最初の使い魔
シュウはユズハと合流してから森の中にある丘の上にある墓石の前まで歩いて行ったユズハを後ろから見ていた。
数秒の静寂の後、ユズハが振り返った。
「花を手向けてくれたのはシュウであっておるかの?」
「はい」
「そうか、ありがとう。こやつも綺麗な花を見れて嬉しく思うだろう。・・・すまぬの、花すら持ってこれぬわが身の現状に辟易するわ」
俺に向けての感謝の言葉の後に小声で何か言っていたが、僅かに聞こえた謝罪の言葉と苦悩の表情を見て聞き返すようなことはしなかった。
すぐに、先ほどの苦悩に満ちた表情は見る影もなくなった様子のユズハが、思いもよらない事を聞いてきた。
「さて、約束通りにあの時よりの強くなっておるのはわかったが、なにやら使い魔の事で悩んでおるようじゃな?」
「な、・・・何故その事を?」
「ほっほっほ、わらわのこの立派な耳をもってすれば、そなたの独り言など森の中からでも聞こえておるゆえな」
何時から持っていたのか、手に扇子を持って広げて口を覆いながら、「立派な耳を」の所で耳を大きく左右に動かしたりして、やけに芝居がかった様子で教えてくれた。
「其方さえよければ、わらわの使い魔を授けても良いぞ。色々役に立つのは保証するぞ」
二回会っただけの俺に使い魔を授けるって、何か試されているんだろうか?よくタダより高い物はないって言うから、絶対に確認しておいた方がいいよな。
「・・・何も見返りや条件がないってことはないんでしょう?」
「まあ、そうじゃな。特に見返りが必要ではないのじゃが・・・見せた方が早かろう」
ユズハはそう言うと、ポンっという音と煙と共に一匹の真っ白な毛色の子ぎつねが、ユズハの足元に丸まった状態で現れた。
「「・・・・・」」
現れた子ぎつねは、丸まっていたので尻尾で顔が見えなかったが、規則正しく背中は動いている様子から多分寝ている状態だった。
「こ奴はまた・・・」
あきれた様子で手に持っていた扇子を振ると、誰も触れていないのに首根っこを掴まれているように空中に浮かび上がった。
その状態でもなお眠ったままの様子で目も開いていなかったが、ユズハが扇子で頭を小突こうとした瞬間に、いきなり俊敏に動いて扇子から逃げるように俺の足の後ろまで来て隠れた。
すぐに出てくるかと思ったが一向に出てくる様子はなく、また最初のように丸まってはいたが、足の隙間から顔が見える位置で丸まっており、一応ユズハを警戒しているようではあった。
「見てわかったじゃろうが、こ奴はちょっと変わっておる。戦闘の才能やセンスがあるのは間違いないのじゃが・・・どうにも我の近くじゃと成長する機会がなくての。これからもいろんな場所へ行く其方に預ければ成長する機会があるじゃろうから、もしよければ連れて行ってほしいんじゃ」
俺としては特に決まった使い魔を手に入れようとは思っていなかったから、ユズハのお墨付きで有能な使い魔を手に入れられるなら、ありがたい事ではある。
それに、一応一体ぐらいは使い魔がいないと、次にエリアルに会った時に何か言われるかもしれないなと思っていたのもあって、正直助かる提案ではあるのだが。
「俺から使い魔に求める条件は特に何もないので別にかまいませんが・・・君はそれでいいのか?」
後ろに隠れてから一切動いていない子ぎつねにいいのか聞いた。
「コン」
けだるそうな様子で返事をしたが、いいって事なのだろうか?確認のためにユズハを見ると、相変わらずの子ぎつねの様子に呆れながら「良いと言っておる」と言われたタイミングでメニューの使い魔獲得の通知が来たから、子ぎつねは了承しているのだろう。・・・そういえば、きつねの鳴き声はコンではなかったはずだけど、まあゲームだからと言われればそれまでかと思って通知を見ようとしていた時に、ユズハが俺を見た後に視線を下げながら言った。
「授けたからにはそれなりの成長を期待しておるからの?もし、想定より低かったら・・・分かっておろうな」
一瞬、思わず通知を見る手が止まるほどの異様な寒気に襲われた時に、足元からわずかな振動が伝わってきたので見ると、足のわずかな間に頭を入れて震えていた。
「さて、どうやら前に来た時よりもおかしなことが起こっておるようじゃが。其方は何か知っておるか?」
さっきまでのおっかない雰囲気などなかったかのように話し始めたので、俺も触れることなく答えた。
「いえ、この状態が異常であることは分かっても原因は分かっていません」
「そうか」
ユズハは少しだけ悩むように考えた後。
「まあよかろう。約束していた通りに多少は強くなっておるようじゃから、予定していた通りに森を歩き回ってみるとしようかの」
扇子をパチンと音のなるようにユズハがたたむと、足元にいた子ぎつねがビクッと動くような気配がした。
「初めての使い魔の初陣となろう。シュウだけでなく、使い魔との連携も我がおるうちに見ておきたいからの」
ユズハの視線が足元にいる子ぎつねを見定めるような目で見ていたが、視線に気づいた子ぎつねは足の後ろから出て横に並ぶと、大きく伸びをした後に俺の肩に飛び乗ってきた。
いやいや、さすがに無理だろと思ったが重さをほぼ感じなかったので、移動するだけなら負担にはならないかと思い、肩で安定する位置を探そうと動いていたが好きにさせた。
「こやつ・・・」
ユズハは苦言を呈そうとしていたが、俺が許容していたのでそれ以上言う事はなかった。
苦言は、言う事なかったのだが・・・。
「先ほども言った通り、そ奴には才能がある。だからの、其方が戦うときに気軽に戦闘に参加させればよい。なんなら、生贄や逃げる為の囮でなければ、魔獣がいる森や洞窟に放り込んでもよい。さすれば、孤立無援で絶体絶命の状況でも生き残れるぐらいの力を手に入れることが出来るはずじゃ」
「・・・」「・・・コ、コン」
受け取るからには、出来る限りは成長させようとは思っていたが・・・生贄や囮はさすがに冗談で言ったのは分かったが、その後は間違いなく本気で言っていたな。
獅子の子落としとは言うが、想定される苦難がちょっとハード過ぎないだろうか。孤立無援で絶体絶命って、それ普通なら死ぬけど・・・。
子ぎつねも不味いと思ったのか、神社にある狐の石像のように座りなおしていた。その様子を見たユズハは満足げにうなずくと、意気揚々と森へと歩き始めた。
「ではゆくとしよう」
「はい」
森に入るまでに視線を感じて子ぎつねを見ると、目が合って仕方ないとでもいうようにか細く鳴いた。
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