師匠(仮)
師匠がリビングに戻ってくるので、挨拶と誤解している話をどう話していくか考えて師匠を待っていたのだが、扉が開いて出てきた師匠を見たおれは師匠のある一点を見てまさかとは思っていたことが当たって、考えていた挨拶を忘れて立ち尽くしてしまった。
視界の端にいたリーナ達からは息をのむような声が聞こえて、リーナは両手を口に持ってきて驚きの表情をしており、ミュウは珍しく大きく目と口を開けて驚いた顔をしていた。
「「「・・・・・」」」
師匠はリビングに入ってきて何もしゃべらずに固まっている三人を見ると、不思議そうにしながら話しかけてきた。
「なんなのよ、みんなして固まっちゃって・・・・・そういえば、昔も似たようなことがあった気がするわね。パーティーメンバー以外の前で自分から素顔をさらしたのって久しぶりだから忘れていたわ。いったい何なのかしらね、あいつらも面白がって教えてくれないから分からないのよね。何をそんなに固まることがあるのかしら、シュウ分かる?」
「おれは、純粋に驚きました」
まさか、ファンタジーの定番である種族であろう人に今日だけで2人も出会う事になるとは思わなかった。
「師匠って、・・・もしかしてエルフとか呼ばれたりする人ですか?」
「ええそうよ。でもよく知ってるわね、あなたまだこの国以外に行ったことないでしょう?この国にはエルフは私以外いないはずなんだけど」
「それは、・・・」
インターネットでファンタジー小説を調べた時に、必ずと言ってもいいほど出てくる人だからという事をどう説明しようかと思っていたら、リーナとミュウが俺に驚いて話を遮るように問いかけてきた。
「えっ、待ってシュウ。驚いたのそっち!?」
「シュウ、ちょっと待つの!?」
「えっ、なんだ?リーナ達は違うのか?二人ともそのことで驚いているんだと思ったんだが・・・」
「エルフの事は言われて気づいたからそのことも驚きだけど、まずはこの人の美しさに驚いたりしなかったの!?ものすごい美人でトップモデルみたいじゃないの、あなたの師匠‼」
「みんなは絶対それが理由で初対面の人は驚いて固まってしまうと思うの。間違いないの」
ミュウが同意するように何度もうなずきながら言うので、改めて師匠を見たのだが・・・確かに美人ではあるのだろうな、整った顔に腰まで伸びた金色の髪が部屋の光を反射して光っているうえに、長身でスタイルも良くてよく鍛えられているのは分かるし、知的な大人の女性って感じに見そうなのは分かる。
理解は出来るんだけど・・・最初に小屋で師弟の契りをした時の印象から、何だかもっと子供っぽい人を想像していただけにイメージが違いすぎたので、顔を見た時に長く伸びた耳にだけ意識が言ってしまった。
「でも、おれからするとリーナやミュウも美人だからそこまで驚くような事には思えないんだけど?」
「・・・」
「(朴念仁おそるべしなの)・・・」
リーナは赤くなって顔を伏せてしまって、ミュウには顔をまじまじと見られるし、何だか俺が変な事を言ったような空気になっているんだけど。
「そうよね。この二人は美人で可愛いし、それに私程度なら里に帰ればいくらでもいるから多分違うわよ」
リーナとミュウは師匠とおれを交互に見ると、何か納得したような顔をして二人で頷いていた。
「(この二人は似たもの同士だ)」
「それより、まずはこの二人の事をちゃんと聞こうじゃない。こんなに綺麗で可愛い子を2人も小屋に置き去りなんてかわいそうじゃない。座って詳しく聞きましょうか」
師匠はそういうとさっきまで俺が座っていた椅子に座ったので、おれは師匠の正面に座るとリーナとミュウが左隣に並んで座った。
「とりあえず自己紹介から話をしていきませんか師匠?そうすれば分かってもらえる部分もあると思うので、いいですか?」
「いいわよ」
「良かったです。それじゃあまずは、おれからいきますね。初めまして師匠、貴方の一番弟子になったシュウです。今はおれに対して誤解していることもあるかと思いますが、今後ともよろしくお願いしたいと思っています。では次にーーー」
椅子から立ち上がって師匠に自己紹介をした後、リーナ、ミュウの順番に紹介していきリーナからの依頼を受けてパーティを組んでいる事、二人も同じ星を渡る者だという事も説明して、決して置き去りにしていたり出れないようにしていたわけではないという事をリーナとミュウにリンの証言も加えて話すとようやく師匠も分かってくれた。
「そうだったのね。シュウ、ごめんなさいね。私にとって初めての弟子だから、過ちを犯しているのなら何とかしないといけないと思って勘違いしてしまったわ」
「大丈夫ですよ。単なる勘違いだったんですから」
「そうよね。・・・シュウは同じ種族でも間違える事はないわよね」
「間違える?」
「なんでもないわ。それより、みんな自己紹介をしてくれたから私もしないといけないわね」
師匠は表情を暗くしていたが、再び顔を上げた時には先ほどの不安そうな表情はなくなっていた。師匠は少し微笑みながら立ち上がると自己紹介を始めた。
「私はシュウの師匠でリンの生みの親でもあるエリアル・フォン・アルマよ。本当はもっと長ったらしい名前があるんだけど、面倒だからエリアルでいいわよ」
「エリアルさん、よろしくお願いします」
「エリアルさん、よろしくお願いするの」
「今日はちゃんと名前まで教えてくれるんですね。エリアル師匠」
「どうせ後でわかるでしょうからね。それと、見た所みんな私と同い年ぐらいだから、堅苦しい言い方もしなくていいし呼ぶときもエリアルだけでいいからね。シュウもべつに師匠をつけて呼ばなくてもいいわよ。呼び名がなかったら不便だからそう呼ばせただけだからね」
リーナとミュウの2人は分かったと言いすぐに名前で呼び合うようになった。そういえば、ネットの大体の小説ではエルフって長寿の種族として書かれることが多いんだけどこの世界だとどうなんだろう。・・・なんだ?急に寒気が、深く考えるのはやめておこう。
「でも、シュウには名前を知らない方が面倒に巻き込まれないと思って言わなかったんだけど、貴方の場合は意味なかったみたいね」
「どういうことですか?」
「上着の内ポケットに入っている物を出して見なさい」
服の内ポケットには冒険者ギルドで依頼を受けた手紙入りの封筒を入れていたけど、この手紙ってやっぱりエリアルへの手紙だったのか。でも、確かこの手紙って渡す人に出会ったら反応するんじゃなかったのか?じゃあこの手紙はエリアスの知り合いに渡すものなのかな?冒険者ギルドで言っていたことを思い出しながら、服の内から手紙が入った封筒を取り出してテーブルの上に出した。
「この手紙の事でいいですか?」
エリアルは封筒を手に取ると、いつの間にかエリアルの後ろにいたリンからペーパーナイフのような物を受け取って、封を切って中の手紙を取り出すと手紙の封も半分以上も切ってしまった所で慌てて止めた。
「エリアル、ちょっと待ってください」
「どうしたのよ?」
「いや、これはギルドの依頼で渡す人がいるんですよ。それを勝手に開けるのは・・・」
「でもこれは、ギルドから私宛への手紙でしょ?」
「いや、あの、その人に会ったら手紙が、・・・その、手紙を渡す相手には、手紙が喋るって聞いてたんですけど・・・」
「へっ?・・・・・あ~、そっかそっか。そういえばそんなことしたわね~・・・ぷっあははh」
始めは俺が何を言っているのか分からない様子だったが、何か分かったのか一人で納得すると小さく噴き出した後、お腹を両手で抱えながらで笑いだした。
その様子をおれとリーナ達は不思議そうに見ていたんだが、よくは分からないけどこの様子を見るとやっぱり手紙が話す事はないんだろうな。多分エリアルが何かをしたからだろう。何をしたのかは分からないけどあのバルデスというギルド職員をからかったんだろうな。
エリアルはひとしきり笑った後に私宛だということを証明しておきましょうかと言って、リンをエリアルの隣まで呼ぶと何やらリンに耳打ちしてから手紙をテーブルの上に置いた。
「それでは、確認しましょうかね。この手紙は誰に届ける手紙かな?」
そう言ってエリアルが手紙に触れると、手紙に幾何学的な模様の魔法陣みたいなものが現れて、手紙から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「エリアル・フォン・アルマ様宛の物です」
「じゃあ、・・・」
なんだ?エリアルがこっちを見て笑ったんだけど、嫌な予感がするのは気のせいだよな。
「師匠の言うことも聞かずに説明もせず勝手に帰っちゃったから、今度は最初から手加減なしの全力でクロナイトちゃんと戦わせようと私が思っている子はだーれだ」
「・・・シュウ様です」
リンを見ても口元は一切動いてないけど、明らかにこの声はリンの声だよな。それより、手紙が喋る秘密は分かったから今は早くエリアルを止めないとまた愚痴を聞かされそうだ。
「ちょっと待った。勝手に帰ったのは俺が悪かったですよ、リンも悪乗りしないでエリアルを止めてくれ」
「一応は創造主なので、申し訳ございません」
「一応って何よ~?もうちょっとリンは私に優しくしてくれてもいいのにな~」
「エリアル様が怠けないように、ご自身で厳しくするようにプログラムを組まれたはずでは?」
「うっ、そうだけど・・・」
美人なのに頬を膨らませて不満な顔をしているのを見ていると、なんだか出会った当初の師匠に戻っている気がするな。一応は二人の前だったからよそ行きの話し方をしていたのかな。
「それより、手紙から聞こえてきた声はリンの声ですよね。ギルドにこの手紙を説明するときに同じようにしてからかったんですね」
「そうよ。私に連絡が欲しい時に使えるように手紙を渡したんだけど、用事を書いた手紙を持っていたら分かるから冒険者かギルド職員にでも持たせればいいよって言ったのにどうやってわかるんだよって聞くからちょっとからかったのよね。ふふっ」
よほどその時の事が面白かったらしく、エリアルは思い出し笑いをしていた。
「はぁ、手紙が話すのは師匠がからかったからだという事は分かったんですが、この手紙ってちゃんとした盗み見の対策はしてるんですか?エリアルは簡単に手紙の封まで切っていましたけど」
「大丈夫よ。ほら、見て見なさい。二人にも見せていいわよ」
そういって手紙の封を完全に切って、中の手紙を取り出すとおれに渡そうとしてきた。違う人あての手紙を見るのは気が引けるんだけど、早くしなさいと急かして渡そうとしてくるので、仕方なく手紙を受け取って二つ折りにされた手紙を開いた。
「・・・・?」
手紙には何も書かれていなくて、裏返してみても真っ白のただの紙だった。リーナとミュウにも渡すと両面を見たりして、ミュウは部屋の光にすかしたりしていてそれをリーナがやめさせようとしていたりしたけど、不思議そうにして二つ折りにした手紙が返ってきたので、そのままエリアルに返した。
「何も書かれていないでしょ?でもね、この手紙は受け取る人が正しく力を込めると読めるようになるのよ」
そういって二つに折った手紙を手で左から右にさわりながら動かすと手紙の表面に『冒険者ギルド・オノコロ』と表れていた。エリアルは手紙を持って内容を見ると、少し困っているような顔をしながら「そっか」と一言呟いた後、手紙をリンに渡した。
そして、手を合わせて「よし」とつぶやいた後、エリアルが笑顔で話しかけてきた。
「それじゃあ、私の勘違いだったことも分かって自己紹介も済んだから、ちゃんと弟子が言いつけ通りに最初の課題を受けれるようになっているかを確認でもしましょうかね~。それしだいでは、クロナイトちゃんとの戦闘を一回だけにしてあげてもいいからね」
「戦うことは確定ですか」
「当たり前じゃないの。大丈夫よ、前より少し強くしてあるだけだから、安心して倒されなさい」
エリアスの楽しそうな笑顔を見ると、絶対に少しどころじゃない強化をしていそうな気がするのは、気のせいではないだろうな。でも少しは使い慣れたスキルでどのくらい戦えるのかは試したかったから、最初に実践で戦う事が出来た相手と戦えるのは、おれにとっても都合がいいことでもあるな。
「いいですよ。ステータスの確認もあの鎧と戦うのも、でもその前に・・・晩飯だけ食べた後だとだめですか。街に戻ってから何も食べていないのでペナルティ受けそうなんですよ」
「そういえばそうね。私もこの街に入っていろいろあったから食べれてないのよね。リン、小屋の食材で何か作ることできる?」
「作成可能です。シュウ様が所有者になられてから、足りないものは新しく食材を買いました」
「そっか、じゃあ食事をリンに作ってもらっている間にステータスの確認をしましょうか。貴方たちのパーティー構成も気になるから、リーナとミュウの職業だけでも教えてね。アドバイスできることもあると思うから」
「私はリンちゃんに一人で任せるのは申し訳ないから、リンちゃんを手伝いたいんだけどいい?」
「リーナは料理できるのね。いいわよ、待ってる間はシュウのステータスでも見ておくから、2人の職業はご飯食べる時にでも話してね」
「ありがとう」
「わかったの」
リンは料理も作れたのか、飲み物を淹れてくれていたりしたけど料理まで出来るとは思わなかったな。
さっきの言い方からすると師匠であるエリアスは作れないのか作らないのか。それにしても、リンが来ているメイド服の姿で街に出るとかなり目立つと思うけど、いつの間に食材を買っていたりしたんだろうか。
後でリンに聞いておこうか。食材のお金のこともあるから、必要経費として小屋にお金を預けておいた方がよさそうだ。
リンとリーナが料理を作ってくれている間に俺のレベルの確認をすることになったので、システムメニューを操作してエリアスに見えるようにした。
その時ミュウも一緒に覗き込んでいたので、そういえばミュウには見せていなかったし、おれもミュウの職業は聞いていなかったな。ミュウはどんな職業になっているのか聞くのが少し楽しみだと思いながら、ステータスを確認しているエリアスを見ていた。
お読みいただきありがとうございます。




