッ暗デ、書キ進メルヨ!!