前提が間違ったラブコメ
世の中には恋愛に関する様々なものが溢れている。それは実際の恋愛だったり、架空の物語だったりだとか。
物語の場合であれば、多くの作品が青春時代、学生時代に焦点が向けられている。
同じ学校の同じ教室で芽生えた恋。
全く接点がなかったところからの急激な接近。
どれもこれも理想を形にした様なもので、されどそこに憧れを持つ
しかしながら、ある場所に限りそんな幻想すら抱けない事もある。
実際自分がいま陥っている境遇こそ、その限定的な場合に適応される。
どんな事象に置いてもその前提条件を成していなければ成り立たない。
自室のベッドに寝転び、開いたラブコメ小説を目に大きく溜め息をつき、、
『はぁ、、なんで男子校なんかにしたんだよ。』
俺は他の誰でもない自分に向かって恨み言を呟いた。
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今日も疲れたぁ。俺の名前は千宮彰。都内の男子校に通う、どこにでもいる男子高校生だ。今日も学校という檻から解放され帰路に着く。時刻は夕方の5時を回った頃。部活動には所属していない為帰宅部ではあるが、今日は学校終わりに都内にある大型の書店に入り浸っていたのですっかり日も落ち始めるこの時間となってしまった。
『早く帰ろ。』
今日は俺が愛読している小説の新刊の発売日でもあった。右手にぶら下げた袋から覗く小説に思わず頬が緩む。
『あ、すいません。』
『いってーな、ナンダテメ?』
俺はいつも本屋から駅へと向かう時最短ルートで向かう。その逆も然り。そのため必然と人通りが少ない道も通ることになる。意識が小説の方に行き過ぎてしまったせいで、路地裏の怖いお兄さんと肩がぶつかってしまった。
『、、すいません。』
何か言い訳するよりも素直に誤った方が許してもらえるのが早い。中学の頃のチョロかった先生を思い出した。
『今いいとこだったんだよ、邪魔しやがって。』
今いいとこだったのに。ノスタルジーに浸ってたんだよ。
『、、あー、すいません。』
『お前舐めてんのか?あぁ?』
猿がうるせぇ。
『おいケンジ!あの女がいねぇ!』
『逃してんじゃねぇぞちくしょう!』
『、、どうする?』
『どうするもこうするも、元はと言えばアイツのせいだ!』
そういって三人組の内、ケンジと呼ばれた少年が振り返り、自分にぶつかってきては更に生意気な態度をとっていた一人の少年の方を再び見遣るが、そこには既に少年の姿は無かった。
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今日も疲れたぁ。私の名前は水無月楓。都内の女子校に通っている女子高校生だ。私の最近の悩みは、女子校にしてしまったせいで恋愛が出来ないということ。学生といえばやっぱり恋愛だと思う。クラスのお友達の中には他の高校に彼氏がいたりする子なんかもいるし、とても羨ましい。そう思いながら先程本屋で購入した恋愛ものの小説を見つめる。はぁ、なんで女子校なんかにしたんだろう。私にも物語に出てくるような運命的な出逢いが訪れないものか、、。
『ねぇ、そこの君?今から俺たちと遊ばない?』
突然後ろから男の人に声をかけられてしまった。どうしよう。これってナンパだよね?確かに恋愛はしたいけど、こういうのはちょっと嫌だ。
『え、えと、、』
咄嗟のことで言葉が奥に詰まってなかなか前に出てこず、思考が彷徨する。
『あ、すいません。』
そんな時、さっきから必要に迫ってきていた男に通りがかった一人の少年がぶつかった。
『いってーな、ナンダテメ?』
その男は今度はぶつかった少年へと迫る。その時、少年の瞳と私の瞳が交差した。
『、、!』
私はナンパしてきた男達に気付かれないようにそっとその場を離れる。あの時、あの一瞬。少年の瞳は確かに私にここから離れろと、そう伝えてきたのだ。今思えば男にぶつかったのも、挑発的な態度をとっていたのも全ては私を逃すため。彼は自身の危険を顧みず、あの怖い男達に挑んだのだ。
あれ?でもなんで?
私は彼と一度も会ったことが無いのに、なぜそこまでの危険を犯して私を救ってくれたのだろうか。
小説に出てくる、ヒロインに一目惚れした主人公が窮地に陥った彼女を助けるシーンがフラッシュバックする。
『・・・・・!!』
その時私は声にならない声で呻いた。
もしかして彼は私のこと、、。
男子校高校生あるあるぅぅー!!
男子校に通う生徒は女子に免疫がないため、生物学的に雌で有れば何にでも興奮出来ます。(嘘)