勘違い
誤字報告ありがとうございました
鈴をつけたロシアンブルーの猫に案内されて月の模様が現れた扉をくぐると、魔術師の小屋の中にある部屋の入り口に立っていた。
ベットと机とイスだけがある部屋の中に、いつものようにリンが前に立っていてお辞儀をして迎えてくれた。
「シュウ様、お帰りなさいませ」
「え?ああ、ただいま」
部屋の中を見渡してみても扉に先に入った猫の姿は何処にも居なくて、俺は部屋の入り口の扉を背にして立っているわけで、部屋の中にはおれとリンしかいないということはさっきまでいた猫はリンだったということになるのかな。一先ずそのことをリンに聞いてみよう・・・さっきから隣のリビングから聞こえてくる大きな声の事は後でいいだろう。
「リン、聞きたいことがあるけどいいかな?」
「猫の姿でシュウ様を扉まで案内したのは私です。それ以外にも質問があるのでしたら後に伺いますので、今は隣のリビングの事を先に対処した方がいいと思われます」
聞こうとしたことは一瞬で解決したけど、さっきから聞こえてくる声の対応はやっぱり俺が行かないとだめなのか。聞こえてくる声からリーナと誰かが話してるのは分かるんだけど、もう一人の方はどこかで声を聞いたことがある気がするな。
「あ~いや、分かってはいるんだよ。分かってはいるんだけど・・・あっちの状況が落ち着いたぐらいに出ていくことは出来そうにないか?」
「それは難しいかと、シュウ様が説明をした方が早く状況は良くなるかと思われます」
「俺が話して状況は良くなるかな?この聞こえてくる声が俺の知っている人なら、俺の話を聞く前に罵声と質問が俺に向かってくる気がしてならないんだけど・・・」
リン、そこで目を逸らさないでほしいんだけど・・・。でもいつまでもリーナ達に迷惑かけるわけにはいかないよな。仕方ない、隣のリビングで何が起こっているのか話を聞きに行くとするか。
ため息を吐いた後、背中を向けていた扉に振り返りドアノブに手をかけると、自室を出て隣のリビングに向かった。
リビングに入ると俺からは背中を向けている人と、リーナとミュウがテーブルに座っているのが見えた。二人の対面の席にいる人は小屋の中なのにフードを被っており、テーブルに両手をついて椅子から立ち上がっていた。
リビングに入ってきた俺に気づいたリーナとミュウはこっちを見て困った顔をしながら目配せしてきたので、そのしぐさでおれに気づいたフードを被った人がこちらを振り返った。
伸長は170はないぐらいだけどフードを深めにかぶっている為、口元しか見えないが女性であるのは間違いないだろう。それと、不自然な頭のフードのふくらみが気になる所だな。
フードの人は俺を見ると今にも大声を上げるかのように口を開けたので、両手で耳をふさぐようにしたのだがそれでもよく聞こえてくる声で話しかけてきた。
「シュウ!?ようやく戻ったのね!この子たちの事情は聞いたけど、女の子を二人もほったらかしにしている理由、ちゃんと説明しなさいよね‼それに、ここはもうあなたにあげた場所だけど誰でも招いていいわけではないからね!!それ以外にもあなたには色々と言いたい事や聞きたいことがあるんだから‼ちゃんと聞きなさい‼」
「え~っと、とりあえず少し落ち着いてもらえるとありがたいです」
大きな声を上げながら近づいてくるので、後ずさりながら落ち着かせようとするのだが、一向に話す勢いが止まりそうにない。後ろにいたリンに振り返って目で助けを求めても目を伏せて首を振られてしまった。
その後は、怒りながらこの状況とおれがいなかった事についての文句を話していたのだが、いつしかおれではない誰かへ対する愚痴になり数十分ほど聞かされるままに相槌を打っていると、言いたいことを言い切って少しは満足したのか、リンに自身の飲み物を頼むと着替えてすぐに戻るから待っていることと言って奥の部屋に繋がる扉を開けて出て行った。
ようやく解放されたのでリンに自分達の分も飲み物をお願いすると、椅子に座ってテーブルに頭を伏せるようにして大きくため息を吐いた。
「お疲れ様。で、さっそくだけどさっきの人は誰なのかな?シュウに話していた内容を聞く限り知り合いだと思うけど、説明してくれるよね?」
「説明よろしくなの」
そうなるだろうな。愚痴が終わる前からずっとこっちを見てたから、説明しとかないといけないだろうとは思っていたけど、この様子だとさっきまでいた人は何一つリーナ達には説明していないんだろうな。
テーブルから頭を起こしてリーナ達と向き合うと、憶測ではあるけどさっきまでいた人について話した。
「多分だけど、おれが魔法使いになった原因を作った人で、おれのこの世界の師匠だと思う?」
「何で疑問形なの?」
「実はおれも師匠本人とは会ったことがないからかな。声と話していた内容から察するに師匠本人だとは思うけど・・・リン、さっきの人って俺の師匠本人で会っているのかな?」
「はい、ご本人で間違いないです」
おれとリーナ達に飲み物を持ってきてくれたリンに確認する為に聞くと、本人に間違いないらしいけどずっとフードを被ったままだったから、未だに顔と名前すら分からないんだけどな。
「リンが言うから師匠本人で間違いないみたいだけど、リーナとミュウは師匠と何を話していたんだ?できれば師匠と出会った時の事を最初から教えてくれないか?」
「それは・・・」
なんだ?リーナが下を向いて喋りづらそうにしていて顔を見てみると少し赤くなっているように見える。それを隣で見たミュウがやれやれなのと言い、代わりに説明をするみたいだ。
「ミュウが説明するの。まず出会った時なのーーー」
ミュウから師匠と出会った時の事を詳しく聞くと、リーナとミュウがログインして部屋からリビングに来た時には師匠はもういたみたいで、椅子に座っているリンのおでこの部分に手を当てて何かを呟いていたらしい。
それを見たリーナが慌ててリンに何をしているのか聞いてやめさせようとした時に、師匠も二人に気づいたみたいで、リンから離れてお互いがにらみ合うようにして膠着状態になったらしい。お互いが警戒しているなか、リーナがフードの人に誰かを聞いても答えなかったので師匠の怪しさがさらに増したみたいなんだけど、3人の間にリンが立ちいってお互いの誤解を身振り手振りで止めてくれたらしい。
リンにその時に説明は出来なかったのか?と聞いたら、どうやら師匠はリンの調整とマナの補給をしていたようで調整した直後は数十分の間は話す事が出来ないらしく、話せるようになったのもおれを連れてここに戻ってきてからだったらしい。
リンの振る舞いを見て、リーナと師匠も相手に危険はないのだと分かったみたいで、お互いに警戒するのはやめてとりあえず話し合うことになったのだけど、ほとんど師匠が一方的に質問したり自分で納得したりしていたみたいで、リーナとミュウの事はリーナ達が何故ここにいる事になっているかの事情ぐらいしか話せていないみたいだ。
確かに、師匠なら人の話を黙って聞くような感じの人ではない気がするな。いきなり了承も取らずに契約をさせられるし、初めて戦うにしてはかなりの強さをもった鎧と戦わされたりもしたし、これまでの実体験とミュウの説明から察するに師匠は興味を持つとすぐに実行したりする人であるようだな。
「それで、師匠と出会って話し合いになった経緯は分かったけど、どうして俺が二人をほったらかししていた事になっていたんだ?一応違うってことはさっきも師匠には話したけど後でもう一度詳しく聞くって言われたから、どうしてそうなっているのか知っておきたいんだけど」
「それはシュウの師匠の勘違いなの。あの人はまだリーナとミュウが星渡りの人だと分かってないの。だから私たちの事情を話した時に、一日以上もこの空間に閉じ込めたままだと思っているの。それをシュウが閉じ込めたままにして、ミュウ達に悪さしようとしているんじゃないかと怒ったりしたから、そうじゃない事を言ったの。でもだめだったの、そうじゃない事を説明してもだったら二股をしてるのかとか疑って「分かっているは私に任せなさい」と言われるばかりだったの。だから早くシュウに帰ってきて説明してもらおうと思ってメッセージを送ったの」
「そうか、何だかすまないな。そんなに面倒な事になっていたのに戻ってくるのが遅れてしまって。それにしても、閉じ込めていたり二股か。師匠のイメージでおれはどんなに悪逆非道な男になっていたんだか・・・」
「上手く説明できなくて申し訳なかったの」
「ごめんなさい」
「別に2人が謝るような事でもないから謝罪なんていらないよ。それで何でさっきの説明ぐらいでリーナは顔を赤くしていたんだ?」
「シュウの師匠の勘違いでも、付き合ってると勘違いされたことが恥ずかしかったんだと思うの」
「ミュウ!?」
リーナがミュウに抱きしめてそれ以上ミュウに話させないようにしながら、ひとりで慌てていた。
「悪かったな。師匠の勘違いなのに」
「いや、別に大丈夫・・・(嫌な感じじゃなかったし・・・)」
呟くような声だったので全ては聞こえなかったが、大丈夫とは聞こえたから師匠の勘違いさえ解けば問題は解決するだろう。
「それより遅れた理由も聞きたかったの。メッセージで『すぐ戻る』の返事が来たのに、次のメッセージが『事情があって遅れる』になってたから何かあったの?」
「いや実は---」
ミュウとリーナには、中央広場での事を話して当分ここを出ない方がいいかも知らない事と、この場所にリンの案内で戻ることが出来たことを話した。そして改めてリンに、探しに来てくれた事とここまで戻る案内をしてくれた事についてお礼を言った。
「リン、ありがとう。リンが迎えに来てくれたおかげで師匠の勘違いがこれ以上増える前に戻ってこれたよ。それにしても、リンが迎えに来てくれるとは思わなかったよ、機転を利かせて迎えに来てくれたのか?それとも何か外に出る理由でもあったのか?それに、あんなに大勢の他の冒険者がいる中で見つけることが出来たな」
「迎えに行くことになった理由は、シュウ様が鍵を使おうとしていたのは分かりましたが、何度も使おうとしてはやめられるので何か事情があるのではないかと思ましたので、広場にある別の専用出入口でシュウ様の所まで伺う事に致しました。シュウ様をすぐに見つけることが出来たのは、わたしはこの街の中だと鍵を持っている人の大体の位置を把握できるからです」
「そうなのか。本当に助かったよ、ありがとう。でもリンが使ったその広場にある別の出入り口で、そのまま拠点に戻るのには使えなかったのか?」
「それは、広場にある別の出入り口はあの姿だから使える方法だと思っていただければ、ご理解いただけると思います」
「なるほど、それだと無理だな」
何だかリーナがそわそわしながらこっちを見ている視線を感じるんだが、何か気になる事でもあるのだろうか?。
「あの、話を聞いてるとリンちゃんがシュウを案内したのは分かったんだけど、あの姿ってどういう事なの?あの姿ってことはリンちゃんは今着てるメイド服で迎えに行ったわけではないの?」
なんだ?やけに詳しく聞こうとしてくるな。
「まあ、いつもとは違う感じではあったかな・・・」
「どう違っていたの?」
「えっと、そこはそんなに気になることなのか?」
「当たり前だよ!私はこのメイド服を着たリンちゃんの姿しか知らないの!シュウが見たリンちゃんが私服だったのか違うメイド服だったのか分からないけど、違う姿をしたリンちゃんを見れるなら私も見たい!!」
「お、おう、そうか。リンの都合が悪くなければ、また後にでも案内してくれた姿をリーナ達に見せてあげてくれないか」
「・・・わかりました」
リンはいつもと同じように返事はしたけど、一瞬の間があったな。後の事を考えると、今でもよく抱き着かれているのにあの猫の姿になったら確実に抱きかかえられるのは想像に難くないな。
「後でなの?」
「師匠がもうすぐ来るみたいだからな。とりあえず師匠に色々説明してからじゃないと、面倒ごとが片付いていかないから」
椅子から立ち上がると、リビングと部屋までをつなぐ通路の扉を向いて師匠を迎える準備をした。
面と向かった顔合わせは初めてだからな。相手は一応師匠でおれは弟子だからちゃんと挨拶をする用意と誤解している話を勘違いだと分かってもらえるようにだけはしておかないとな。
そして、挨拶の内容と誤解をどう解いていくか考えていた時に、扉が開いて一人の女性が入ってきた。
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