導きと子供と飴
人工知能AIアンナの説明を聞いた後、シュウ以外の誰もいなくなった草原。
シュウひとりになってからもうすぐ1時間が経とうとしていたが、シュウはまだ街へ向かってはいなかった。1人になってからいろいろしていたシュウは5分ほど前からは草原の上で座禅を組み動いていない。
そして、座禅開始から10分、一人になってから丁度1時間が経った頃ついに動き出した。
「さて、ちょうど1時間ぐらいたったな。違和感の微調整は終わったからそろそろ行くか。あとは実戦での慣らしと、あれがこのゲームの中でも出来るかどうかを確かめるだけだな」
座禅の体勢から立ち上がるとズボンに付いた草や土を払い、町への転送陣へと歩き出した。転送陣の近くまで来たとき、転送陣の横に1時間ぶりに会う人工知能AIのアンナが光のエフェクトとともに現れた。
「・・・・」
何か用でもあるのかと思い歩きながら様子を窺っていたが、立ってこちらを見たまま何も言わない。何も言われないまま転送陣の前まで来たが、まだ見続けられているのでこちらから聞いてみる事にした。
「・・・?。あの、どうかしましたか?何か伝え忘れでもありましたか?」
「・・・いえ、ほかの皆様はもう街に行っているのに、貴方のみがまだこちらの空間にいるので再度ご案内するべきか思案しているところです」
「あ、そうなんですか。今まさに向かおうと思っていたので、案内はしなくてもいいですよ」
「そうですか」
今まではほぼ無表情で話していたのに、今は少し不思議な人を見る目で見られているような気がする事を不思議に思いながら、転送陣に歩き出そうとすると声をかけられたので、歩こうとした足を戻しアンナと向き合うように体勢を変えた。
「転送陣に入られる前に、一つだけお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
何を言われるか思案したが考えても答えが出なかったので、どうぞと話の続きを促した。
「今まで何をしていたのですか。情報としては把握しておりましたが、貴方が何故あのような行動をとったのかが理解できず意味が分からないのです。行動を分析するに何かを確かめるような事をしていると推測いたしますが、その何かの答えが出ないのでお聞きしたしだいでございます」
「あ~、その事ですか。え~っと、なんて言ったらいいのかな、簡単に言うと現実の体を動かしていた時とのズレを調整していた感じです」
「ズレですか。しかし、貴方は自分の体をベースに使用している為、髪の色以外は変更はしていないはずですが・・・」
アンナさんは少しだけ頭を傾けるようにして、真っ直ぐこっちを見ながら理解できない様子でこちらを見てきた。
「え~と、まあ感覚的なものなので違和感を感じない人は全く分からない程度のものだと思います。言葉では説明しずらい感覚ですから、あえて言うならイメージした動きと体の動きがイメージと数ミリずれているような感じですね、ちょっとうまく言えなくて申し訳ないですけど」
「そうですか。完全に同期しているはずなのですが・・・お答えいただきありがとうございました」
まだ疑問には思っていそうだが、とりあえずはこれ以上は質問してくる様子はないみたいだ。俺の場合は、普段から意識しているが為に違和感を感じたが、さっきも言ったように普段普通に生活しているなら気が付かないはずだし、そもそもAIであるアンナさんに感覚的な事をどうやってわかりやすく伝えればいいのか分からないから、これ以上の追及をされてもうまく答えれないから申し訳ないけど助かった。
「いえいえ、上手く答えることができなくてすいません。それでは行ってきます」
最後にアンナさんに一礼してから、ようやく転送陣に入ることとなった。
そして転送陣に入った時にうしろから、明らかにさっきまでのアンナとは声質の違う女性の声が聞こえてきた。
『始まりの街の不思議な扉、双子の月が導くひとつの満月によき出会いがあることをお祈りしております』
「え、・・・」
~~~
声の正体を確かめるために後ろに振り返った時には、さっきまでいた草原ではなく目の前には噴水がある広場らしき場所だった。周りを見ると噴水を中心とした広場があり外側には花壇や生垣、木々に囲まれている円形の大きな広場の噴水前に立っていた。
「今の言葉はなんだ?たしか・・・始まりの街の不思議な扉、双子の月が導くひとつの満月によき出会いがあることをお祈りしてます、とかだったよな。一体何のことなんだ?」
言葉の意味が分からずしばらくその場から動かないまま思案していると、広場の中で遊んでいた3人の子供達が近寄ってきて不思議そうに話しかけてきた。
「立ったままねてるのか?」「さっきからうごかないけど、だいじょうぶ?」「どこかいたい?」
おっと、少しの時間考えていたと思ったが、小さな子供に興味を持たれるほどに長く考え込んでいたようだ。
「大丈夫だよ、ちょっと考え事してただけだよ」
最後に言われた言葉の意味はまた後で考えるか。
まず街についたら街を回りながら情報収集をしようと思っていたけど、心配してくれた子供たちにお礼をしてから、子供たちからも何か話を聞けないか試してみるか。シュウは子供たちと同じ目線になるようにかがんで話しかけた。
「心配してくれてありがとう。実はさっきこの街に来たばかりで、まだこの街の事がいろいろよくわかってないんだ」
「そうなんだ~」「ちょっとまえもおにいさんみたいなひとたちがいたよね」「おおごえでなにかいってこわかった」
自分の置かれた状況とこの子達のいう事を信じるなら、大勢の人が近くにいきなり現れただけでも驚きそうなのに大声上げたりした人が居たら大人でも怖いと思うかもしれないな。
でも、その大声上げた人の気持ちも少しわかる気がするな。周囲を見渡すと木々の隙間や上に見える建物の色褪せ方から、耳を澄ますと人々が行きかう足音や聞こえてくる人の声,どこからかわずかに漂ってくる美味しそうな匂い。さっきまでいた草原と違いここでは人の営みを身近に感じることが出来て、まるで異世界で生きているかのように強く感じることが出来る。
俺もここに来る直前の言葉を聞いていなかったら、最初にログインしたときのように驚きで声をあげてたかもしれない。同じ気持ちなら分かるだけに、このまま子供に良くない印象のままだと可哀そうかもしれないから、謝るくらいはしておこうかな。
「ごめんね、その人たちも怖がらせようとしてたんじゃないと思うんだ。この街がすごくて嬉しくて、思わず声がでちゃったんだと思うよ」
「そうなの~?」「ふ~ん」
「そうだ。もしよかったらお詫びに何かおやつでも買ってあげようか?」
「おわび?」
「ごめんねってこと」
「いいの!やったぜ」「まって・・・・・ちょっとまってて」「でも、しらないひと・・」
近所の子供に話すときのようにしてたけど、何だか警戒されて3人の子供たちは少し離れてしまった。離れて集まっている所で、子供たちはチラチラとこちらを見ながら俺に聞かれないように相談しているつもりなんだけど、3mも離れていないので普通に聞こえてしまっているが、子供たちには聞こえてない振りをして、周囲を確認しながら子供たちの話し合いが終わるのを待つことにした。
「おやつはほしいけど、しらないひとには、ついていっちゃだめって、ママがいってたよ」
「え~、だったらこのひろばからはでなかったらだいじょうぶだろ。かってきてもらおうぜ!」
「う~ん、それよりはあそこなら?すぐそこのアメのおねえちゃん。ひろばのなかでしってるひとでしょ」
「それなら・・・いいの?」
「どうせなら、もっとたかいやつたべてみたかったけどな~」
子供たちの話を聞きながら思ったんだが、改めて考えるとすごいな。この子たちは多分NPC(non player character)と呼ばれる人たちなんだろうけど、まったく違和感なく会話ができていたし、いま子供たちが話している内容もさっきの会話の事を話しあっている。他のゲームで調べて分かったのは、決まった会話しか喋らないと書いてあったから、このゲームもそうなのだと思っていたのだけど違うみたいだな。
他のゲームをしたことがないから分からないけど、このゲームが改めてすごいという事が実感できるな。テレビや公式サイトで最新技術のAIが使用されているとは聞いていたけどここまですごいものだとは思わなかった。
技術の進歩によるゲームの性能に驚いていると、こどもたちの相談が終わって再びこっちに向かって歩いてきた。さっきまでの会話を聞いていた限り、三人の中で一番しっかりしていそうな女の子が代表して話しかけてきた。
「あのね、あそこのアメがいい。ほかは、だめだよ」
「分かった。あそこだね。行こうか」
そうして3人の子供たちに先導されるように、広場の隅にあった屋台に向かっていった。
屋台には中学生ぐらい?の女の子が1人で飴細工を作っているようで、こちらに気が付くと先に屋台に行っていた子供たちと会話をしたあとにこちらを見ると、自分が少し遅れて屋台に着いた時に話しかけてきた。
「あなたが、この子たちに飴を買ってあげる人?」
「はい、そうです」
「ふ~ん、顔は悪い人ではなさそうだけど、・・・・・・」
明らかに怪しい人を見る目で見られると、情報収集も行おうと思ったりしていたので少し心地悪いものがあるな。ただの善意で全く知らない人が子供に奢るなんて、傍から見ると何かあるのかと思ったりするのは分かるから別にいいけど。
女の子はある程度見て大丈夫だと思ったのか、屋台の子供たちに笑顔で話しかけた。
「まあ、いいでしょ。ほらこどもたち、好きな飴をお選び」
一応は不審者や悪者判定されずに済んだらしい。少しおかしな人だとは思われたかも知らないけど。しかし、近所の餓鬼どもなら俺を見つけるたびに情報やるから報酬くれって言うくらいだから、このゲームでもその感覚のまま相手していて、自分ではおかしな行動をしているつもりはなかったけど、もしかしたら変だったのかもしれない・・・一応気を付けよう。
「ところで、あなたは買わないの?」
ちょっと自分の行動について考えていると、屋台の女の子が接客用だと分かる笑顔とともに飴を進めてきた。せっかくだからゲームプレイの記念で自分用に買うとするか。
「そうだな。1つ買わせてもらうよ」
屋台にはいろんな形や色をした飴があった。シンプルな丸の飴から、しらない動物の形をした飴、飴の中に果物が入っている物など全部で20本ほどあったのだが・・・。
屋台の買い手から一番左奥にある飴を二度見してから、どうしても気になったのでそれを取った。その飴の形は現実の動物では白ウサギに一番似ている気がするんだけど、どうしてこのウサギ?は二本足で立って、さらにシャドーボクシングをしているような形をしているんだ?見た目は可愛いウサギなのに、短い前足で右ストレートの恰好をしながら、左耳が丸まった形でアッパーをしてる。改めてよく見るとなぜか手と耳の所だけが赤色になってる、絶対だれか殺っているだろこのウサギ。まさかとは思うけど、こんな生物がこの世界にはいるのか・・・。
「おぉ、私の今日の最高傑作を買うとは、あなたいい目してるね~」
子供たちが選んだ飴を渡していた屋台の女の子が、俺がとった飴を見て嬉しそうに背中をたたいてきた。
「うわ~、おにいさんあのアメえらんじゃったんだ」
「ゆうきあるな」
「わ~・・・」
興味本位で手に取りはしたけど、これを買おうとは思ってなくて、本当は小さいリンゴ飴の様なものがあったからそれを買おうと思っていたんだけど。何故かこの飴屋の女の子はものすごく喜んでるし、男の子からは何故か尊敬の視線を感じる・・・さすがに今から戻すのは少し心が痛むような気がする。・・・これを買うしか選択肢はないようだ。
何だか残りの子供たちからは、変わった人を見る目で見られている気がするんだけど、気のせいと思いたい。
「これ、買います・・・」
「まいどあり、1本50ベルで子供たちのも含めて200ベルだよ。いい買い物したね、おに~さん」
お金を払い終わった後に屋台の女の子がさらに上機嫌になって、話しかけてきたので話に付き合っていると話の流れでこの街のことを聞くことが出来たので当初の目的は果たせたのだが、街の話を聞く前に最高傑作なのになぜか売れない飴の話を女の子が満足するまで聞かされることになった事だけは誤算だったが、この女の子は思った以上に街に詳しくて、この街の事をより詳しく知ることが出来たのは幸いだった。
お読みいただきありがとうございます。