解決策は対話(物理)と説得(物理)
疲れたぁ。まさかの提出物出していなかったために居残り。
早く本屋に行きたかったので、死ぬ気で終わらせた。
あれだ、一応提出物はやっておくべきだね。
使わない教科だったために油断していた。
凝った肩を回してほぐしながら、俺は今日も本屋へと向かう。
♦︎
私が待ち合わせの駅に着いた時には、もうすでに日は落ち、駅構内も帰宅時間の為か、だいぶ混雑していた。
約束の時間まではまだ少しある。
私の今の格好は、いつもの派手なメイクでなく、わりと控えめなもの。
先程から、周囲の視線を感じているが、男の人ってこういう方が好きなのだろうか?わからない。
吉野くんとの落ち合い場所は駅前。
人気の多いこの場所は、落ち合うには少し不向きだった。
時計を見ると、時間は7時少し前。約束の時間は7時。
『はぁ、はぁ、、ごめんね、、待った?』
吉野くんが現れた。
『ううん、全然。』
『それじゃあ、行こっか。』
吉野くんが差し伸べてきた手を取り繋ぎ、私は彼に続いた。
♦︎
なん、だと、、。
俺がそのタイトルを見つけたのは、本屋に着き、いつものように小説を見て周っていたところだった。
今日が新刊の発売日だったのか、、。
俺の愛読している小説。前回買ったのもそうだが、こっちは頭脳バトル系。主人公の実力が底知れないところとか、先が読めない展開だとか、向こうの戦闘系とはまた違った面白さがある。バトル系の主人公は、敵が現れた瞬間、即殴りかかっていくが、頭脳バトルでは、その前に心理戦がある。相手との対話がある。
前々からとても楽しみにしていた作品だ。俺としたことが、発売日を忘れていたとは、、危なかった。
即刻購入した。気分は、居残りの分を打ち消し、最高潮。右手に持った袋を握りしめ、帰路に着く。
♦︎
だいぶ歩いた。人混みは消え、今は人通りの少ない道を歩っていた。
切り出すなら、今だ。
『、、吉野くん。』
急に歩を止めた私に合わせて、彼も止まる。
『なんだい?』
彼はいつものように笑いかけてくれる。
だけど、私は知っている。
彼の笑顔はただの仮面で、本当の顔が、巧妙にその下に隠されていることを。
『、、私のこと、騙してたの?』
『、、、、』
数秒の沈黙。
『ふふっ、はは、はははっ!!』
彼は笑った。
本当の顔で。
『はっ、バレてたのかよ。』
ただし、彼の目は笑ってなどいなかった。
『、、いつ、気づいた?』
『、、今日の放課後。』
『あぁ、話聞かれてたか。あーあ、しくじったなぁ。上手くいってたのに。』
『、、、』
『この世の中は、嘘だらけだ。嘘、虚飾、偽りで塗り固められてる。汚くて醜い。けど、普通の人間は、そういうものから目を背ける。気づかなければ、この世は綺麗なままだからだ。』
『何を言って、、』
『みんなが、みんな、綺麗な部分だけを見せよとする。醜い部分を取り除くんじゃなくてら綺麗な部分を必死になって磨く。だから、そんな世界ができる。お前も、そうだろ?』
『っっ!』
『何も気づかなければ、気づかないフリをしていたら、お前も幸せだったのになぁ。』
『、、!』
私の背後に、いつの間にか二人の男がいた。教室にいた二人だ?
退路が絶たれる。
『わざわざ、俺たちの企みはお見通しだったってことだけを伝えに来たのか?自分の身の危険を考えなかったのかぁ?』
考えた。
ここに来るまでも。
だけど、あのまま引き下がりたくはなかった。
どうしても、、
『馬鹿な女だ。少しばかり警戒して時間かけたけど、その必要もなかったな。強硬手段はあまり好きじゃないんだよ。女の子が楽しめなくなっちゃうからね。』
目の前の彼が醜悪な笑みを浮かべる。
背後からも、じりじりと詰め寄られているのがわかる。
流石に警戒を怠りすぎたか。
まずい、、。
『へへっ、大人しくしてもらおうか。、、、んん?なっ!』
『、、どうした?』
『アイツだ!この前の!』
背後の二人の内一人、米沢 健司が、通りの方を忌々しげに見つめていた。
『おい、待てケンジ!どこに行く!』
『許さねぇ、あの舐めた態度の野郎ぉぉ!ずっとシメてやりたかったんだよ!!』
吉野の制止を聞かずに、健司は行ってしまう。
けど、、
『クソっ、使えねぇ野郎だ。まぁ、いい。二人で取り押さえるぞ。』
窮地には変わりない。
♦︎
いやぁ、帰って読むのが楽しみである。相手との頭脳バトルとか一回やってみたいよね。楽しみな小説を読むこのドキドキ感は、今も昔も変わらない。
『うおっ!!』
突然腕を引かれ、路地裏に連れ込まれる。新手の勧誘か何かか?荒手過ぎるぜ。
『おい、お前。』
僕を連れ込んだのは、怖い顔したお兄さんでした。
『えっと、、すいません?』
とりあえず謝っておく。
『その舐めた態度っ、、』
いきなり胸ぐらを掴まれたため、持っていた袋を落としてしまう。
『あ!』
袋から飛び出し、地面に落ちた本を男が踏む。踏む。何度も、踏み付ける。
所々汚れて折れ曲がり、見るも無残な姿にされた、俺の小説。
『ずっと、あの時からお前が気に食わなかったんだよ!』
まだ耐えろ、俺の理性。
あの主人公はムカついたらすぐに相手に殴りかかったか?答えは、否。
頭脳バトルでは心理戦がある。対話がある。
『お前のせいで、失敗した。お前がいなかったら!』
『、、、』
『お前、いつまでも生意気な態度を取ってられると、、』
ゴッッ
『なっっ、、』
鈍い音がして、男が倒れる。
『ふぅぅ、スッキリした。』
男に絡まれた理由は知らない。だけど、小説を傷つけたことは許さない。
対話(物理)で、小説を踏み付けやがったクソ野郎をのす。
ぼろぼろになってしまった小説を拾い上げて、俺は再び帰路に着いた。
心理戦をすると見せかけて、殴りかかる。これも頭脳戦における立派なタクティクス。
この辺から、ハイテンションエナジードリンクブーストモードで書いたため、作者も意図していなかった展開となる。