試練の内容・魔術師の危険性
師匠(仮)のエリアルとミュウがステータスを見ているので、リンが淹れてくれていた飲み物を飲みながら2人が見終わるのを待っていた。
ステータスを見ていたミュウが俺のステータスを見ていて、質問してきた内容がリーナと同じだったのでフィジカルのバグの事を話した後、ミュウとは軽く雑談をしながらリンとリーナの料理が出来上がるのを待ってた。
師匠(仮)がおれのステータスの確認が終わったらしく話しかけてきた。
「うん、Lv.5までちゃんと上がってるわね。これなら試練を始めることが出来るわ。レベルが足りなければ、最初に戦わせた強さでクロナイトちゃんとLv.5に上がるまで戦わせるつもりだったから、手間が省けてよかったわ。あの後に勢いでクロナイトちゃんを強化している所だから、またあの強さに制限をかけるのは手間になるからいやだったのよね」
いやいや待ってくれよ。Lv.が上がるまで戦わせる予定だったって本気か?あの黒鎧は重さがあるフルプレートのはずなのに一瞬で距離を詰めてくるスピード、途中からは何故か力任せじゃなくて対人戦を想定した剣術の実力に、自己修復している鎧の性能があるから多分Lv.が上がる以前に、連続で戦うとなるとマナ切れになって倒せなくなると思うんだが。
今の俺だとレベルが上がって持久力とスキルの選択肢も増えたから、前戦った黒鎧の状態だとイメージ通りに戦えても連続で勝てるのは2回までだな。またあの【 A カード】を使ったらさらに2回は勝てるだろうけど。
それにしても、最初の時の強さでも異常な強さを誇っていたと思うけどさらに強化したのか。もし、強化された能力が黒鎧の基礎能力だったらかなり面倒な戦いを強いられるな。
「う~ん、料理が出来るまでまだ時間がかかるでしょうから、先に弟子の試練の内容について話しておこうかしらね」
「そうですね、お願いします」
「わたしは、向こういっていた方がいい?」
「おれは別にいいけど、ミュウには向こうに行ってもらった方がいいですか?」
一応魔術師の事だからエリアルに聞いてみたんだが、エリアルはおれを見て小さく息を吐いた後に話してきた。
「ごめんなさいね。出来ればシュウにだけ話しておきたいからリーナ達と一緒にいてくれる?」
ミュウは頷くと席を立って奥にいるリンとリーナの方に向かって行った。
「聞かれるとまずかったんですね。危機感がなくて申し訳ないです」
「後で皆にも言っておく事があるからまた集まった時にするわ・・・それより、さっきから思っていたのだけど、どうして貴方はそんなに堅苦しい話し方をしているの?最初に会った時はリンの姿で話していたから、どんな人か分からなくても仕方ないと思うけどリーナもミュウも気安く話してくれるし、同い年ぐらいなんだから別に堅苦しい話し方をしなくてもいいのよ?」
その同い年だという事を強調されると、余計に前に思った通りのエルフの設定なのかと思ってしまうから年上だと思ってしまって、つい敬語みたいになってしまうんだよな。気楽に話すのも純や姉さんぐらいだから、大体の人にはこんな感じの話し方で話すのが多いんだけど、どうしようかな。
「エリアルは魔術師の師匠でおれは弟子なので、エリアルには教えを習う立場ですから自然とこんな口調になってしまうのだと思います。嫌でなければこのままで話させてほしいのですが、だめですか?」
「いえ別に嫌ではないからいいのだけど。そっか、ずいぶんと殊勝な心掛けなのね。嬉しいわ、こんなに殊勝な弟子を持てたって私もあいつらに自慢できるわ!そうだ、このままシュウを鍛えて私の弟子が一番強いってことも自慢してやるわ」
教えを習う立場だから真剣に教わろうと思っているのは本当だけど、ここまで素直に信じて喜ばれるとなんだか少し罪悪感があるな。さっき思いついて理由を考えて言っただけだから・・・まあ、誰に自慢するのかは知らないけどエリアルが弟子の事を知り合いに自慢できるぐらいには言った責任として頑張っていこうか。
「それじゃあ魔術師のスキル開放する為の内容を伝えるから、絶対に達成して強くなるのよ。一つ目のスキル解放条件は、魔核の魔素が50%以上の魔核を3つ手に入れてこの魔術書に与える事」
エリアルはそういうと一冊の本を取り出した。本の大きさはA5サイズで、本の淵だけが黒枠で囲われていて表紙の部分は何も描かれていない本だった。
「エリアル質問があります。魔核の魔素が50%以上とはどういうことですか?」
「あれ?説明していなかったかしら?基本的に魔核は魔素の量が多いほど大きく色も濃くなるわ。説明してないのなら魔核の計測器も渡していなかったのね。後で用意して渡すけど、貴方の場合はステータスの表示で分かるからいらないのかしら?まあ、後で考えましょう。う~んと、いま手元には魔核がないんだけど、一番最初に貴方にあげた魔核は魔素の量が最低でも25%以上の魔核で、ちなみにクロナイトちゃんに勝った時にあげたのは魔獣の魔核で100%の状態ね。だから最初にあげた魔核以上のものを集めるのよ」
最初にもらった魔核は、確か初めてステータスを確認したときだな。あの時にエリアルからもらった魔核でスキルポイントが2増えて、黒鎧の魔核は5だったな。俺が知っている中でエレファントバッファローが4だけど、他の魔獣で魔核の魔素が50%以上のものとなると知ってる魔獣ではエレファントバッファローともしかしたらキリングタイガーとビッグベアーが該当するかもくらいかな。
そして分かることは、最低でもビッグベアーとキリングタイガー以上の強さを持った魔獣を倒さないと、50%以上の魔核を手に入れることが出来ないという事だな。
そういえば、ハンターウルフのリーダーを倒しても魔核を落とさなかった理由も聞いておきたいな。多分魔素の量に関係がある気がするけど、エリアルが知っているなら確証が欲しいな。
「エリアル、魔獣を倒した時に魔核が手に入る敵と手に入らない敵がいるんですけど、その違いは魔核の魔素の量が少ないから手に入らないってことでいいんでしょうか?」
「う~ん、最低でも魔素が10%はないと魔核にはならないんじゃないかしら。私は詳しく調べたことがないから分からないけど、私が今まで手に入れた魔核で10%以下の魔核を手に入れたことはないわね」
「最低でも10%以上ですか・・・」
ハンターウルフで手に入れられなかったのは、リーダーがまだ若いか未熟だったからなのか。だから魔素の量が足りていなくて、魔核にはならなかったんだろうか。
となると、最低でも魔素の量が10%以上でスキルポイントが1の魔核が手に入ったから、25%以上で2ポイント、50%以上で3ポイントだとすると、75%以上で4ポイントになるのかな。
「そうね、いい機会だから魔術師と魔核・魔素の関係を教えておいてあげる。知っておけばスキルLv.を上げる時に無駄な時間を使うこともないだろうから効率よく上げていけるはずよ」
出来ればその情報はもっと早くに教えてもらえたら嬉しかったけど、あの時はおれも魔術を使えると思って少し浮かれてたし、エリアルも俺の魔術を見たくてさっさと小屋の裏にある広場に行ってしまったからな。
その後にも聞くタイミングはなかったから仕方ないな。
スキルLv.を効率よく上げるのに役立つ情報なら、今後の絶対役立つだろうからよく聞いておこうか。
「魔術師のLv.は魔獣を倒すことでLv.が上がって、スキルLv.を上げるには魔核を使うとLv.を上げれるのは前にも言った通りだけど、スキルLv.を上げる為の魔核にはいろんな条件があるからそれを教えるわね。重要な点は主に三つあるわ。
其の一、魔核を入手して使うときは一人で戦って倒した魔物の魔核を使う事。
理由は、魔術師は自分の根源である魔術を使って魔物を倒すわよね。そうすることで魔物が持っている魔力と魔術師のマナ(魔力)がぶつかり混ざるらしいのよ。だから魔物を倒して魔核になった時には、魔術師のマナが魔核に多く混ざっているから自身の根源に与える時に魔核を効率よく吸収して強くすることが出来るの。
其の二、同じ種類の魔獣から手に入れた魔核は吸収効率が悪くなるわ。
貴方のステータスで分かりやすく言うなら、魔核でスキルポイントが(1/10)Pもらえていたのに、同じ魔獣の魔核をもう一度与えようとすると吸収できなくなるわね。私の場合は与えようとしたときに感覚で魔素が足りていないのがわかるけど、シュウならそのステータスで確認ができるんじゃないかしら。
だから早く強くなりたいならいろんな場所に行って様々な魔獣や魔物を倒す事ね。
其の三、魔核はマナの回復手段にもなるわ。
ただし、其の一の自分で倒した魔物の魔核で、其の二のスキルポイントが手に入らなくなる魔核のみ、使うことが出来るわ。回復量は少ないけどいざという時には必要になるから、魔素が足りていない魔核が手に入るようになったら魔核はすべて売るんじゃなくて、必ず1個か2個は持っておくようにしておきなさい。
ただし、魔素が多いほど回復も多くなるから便利だけど、続けて魔核を使って回復することは基本しない方がいいから注意しなさい。最低でも30分は時間が経ってから使用する事、もし使用しすぎると過剰摂取の弊害で数時間から数日マナが自然回復しないから危険よ。
今はこの主な三つを覚えていればいいわ。魔核の利用法や種類についてはまだ教えることがあるけど、今はまだ見る機会もないでしょうから・・・ないとは思うけど、食事の後に戦う予定の子に勝てたら見れるけど絶対に負けないから見る事は出来ないでしょうけど万が一にも勝てたら見れるわ。それで、さっき説明した内容で何か聞きたいことはあった?」
エリアルはかなりの自信があるみたいだな。前も絶対に勝てないからとか言っていたのに、おれが勝ってしまったからかなり悔しかったんだろう。でも、今回はおれも前の時とは違って体を動かすことに限っては寸分の狂い無く意図したとおりに動かせることを確認できているから、エリアルが思っている通りに倒されるつもりは一切ないけどな。
それより今はこの後の事より、まずは聞いた内容の確認だな。其の二と其の三は特に聞きたいことはないんだけど、其の一で気になることはあったからその事を聞いておこうか。
「其の一の事で聞きたい事があります。自分で倒した魔物の魔核じゃないといけないという事は、パーティーメンバーと一緒に倒した魔物の魔核だとスキルLv.は上げれないという事でしょうか?」
「上げれない事はないわよ。ただ、ちょっと面倒なのと効率が良くないのよね」
「面倒?効率が良くないというのはどういうことですか?」
「私の経験談になるけど、パーティーを組むと報酬をみんなで分け合うじゃない?私もお金は必要だけど魔核も強くなるためには必要だったのよ。でも魔核の使い道なんて、街の魔力の維持と魔道具への魔力補給ぐらいにしか使い道がなかったから、普通の冒険者はギルドに買い取ってもらってお金に換えるものなのよ。だから、それを集めている私は変な噂ばかり言われるようになったのよ。私が素顔をさらしていなかったのも原因なんだろうけど、魔核が個人で必要なほど魔道具が沢山ある大豪邸に住んでいるとか、魔道具の開発のため必要としているとか、魔核の新しい利用法を開発している研究者だとか、闇の組織が大魔法を使うために集めているとか、訳の分からない変な噂が広まるからパーティー組むのが嫌になったのよね」
師匠の実体験なだけに、面倒で苦労したことが話している様子からも伺えるな。変な噂が広まると街にいづらくなるだろうし生活にも困ることになるから、変な噂が流れて面倒な事になるくらいならパーティーは組まない方がいいのも分かる話だな。
あと考えられるのは、師匠(仮)って親しい友達、というか仲間がいなかったりするんだろうか・・・・・。
うっ、声に出していないはずなのになぜか睨まれたのでこのことは考えないようにして、話の続きを聞いておこう。
「・・・それと、私がパーティを組まないようになった最大の理由は効率が悪いことに気づいたからよ。其の一でも言ったけど、パーティーで倒した魔獣の魔核だとLv.が上がるのが遅かったの。あの時は計測器を作ってなかったから、教会で確認しながら一人で倒した魔物の魔核とパーティーで倒した魔獣の魔核を使って試したら、1人で倒した魔核を使った方がLv.が早く上がったのよね。貴方も後で渡す計測器を使って試してみたらわかるけど、1人で倒した魔獣の魔核とパーティーで倒した魔獣の魔核だと吸収できる魔素の量が違っているから、効率よくスキルのレベルを上げたいなら一人で戦って魔核を手に入れなさい」
「・・・苦労したんですね。でも、エリアルの他にも魔術師の人はいるんですよね?ほかの魔術師の人から聞いていなかったんですか?」
「それは、・・・まあ私の事はいいじゃない。ほかに質問はある?」
エリアルにも何か事情がありそうだけど、話したくはないようだから無理して聞くような事でもないか。
「ならもう一つ、おれは最初にエリアルから魔核をもらって使った時にはスキルポイントを獲得できたから何か例外でもあるのかと思ってるんですけど、どうなんですか」
「・・・やっぱり気づくわよね。私も後でやっちゃったとは思ってたんだけど、私が渡した魔核が使えた事にはちゃんと理由があるのよ。それは師弟の契約を貴方としているからで、これは師弟の契約のメリットでもありデメリットなのよ。師弟の契約には弟子に魔術の力と師匠の魔術を使えるようにする効果があるのだけど、これはつまり師匠であるあたしのマナを使って貴方の魔術の根源を作ったから私が倒した魔物の魔核でも使用する事が出来るのよ。もちろんあなた自身が戦って手に入れた魔核に比べると効率は悪くなるんだけどね・・・」
・・・あれ、ちょっと待てよ。それってかなりヤバイいんじゃないか。その理屈だと師匠であるエリアルの魔核は弟子であるおれが使えるけどその反対は出来ないって事だろうし、何よりそのシステム自体が危なすぎるだろう。
「・・・・・エリアル、念のために聞いておく、契約が解除できないのは前にも聞いたからしっているけど。この師弟の契約は、師匠が弟子を止めれるようになっているんだろうな」
「シュウは本当によく気が付くわね。弟子を止めれるような効果なんてないわよ。そんな効果があったなら契約を解除出来るようになってるとは思わない?」
「この契約は、かなり危ない契約じゃないのか?」
「そうよ、かなり危ないわよ。かなり昔だけど師弟の契約を奴隷の契約といっていたこともあるらしいわよ」
奴隷・・・ね。確かに最悪の場合はそうなることもあるだろうな。俺自身はそんな気は全くないけど、仮に弟子になった奴が権力又は実力がある場合には、弟子にとって師匠は都合のいい戦力増強の駒になるだろう。
なるほど、魔術師であることを隠さないといけないわけだ。俺もうかつだったな、知らなかったとは言えもっとよく考えるべきだった。師匠に後で魔術師であることを分かっている人物がいるから、その人たちの事を伝えておかないといけないな。
「はぁ、・・・なるほど、大体わかりました。エリアルに伝えておきたいことが出来たので後で話しますね。でも、今更ですけどよくこの師弟の契約をしようと思いましたね。軽々しくしていいものではないでしょうに・・・」
「仕方ないじゃない。私もあの時は焦っていたし、まさか契約が成功するとも思ってもいなかったのだもの。でも大丈夫よ、契約したのがシュウなら悪用したりしないでしょ。それに、今はまだ私の方が強いはずだから何の問題もないわよ。それより、シュウも気づいたみたいだけどリンとリーナの料理が出来たみたいだから一旦話を切り上げましょうか」
そういうと、エリアルは立ち上がってリビングの奥に行こうとしていたのだが、立ち止まって振り返った。
「そうそう、さっきの話し方の方が親しくなれたみたいで良かったから、次からはさっきの話し方で話してもいいからね」
それだけ言うと、エリアルは見えなくなって奥の方へいくとエリアルの「美味しそう」という大きな声が聞こえてきた。
まったく、とんでもない契約をさせられたものだな。確かにこれは、リーナやミュウには聞かせられない話だ。顔に現れないようにみんなが来るまでに少しでも頭の中の考えを整理しておかないといけないな。
4人が近づいてくる足音を聴き、知らされた内容の重みを感じながら心を落ち着かせるようにしてみんなが来るのを待った。
お読みいただきありがとうございます。




