真実
放課後の教室。教室に残り談笑していた者も、今さっき帰っていった。
いま教室内にいるのはたったの三人。
『だから言っただろ、ケンジ。俺の言う通りにすれば間違いないって。』
『あ、あぁ、、すまねぇ。』
『この前はお前が任せろと言ったから任せたが、失敗しやがって。結構な上玉だったぞ。』
一人の少年が舌打ちする。
『、、悪い。』
『苛つくとすぐ周りが見えなくなるのが、お前の悪い癖だ。まぁ、今回の“演技“は悪く無かったな。腕っぷしだけだと思っていたが、そこは見直した。』
『あの女がチョロかっただけじゃねぇの?』
今まで閉口していたもう一人が口を挟む。
『いや、あの女は見た目に反して警戒心がかなり強い。元から俺に気が合ったが、それだけじゃ足りなかった。“機会“を作って完全に心を掌握する必要があった。』
『でも、まさか本当に向こうから告ってくるとは思わなかったぜ。さっすが、ナオヤだな。』
『ふふっ、あぁ、、あとは、仕上げだ。』
♦︎
家に帰るなり、私はそのままベッドに飛
び込んみ、枕を抱きしめた。
今日学校で吉野くんと遊ぶ約束をしてしまった。
やばい、やばい!どうしよう!
浮かれた私は、その後の授業に集中できる筈もなく、ずっとそのことを考え続けて今に至る。
少し落ち着いたところで、私は吉野くんとの約束を思い出す。
今日の夜(吉野くんは委員会に所属しているらしく、夜なのだが)、私は吉野くんとデートする。
あの日、私が吉野くんに告白し、告白された日以来、特に変わらなかった関係に終止符が打たれる。
服装はどうしようかとか、会話繋がるかな?とか色々考えることがあった。
とりあえずデートは夜なので、それまでに出来ることは済ませておきたい。
吉野くんのことを考えながらも、僅かながらの思考で覚えていた数学の課題を終わらせようと、鞄に手を突っ込んでみたところ、課題ノートは見当たらなくて、、。
あ、しまった!
誤ってノートを学校に置き忘れたことを思い出し、私は急ぎ学校へと引き返したのだった。
♦︎
校庭は既に部活動で賑わっている。それに反して校舎内は閑散としていた。
誰もいない廊下を進み、自分の教室まで行くと、声が、した。
吉野くんの声だった。
彼は委員会の筈じゃ、、
他にも人がいるようだった。
そっと顔を出し、教室の中を覗き見る。
窓際付近に集まった、三人の影。
一人は知らない。
一人は吉野くん。
そして、もう一人、、米沢 健司。
なんで、彼と吉野くんが?
盗み聞きしているみたいになっていてとても罪悪感があった。
今から教室に入っていって、吉野くんに理由を聞けばすぐにわかる。
だけど、、気になってしまった。
教室の外から見た彼は、いつもの、あの優しげな笑みを浮かべた彼とは、何かが違っていた。
『あの女がチョロかっただけじゃねぇの?』
一人の男の声。
『いや、あの女は見た目に反して警戒心がかなり強い。元から俺に気が合ったが、それだけじゃ足りなかった。“機会“を作って完全に心を掌握する必要があった。』
吉野くんの、声。
『でも、まさか本当に向こうから告ってくるとは思わなかったぜ。さっすが、ナオヤだな。』
米沢の声。
名前は出ていない。だけど、誰のことなのかぐらいはわかる?
気付いたら、涙が私の頬を伝っていた。
わからない、わからない。
もう何も。
これが、現実だということぐらいしか。
彼の笑顔は偽物だった。
完璧な人間なんて、いない。
どこかに劣った、醜い部分が隠れているんだって。
知っていたけど、飲み込めない。
私は声を殺して泣いた。
泣いて、泣いて、涙が渇くまで泣いた。
そして、私はそっと立ち上がり、家に戻ったのだった。
♦︎
吉野 和也は、誰にでも優しい人間だ。だけど、本当の彼はそうじゃない。
本当の彼は、性根の腐った、真正の悪人だった。
彼の善意は、全て計算された偽物で、それが、私の憧れた彼の真実だった。
悔しくて、悲しくて、哀しくて。
家に帰った私は、もう一度、声を上げて泣いた。
受け入れたくなかった。けど、受け入れるしかなかった。
最後の一滴まで絞り出した私は、涙で汚れた顔を拭い、時計を見遣る。
本当なら、吉野くんとのデートを心待ちにしていただろう時間。
真実を知る前であれば。
とても悲しかった。だって、自分の初恋が終わってしまったから。
だけどそれ以上に、すごい、悔しい。
私の人を見る目もまだまだだな。
完全に騙されてしまっていた。
彼に惚れてしまっていた。
彼が、好きだった。
だから、、最後に一つだけ。
意を決した私は、服を着替え、化粧をし、家を出て向かう。
彼との、約束の場所へと。
まさかのモブキャラ的な、最初の三人組が一章のラスボス。