アオサギという鳥
アオサギという鳥は、ひとなつっこい鳥だ。
『アオ』と名前に付いているけれど、長くて細い首も、お腹側の体色も、すらりと伸びた脚の色も白。
ただ羽が青みがかった薄いグレーをしているから、遠目に見ると全体としては青っぽく、アオサギという名前にも頷ける。
サギの仲間は人里近くに住んでいる割にはなかなか人になつかないものだけど、アオサギだけは別格。
魚釣りをしている時なんかには、気配を感じて振り返ると、すぐ背後にまで寄ってきてジイッとこちらを見つめていたりする。
理由は明快で、釣り上げた獲物を分けて欲しいのだ。
釣り人の方もその辺りのことは心得ているから、持って帰らないサイズの小魚や、狙いの獲物とは違う魚(いわゆる外道)を、この羽が生えた友人に放ってやる。
するとアオサギは長いクチバシで魚をつまむと、首を振り上げて勢いを付け、喉の奥へと送り込む。
丸呑みにするのである。
アオサギの胃袋は身体からの見た目以上に大きいようで、30㎝もあるようなコノシロやウグイでも一呑みにする。
上手く狩りに成功した時には、60㎝ほどあるウナギでもぐいぐい飲み込んでしまうくらいだから、10㎝くらいの小魚を20匹ほどならば、投げ与えるそばから簡単に平らげてしまう。
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金沢港で釣りを見物していた時のこと。
その時は大勢の家族連れが、岸壁に釣り糸を垂らしていて、サビキ釣りで豆アジやサッパ(岡山でいうママカリ)を盛んに釣り上げていたのだが、アオサギも3羽くらい集まって来ていた。
サッパという魚は、ママカリ寿司以外にも背ごしや唐揚げにすると旨いのだけど、金沢方面の人はあまり食べないのか、釣れるそばからアオサギに投げてやっていた。
クーラーボックスや水汲みバケツの中に取っておくのは、豆アジだけのよう。
子供たちはアオサギが魚を食うのを見るのがオモシロイらしく、サッパが無くなるとコッソリとクーラーボックスを開けて、夕ご飯のオカズ用の豆アジまで投げてしまい、お母さんに”こっぴどく”お目玉を頂戴していた。
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アオサギが食すのは、魚だけではない。
カエルやオタマジャクシも食べるし、母鴨からはぐれたマガモの雛を呑んでしまう事もある。
水辺で野鳥観察をしている御婦人が、雛が食われるのを目にして半狂乱で怒っているのを見たことがあるが、アオサギにあたるのは間違いであろうと言いたい。
『野生』では普通の事なのだから。
アオサギは人に餌をもらいに来ることもある反面、模型のようにジィッと動かないでいる時もある。
空を飛ぶときはに長い首を縮めて羽をゆっくりと羽ばたかせて、飛行艇のように悠々と飛ぶ。
穏やかな鳥であるように見えるけれども、鳶に狙っていた餌を横取りされると怒って後を追いかける。
この時ばかりは猛禽の鳶に負けること無く、『ぐぎゃあ ぐぎゃあ』と怒声を発しながら迫力のある飛翔を見せてくれる。
ただし鳶という鳥も、猛禽のクセに猛々しいところの無い鳥なので、アオサギが他の鳥より強い鳥なのかどうかは言い切るのが難しい。
猛禽類は、群れず独自の縄張りを大切にすることが多いものだが、鳶ばかりは早朝の漁港近くの広場で、20羽ばかりの群れが地面に座り込んで和んでいるのを見かけることもあるし、『人間に餌をもらいに来る』という点でも、他の猛禽類とは一線を画している鳥だからである。
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『晴れた空からカエルや魚が降って来た』という記事が、地方紙に載ったり、ローカルニュースで埋め草記事的に取り上げられる事がある。
『水や魚を巻き上げるような”つむじ風”が観測されたわけでもなく、川や池からも離れた場所で、なんとも不思議だ。魚の中には、まだピンピン動いているものも有った』というのだ。
オモシロ・オカシく『宇宙人の仕業か、四次元からの贈り物か!』などと煽っておいて、『神話にも神様が人々のために食べ物を降らせたというエピソードがある』などと盛り上げておきながらも、肝心な結論の考察では『飲み込んだ鳥が消化しきれずに、空中でゲロを吐いた』という説でまとめられていることが多い。
なんだかガッカリしてしまう展開ではあるが、超常現象と無責任に片付けてしまうよりかは良心的なのかも知れない。
ゲロの吐き逃げをするような魚を食べる鳥だと、カモメやカワウなども考えられるが、サギ類も有力候補に挙げてよいだろう。
30㎝もあるコノシロを、3匹ばかりもまとめて呑んでしまうようなアオサギであれば、5㎝くらいの小魚やツチガエルのオタマジャクシなら20匹ほど呑んでいても不思議はないから、小食なカモメよりも犯人である可能性は高いのかも知れない。
逆に可能性が低いのは、鳶を含む猛禽類だ。
猛禽類は獲物を呑むのではなく、足の爪で捕らえた上で、嘴でむしりながら食べる。
空を飛びながら頭を下げて、足に捕らえた獲物を器用にむしっている個体を見ることもあるけれど、多くは巣か羽休めの場所に持ち帰って食べている。
だから『空から魚が降って来た』と誤解を与えるシチュエーションは少ないだろうと考えられる。