第4話「神童と、リーダー」
「まずはここまでの長い旅路、ご苦労であった」
理事長室へと着いたクロエ達は、この学園の理事長──クラウディア・フォン・スカーレットと面会をしていた。
彼女はこの学校の統括者でもあり、学園内では最も立場が上の存在だ。
「して。今回は入学希望ということで先方から情報は預かっているが、何分私も君達と対面するのは初めてだ。この後どの程度の実力なのかはこの目で見させてもらうわけだが、よろしいな?」
クロエ達は強く頷く。
「良いだろう。ならば次に簡単な質疑応答だ、この学園の説明も含めて始めるとしよう」
クラウは目の前に積まれた大量の紙を拾い上げながら足を組む。
「まずは名前と年齢から教えてもらおうか」
いち早く手を挙げ、素早く答えたのはやはりと言うべきか、ルナだった。
「ルナ15才!……あ、ルナ・クリニカル」
「クロエだ、年齢は18」
「ブラッド。18だ」
「夜桜百、16歳です」
名家生まれであるルナは勿論、モモも同様に姓名持ちだ。
だがクロエとブラッドは下の名前しか口に出していなかった。
書類の方にも同様に記載されているとはいえ、この学園に入る者の中に貧民生まれは早々いない。
単純に疑問を持ったクラウは二人へと目を向ける。
「二人は姓を持たないのか?」
「ああ、アタシらはまあ。色々あってな」
「……そうか」
急に声のトーンが一定になり感情が籠らなくなったクロエの異変をクラウは直感で感じ取り、深追いはしない方がよさそうだと判断した。
そしてクラウは軽く頷くと背後にあるスクリーンに学園の全体図を映し出す。
「この学園は20才未満の人間種であるなら誰もが入学試験を受けることができ、入学後は3年間学ぶことが出来る。つまり入学中に20歳を越えても問題はない。だが肝心なのはここからだ」
そこには学園の入学試験を受ける未来の生徒たちの姿が映し出され、その内容は非常に単純なものであると目で見て把握できるものだった。
「エアラリス学園入学試験。年に3回ほど試験を受けることができ、合格率は5%を下回る水準だ。まあ誰でも試験を受けられるわけだから当然の結果だな。 試験内容は魔法の威力とコントロールを測る"魔力測定"、武術や剣術、体術と言った"物理測定"。最後にこの二つに該当しない自身の得意実技を見せる"自由測定"の3つがある。自由測定については必ず受ける必要はない。以上が試験内容の大まかな説明だが、何か質問は?」
既に話についていけてない様子のクロエを置いて、モモがゆっくりと手を挙げた。
「自由測定というものはどうやって測るのでしょうか?」
「自由測定は実戦経験に活かせる範囲で加点式に計算していく。だが夜桜百、君の場合は既にこちらで準備して置いたとあるクエストを受けてもらうつもりだ。よろしいかな?」
「わかりました」
クラウは質疑応答を続けようと紙をめくっていたが、ふと窓の外を一瞥し持っていた紙を書類の中へと伏せた。
「よし、ならば次の質問……いや。いいだろう。もう陽が落ち月明かりが照らす時間帯だ。試験会場に迎いたまえ、試験管のミドルが案内してくれるはずだ」
モモ達は一礼すると、試験前にも関わらず晩御飯について語りながら理事長室を出て行った。
彼女達を退場させたあと、軽いため息を吐いて椅子へと野垂れかかるクラウ。
「……これはまた学園のバランスが崩れていく予感がするな」
虚ろな目で彼女たちの情報が載せられた紙を見つめる。
『魔道の神童──クロエ』火魔法を中心とした攻撃魔法をいくつも扱うことが可能であり、オリジナル魔法すらも持っていると噂されている。かつて研究機関に追われる身だったが、あることをきっかけに自由の身になる。
『剣術の神童──ブラッド』かの剣聖を打ち破った世界でただ一人の男であり、剣魔を含め単独で彼に勝てる者は存在しないと言われている。最近では魔法もいくつか取得しており、もはや手に負えない状況である。
『輪廻の神童──ルナ・クリニカル』才子が集う名家から産まれた本物の天才。人類を救える一つの手段である古代の蘇生魔法を扱えると噂されているが、真相は不明。クロエと同じく様々な国家から追われる身だったが、あることをきっかけに自由の身になった謎の多い少女。
「そして、この決して交わることのない怪物達を全員まとめ上げる夜桜百とは一体何者なのか……」
手に取った最後の紙に書かれた情報に、思わずクラウは固まる。
『夜桜百』──経歴不明、実績無し。
──恐らく、貧民出の"一般人"であると推測。