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剣と魔法のセカンドワールド  作者: K.T
第四話 魔術師の試練『第一スキル解放』
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最悪の可能性



 いったいこの森の中だけで、何体の黒い魔獣を倒しただろうか。


 一番多かった狼型の黒い魔獣だけでも30以上は倒したか。同じ狼型の魔獣でも時々違う種類らしき魔獣もいたのが多少面倒だった。

 違いは色が真っ黒なのは変わらず、複数現れた時に比較すると若干体が大きくなっているぐらいしか違いがなかった。種類が違う個体は、斬り飛ばそうとしたら一度では無理で二度斬らないといけないぐらいの違いだったので倒せない事はなかったのだが、混戦の中で大きさ違いを把握するのが不可能になった時に、全ての狼魔獣を二度斬るつもりで対応しなければならなかった。


 それに、今まで森で戦った事のある魔獣も全て体が真っ黒の姿の魔獣が現れた。次々に戦う数や種類が増えていき何とか子ぎつねと共に倒していると、最後には違う種類の魔獣がオールスターのごとくそろい踏みして一斉に襲い掛かってきた。


 いくら単調な攻撃しかしない魔獣であっても、数が増えると倒す速度も遅くなり回避する時間が長くなると、さすがに全ての攻撃をよけることは困難だった。最後の数体まで減らした時に、油断か疲労で気づくのが遅れた子ぎつねに、偶然なのか意図してなのかは分からないが、死角から襲い掛かってきていた魔獣を強引に(かば)って倒したことにより致命傷ではなかったが負傷してしまった。


 受けたダメージ()は持っていた回復薬を使ったのですぐに治ったのだが、戦闘が終わった後に子ぎつねが正面に座ってから頭を下げてきたので気にするなとだけ言った後、子ぎつねが一歩も動くことなく静止していたので心配したが、子ぎつねはそのまま崩れる様に伏せて動かなくなってしまった。ほぼ閉じている目で舌までだして疲れてきっている子ぎつねの様子を見て、そうだよな、さすがに疲れたよなと思って思わず頬が緩んだ。


 ここまで短い間に何回も戦闘をしたのは俺も初めてだったからいつもとは違う疲労感が体にあって違和感はあるが、普段の運動や稽古では出来ない有意義な経験が出来た事には感謝していた。


 そして、先導されるままに森の中を歩き回って戦っていたが、これだけの数の魔獣がいるなら生態系に影響が出るのも当然かと、倒した数の多さに驚きながらこれで森は元に戻るのだろうかと森の事を考えたりしながら次は何処に行くのかとユズハを見ると、戦闘が終わったらすぐに声をかけてから次の場所まで歩きだしていたユズハが立ち止まっていた。


 ユズハは目を閉じていて何かを探るように時折耳がぴくぴく動いているのを見ていると、十秒も経たないうちにゆっくりと目を開けた。


「ふむ、こんなものかのぅ。では戻るとしようかの」


 さっきまで歩いていた方向とは逆に歩きだして、方向的に最初にいた森の丘へと向かっているようだった。ようやく終わったかさすがに疲れたなと思いながら、最後の戦闘が終わってから力なく伏せている子ぎつねを抱きかかえてユズハの後をついて行った。



 戻る時には何の気配もない森の中を、他愛もない話と疲れ果てて抱き上げている子ぎつねへの修練をさぼっているからだと言うお説教を聞きながら、ふたりと一匹は昼過ぎには結界で守られている森の丘についた。


「さて、森の異常の原因は分かったが・・・」


 結界の中に入って早々ユズハは振り返って話し出した。


「シュウよ、心して聞くのじゃ。結界を解く前の雑事かと思っておったのじゃが、どうやら想定以上の事態になっておる。先ほどまで倒していた()()は本来この場所にはいないはずの生物じゃ」


「いないはずの生物?ほかの地域から移ってきたという事でしょうか?」


「そうではない。この国、いや、この⁅界ュ總?ァ()()()()してはならない生物という意味じゃ」


「世界に、存在してはならない生物・・・」


 何故か途中に聞こえてこない奇妙な間があったが、その後の言葉に衝撃を受けて呟くように繰り返してしまった。


「ふむ、どうやら伝えることが出来ぬ言葉があるようだのぅ。まあ、世界を旅すれば自ずと知ることになる事じゃから今は良い。森で探知した限りでは、まだ最悪の事態にはなっていないと思えるのが幸いなのじゃが、先ほどまで倒していた魔獣もどきの本体がいるだけでも最悪の事態にはなりうる可能性がある。特に、この近くの街にとってはのぅ・・・」


 魔獣もどきやユズハの考える最悪の事態など聞きたいことは増える一方だが、最後の街の事だけは先に聞かなければならないと思った。


「近くの街に、どんな影響があるんですか」


 ユズハは僅かな沈黙の後に、静かに告げた。


「・・・戦力が十分になければ、(ほろ)ぶじゃろうな」


「滅ぶ・・・そうですか」


 森で戦った事を踏まえて脅威を何となく予想してはいたが、滅ぶとまで言われるとは思わなかった。今日倒した魔獣もどきの数は50以上だったがそこまで苦労することなく倒せたのもあって、たとえ街が襲われたとしても負傷者が出るくらいで滅ぶ可能性までは想定していなかった。


「すまぬが、わらわはこれ以上関わることは出来ぬ。わらわが力を貸せば元凶を倒し事態を納めることも出来よう。だが、そうなれば過去に起こったことが繰り返されんとも言い難い。他にも問題はあるが、・・・もう二度と(いくさ)が起こるようなことはあってはならん。それだけは阻止せねば、・・・すまぬ、過去の事を想うて少々感情的になってもうた」


「いえ」


 過去にあった事が何かは知らないが、ユズハにとって忘れられないほどつらい過去があるのは伝わってきた。


「恨んでもかまわぬ。わらわにも守らねばならぬ者たちがおる故‥‥」


「待ってください。俺がなぜユズハさんを恨むんですか?戦力が足りずに滅んだとしても貴方のせいにすることなどあるはずがない。それに、多分大丈夫ですよ。少なくとも今あの街には数百人の冒険者が増えているんですから、それも倒されても戻ってくる人達ですよ。そう簡単に滅んだりしません」


 街の守衛がどれほどいるかは知らないが、プレイヤーはほとんどの人が冒険者になっていることは、職業の統計を見て知っている。まだレベルが低い人達もいるだろうが、戦力にはなるはずだ。 


「そうか、そうじゃな。他にも其方ほどの実力者がいるのならば、最悪の事態は防ぐことは出来よう」


「あ~、そうですか。まあ、大丈夫ですよ・・・多分」


「なんじゃ?急に曖昧な返事になりおって」


「ん~、まあ、大丈夫、大丈夫です」


「妙な反応じゃのぅ?」


 ユズハは困惑しているようだったが、追及してくることはなかった。


 シュウが返事に戸惑ったのは、他のプレイヤーの実力を把握していなかった為だった。今現在の自分の実力と他プレイヤーの実力を比較する機会がなかったシュウは、曖昧な感覚で自分とは違ってゲームのステータスをあげることが出来る他のプレイヤーなら自分より強い人もいるだろうと考えた。


「いざとなったら、魔獣もどきの200や300ぐらいは俺とこの子(子ぎつね)で倒してどうにかしますよ」


 わざと明るくそう言うと、今までおとなしかった子ぎつねはシュウから逃げるように飛び降りようとした。しかし、ユズハは空中にいた子ぎつねを掴んでから腕に抱きかかえると笑いながら言った。


「それはよいのぅ。思ったより速く成長した姿を見ることが出来そうじゃな。よかったのぅ、()()()や」


 ユズハに捕まった子ぎつねは始めは何故か震えていたが、最後にユズハが子ぎつねを撫でながら名前を呼ぶと一度大きく震えてからは撫でられるままおとなしくなった。


「コユズ?それが子ぎつねの名前ですか?」


「そうじゃ。本来なら其方が名をつけるべきじゃろうが、わらわは其方を気に入ってしもうた。名付けは縁を生む。再びまみえるように、そして、名付け親としてわずかながらも助力しよう」


 そう言ってユズハは、コユズを撫でていた手を帯の後ろから前に出した時には、狐のお面が手の上に置かれていた。お面は、口までは隠れないどことなくユズハに似ている狐のお面だった。


「これは・・・」


「このお面を其方に()()()。此度の事態にも役に立つであろう。いつか再びまみえる時には、不要になるほどの成長を望む。さあ、受け取るがよい」


 どことなくユズハに似ているお面を受け取り、眺めているとこちらを見ていたユズハの頬が少し赤くなっている気がしたが、シュウの視線に気づくと何処からともなく現れた扇子で顔を隠すように扇ぎだした。

 その様子を下から眺めていたコユズが笑っているような鳴き声と共に、シュウのもとへと飛んで肩へ着地した。肩の上に乗った後も小さな鳴き声が聞こえていたが、扇子から目だけを出したユズハに睨まれると、慌ててお面の中へ吸い込まれるように消えた。


「えっ・・・と??」


「心配せずともよい。呼べば出てくる。それに、今は少しでも早く回復させる方が良い。・・・わらわの事を笑った事は次にまみえた時の成長次第で決めるとしようかのぅ」


 ユズハがそういった時に手の上の仮面が震えた気がした。


「シュウよ。そろそろ別れの時間が迫っておるが、最後に危惧する事があるから伝えておく。もし魔獣もどきの本体を追い詰めて倒すことが出来れば何も問題ないのじゃが、追い詰めても仕留めきれなかったときやこの森に集まろうとしている動きがあれば時間をおかずに見つけ出して倒すか妨害してほしいのじゃ。其方も不思議に思った事があろう。この森は他の場所に比べて木々の成長が異常である事」


 確かに、最初にこの森に入った時から奥に行くにつれて大きくなってゆく木々の大きさには驚いた。


「それが、危惧する内容とも関わっておる。この森の奥にはかつて(いくさ)があったころに倒した魔物が数多く埋まっておる。中には厄介なものもおる故。今日の様子ではまだ見つかっていないと思うが、用心はしておいた方がいいであろう」


「わかりました。そもそも、この森を荒らすようなら俺が真っ先に倒しますよ」


「そうか、たのむとしよう」


 お互いが笑うように言い合ったあと、ユズハが目に焼き付けるように丘の上を見つめた。


「では、わらわは戻るとしよう。また会う時を楽しみにしておる」


「はい。必ず会いに行きます」


「そうか、そうか。では、さらばじゃ」


 笑みを浮かべながら扇子を一振りすると、風が舞い上がると同時にユズハはいなくなっていた。


 いなくなった後もしばらく考えながらその場に立っていたが、設定していた13時の通知が来たので、一度昼飯をとる為にログアウトするか考えたが、今ならいつもより速く街に戻れと思い街に戻ってから考えることにした。


 森の中を走っている途中。


「・・・・・そういえば、弁当買っていたんだから渡せばよかったな」


 ユズハと再会してからは色々ありすぎて、まだゲーム内では今日一度も食事をとっていない事も忘れていた。


 森の中では予想した通りに戦闘が起こることはなく、結局街に戻るまで戦闘が起こることはなかった。



読んでくださりありがとうございます

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