婚約破棄ですか? 申し訳ありませんぜひしてください。ずっと望んでおりましたの! 私に婚約者を押し付けたお姉さまの代理なんてまっぴらごめんですのよ!
私はエリシエルと申します。
実は公爵令嬢でありながら、ずっと姉とは全く違う落ちこぼれと言われてきましたの。
ある特殊能力がありましたが、あまり益がないので秘密にしてまいりましたわ。
優れた能力を持つ姉は、誰からも愛されました。
姉は容姿端麗、知性にも優れ、魔法の力も国内一、性格もよし、何をしてもそつがないという公爵令嬢の見本のような方でした。
私は姉が嫌いではなかったのですが……。
私を思いやってくださっている思っていた姉上が私を実は優しくしてやっているふりをしている。
というのを知ったとき絶望したのです。
母は早くに死亡し、母替わりの姉上は誰よりもお優しいと思っていましたのに。
いくつか私に優しくしてやっているだけと感じることはありましたが、一番感じたのは、姉上のお友達が私の悪口を言っていた時に、私をかばいながらもこそっと笑っていたのを見てしまったのです。
口元が笑っていました。
そこから観察していますと、どうも父上が私を怒るたびにかばうふりをして余計怒らせていることがわかったのです。
頭の良い方ですから、ぼんくら妹にも優しい姉を演出していたのでしょう。
ならもう姉のことは気にせず生きようと思ったのですが……。
ある時、姉が王太子殿下の婚約者に選ばれまして、そこから私の悲劇ははじまったのです。
「エリシエル。どうしてお前は王太子殿下と仲良くできないのだ!」
「というより、姉上が楽師と醜聞をおかしたせいで私にお鉢が回ってきただけですわ。私は」
「醜聞ではない、襲われたのだ! 哀れなベアトリーチェ」
「はあ、まあそういうことでいいですけど、私は生涯独身と誓いまして」
私の言い分は全く聞いてもらえず、私は姉の代わりに婚約者となったのです。
姉がだめなら妹でというのが安直だと思います。
父上がため息をついて私を見ます。
お前がもう少し見目がよかったらといいますが、私は父上に似たのですわ。
絶世の美女といわれた母上がなんでこんなたぬき親父を選んだのかわかりませんが、私だってもう少しましな外見になりたかったですわ。
「金髪碧眼なんて私は父上に似たのですから、黒髪黒目なのは仕方ありません」
「先祖返りとはいえ、なぜ踊り子などと……」
踊り子であるご先祖様が黒髪黒目だったのは仕方ないことです。
私は黒髪黒目、挙句の果てに目が悪いので眼鏡でした。眼鏡の公爵令嬢、しゃれにもなりませんわ。
今は17歳、一つ上の姉のしりぬぐいなんてまっぴら嫌です。
しかし父が無理やり王太子殿下の婚約者にしたてあげたのですわ。
仲良くしろと言われても全く無理、相手も私を見てため息をついてましたわよ。
眼鏡の黒髪黒目で悪かったですわね! どうして妹なのに容姿がこんなにも悪いんだって小さな声で言っていたのは丸聞こえでしたわよ。
それに指先の糸が……これはその時は怒りのあまり気が付きませんでしたが。
幸い、私は学業は姉とそん色ないくらいにはできたので、もう学園を卒業したら魔法使いとして生きていくつもりでしたわ。
だが、学園卒業ともに結婚式なんて冗談じゃないですわよ! だから一つ計画をたてることにしましたの。お父様だってどうせ母上のことが忘れられないとかいいながら、再婚するおつもりですのよ。
男なんて不実で信じられませんわ!
ちなみに姉の行方はとんとしれず、父上が困ってましたわ。
しかし、頭の良い姉上がどうして? と思いましたがこれが一番良い方法かもしれませんわね。
だって代理(妹)がいる状況ですもの。父上が絶対私を身代りにすることが予測がついていたのですわ。
姉上の思い通りに絶対なるものですか!
私はある計画をたてることにしましたの。
しかし、一応婚約者がいるのに浮気ばかりしている王太子もどうかと思いますわ。
姉上の容姿が気にいったからと言った時に姉上の顔が歪んだような気がしましたが……。
あの時手を打っていれば、私が姉より劣っているのはこのあたりでしょうね。
「エリー、どうしてあなた……王太子殿下に仕切りにお茶会にでるように勧めたのか不思議でしたが、こういうことでしたのね」
「う、秘密にしておいてくださいね。ミーア」
「わかりましたわよ」
私は婚約破棄をされた哀れな公爵令嬢ですわ。
親友のミーアがじと目でこちらをみています。
秘密にしておいてあげるから、またクッキー作ってねとにっこり笑うミーア。
伯爵令嬢でありながら、趣味は人間観察というこの親友、やっぱり怖いです。
私たちは図書室で本を読んでいましたが、にっこりと笑ってミーアが言ってきてドキッとしました。
「婚約破棄されたかわいそうな公爵令嬢、悲劇ですわよね」
「う、ミーア」
「そうですわね。カフェのパンケーキもおごってくださいな」
「わかりましたわ」
ミーアは栗色の髪に同色の目のかわいらしい少女ですわ。
私よりもかわいいのでうらやましいです。
しかしまあ、容姿なんて面の皮一枚なので、いくらいっても仕方ないですわ。
父が狸ですもの。
姉が生まれた時に非常に父は喜んだそうですが、私が生まれた時はまた女かと呟いたそうですわ。
悪かったですわね。
「しかし王太子妃が男爵令嬢なんてやりますわよね」
「金髪碧眼がお好きなようでしたので、適当な方を選んで、王太子殿下におすすめしただけですわ」
「でも縁が見える能力があったからでしょエリー?」
「赤い糸が見える能力なんて、あまり役に立ちませんわよ」
「お姉さまのはわからなかったの?」
「誰ともつながってない赤い糸なんて知りませんわよ」
実は私は赤い糸が見える能力があり、それにより王太子殿下と男爵令嬢を縁結びしたというわけです。
お茶会に出た王太子殿下はめでたく男爵令嬢マリアンヌさんと恋に落ち、めでたく婚約破棄を宣言してくださいましたわ。
やりましたわとなりましたが、親友のミーアはごまかせませんでした。
彼女だけが私のこの能力を知っていましたの。
だって誰かに相談するにしても半端でしたもの。
実はミーアにはばれたんですわよね。人間観察が趣味なので、かなり前からわかっていたようではありますの。
「しかし私の縁がまだまだ先っていうのが寂しいですわよね」
「あと10年後ですわ」
「はー、しかし一生涯誰とも愛し合えないあなたの姉上もかわいそうね」
「あの方は自分が一番お好きな方ですのよ。だからぼんくら王太子殿下の婚約者が耐え切れず、楽師とあんなことをしでかしたのですわ」
赤い糸が見える能力は、相手がいてこそ。
自分自身しか愛せない人には無効でしたわ。
関係性はある程度が見えて、未来も見通せます。
だけど親しい人はよくわかるというのに、自分自身がわからないなんて。
見知らぬ他人の方の赤い糸の先の相手との未来は見通せないのです。
なんて半端な能力なんでしょう……。
「卒業したらどうするのですかエリー?」
「そうですわね。魔法研究所に勤めて堅実な人生を送りますわよ」
「赤い糸が見える能力を使って、身を立てるとかは?」
「もう色恋沙汰は御免ですわ。父上の再婚相手まで見えるのは嫌ですもの、あと一か月後に再婚する予定ですのよ。自分に関係性が近い相手の赤い糸と未来が見える能力なんて最低ですわ!」
私自身、この能力は微妙だと思っていましたわ。
まず自分自身はわかりませんし、あげくの果てに人の色恋沙汰がわかりますのよ。
同級生という半端に近しい人の相手もわかりますし、先生の未来の相手もわかりますの。
関係性が近い相手であれば……もう人と関わりたくないですわ。
だからこそ魔法研究所で孤高に生きることに決めましたのよ。
能力を生かして、いろいろしたらといわれても、どうせくっつく相手ですもの、今回は関係性を見極めて、それを速めただけですわ。
本来なら、私と結婚して一年後に浮気をするはずだったのですわよ。
赤い糸の相手と、ある程度の未来が見えるって絶対これ嫌ですわ。
「他人の色恋にかかわるのはもう嫌ですわ。だから研究所で能力を無効にする勉強をしますの」
「もったいないですわよね」
「お好きに言ってくださいまし」
赤い糸が見えて、それが切れる能力だったりしたら面白いですが、それは無理。
なんとも半端でした。
だからこそ、もうこれに振り回されず堅実に一生涯独身で生きることに決めましたのよ。
ミーアの相手は十年後ですわ。私が研究所で出会う人らしいので、それをまた話してみましょう。
でも男爵令嬢とは十年後に別れる運命ですわ。
はあ、私のせいではありませんわよ、王太子殿下の浮気が原因ですわ。
だからあの人と結婚などしたくはなかったのです。
婚約破棄を宣言されてすっきりしましたわ。
お姉さまはどこにいってしまったのか、もうしりぬぐいはまっぴらごめんですわ。
楽師と別れ、姉上の行方は知れず、だが姉上のことだからたくましくいきていくのでしょうね。
キャラ紹介
主人公 エリシエル・ソールズベリ
年齢17歳 眼鏡に黒目黒髪、生涯独身主義。完璧な姉を愛していたが、どうも姉は自分自身しか愛しておらず、妹=自分を馬鹿にしている事に気が付き、姉が大嫌いになる。
姉は王太子の婚約者になったが、2年前に楽師と醜聞を起こし行方不明。
父に無理やり婚約者にされる。
姉が駄目なら妹って安直じゃありませんこと? お父様。
小指の赤い糸同士の繋がりにより、縁結び、人のつながりが見ることができる。
関係性として見えるだけ、切ったりはできない。
本人曰く、半端な能力。
自分と関係性が深い人物なら、相手との未来までも見通せる。
父は婚約破棄の1ヶ月後に18歳の少女と再婚。
自分と同い年の少女と再婚した父を見て男性不信が加速する。
ミーア・ランドスタット 栗色の髪に目をした可愛い少女。
趣味、人間観察。伯爵令嬢、主役の親友。
その趣味のせいで婚期を逃すが10年後に研究所の所長と結婚。一男一女をもうける。
ベアトリーチェ・ソールズベリ
年齢18歳、主役の姉。金髪碧眼の美女。
完璧な公爵令嬢であり、落ちこぼれの妹とは正反対とされる。
実は自分自身しか愛せない人、よい人に見えるか計算しており、完璧な自分を他者に見せることが趣味。
妹の事は内心馬鹿にしている。別名災厄の魔女。
ギルバート・ソールズベリ
あだ名たぬき(主役が名付けた)
公爵であり、亡き妻を愛し続ける一途な人と思われたが、娘と同い年の少女と再婚。
女性たちの人気急落。
黒髪黒目のたぬき親父。
ヴェルスパー・ラーウィル
主役が恋に落ちるであろう人? 年齢20歳。某王国の王子だが、妾腹。
そのため、他国の騎士団に入り、今は騎士団長を務める。
脳みそ筋肉(主役談)だが心優しく、頼りになる。
主役がパンをくわえて遅刻と走っている時に曲がり角でどんとぶつかり恋に落ちる?(嘘かも)
レイモンド・ユークリッド
王太子、女好き、浮気性。
外見は金髪碧眼の優雅な貴公子、外見以外に取りえはない。
マリアンヌ
男爵令嬢、主役が王太子と結婚した時に1年後に浮気相手となるはずだった少女。
どうせくっつく相手だったのですから、早いか遅いかの違いだけですわよ(主役談)
10年後に王太子と離婚。