夕日
ここはどこなのだろう。僕は一体何者なのだろう。
答えが見つかるはずもないのについついつぶやいてしまう。
ある時、目を覚ましたら知らない部屋にいた。だからといって前にいた場所も知らない。
それからというものの自分が記憶喪失なのか、はてまた異世界から転生したのかもわからない。
ただ唯一確かなことは、僕はいまだ生きていて、見知らぬこの世界でいきているということだけだ。
日が昇って、黒い地面を歩きながら高くそびえたつ建造物の中に入って、記号が表示される機械の上で指を動かして日が暮れたら同じように黒い地面の上を歩いてもとの場所へ帰る。僕はこの日課を毎日繰り返しながら生きている。この世界の住人と同じように生活している。僕も住人の一人だからだ。
この世界の住人は僕と似ている。
彼らもまた自分達が一体何者で、自分たちがどこから来たのかを知らない。
しかし彼らはそのことに一切気を止めていないらしい。
そんなことを考えるより、日々の生活に夢中らしい。
確かにこの世界は騒がしい。
苦しいことも楽しいことも醜いことも美しいことも渦巻いている。
くだらない疑問を忘れてしまうのも無理はない。
月日が経つにつれ、自分とこの世界に対する不思議な気持ちは薄れていっている。
あてもなく生き、そして死んでいくのだろう。
消すことのできない孤独感を、また日々の生活の騒音がかき消していく。
美しい夕日が静かに闇に包まれていく。
僕はただ、それを静かに眺めていくしかなかった。