街中の騒動
シュウは少し騒がしくなった冒険者ギルドを出た後、送られてきたメッセージの内容の見る為に冒険者ギルドの前の広場にある木製の長椅子に座った。
システムメニューを操作してフレンドリストの項目を開く。
フレンドリストを見てみるとミュウだけでなくリーナの名前も灰色ではなく色がついて光っていたので2人揃ってログインしているようだ。
フレンドリストにあるミュウの場所にだけ手紙のマークがあるので、どうやらメッセージはミュウが送ってきたようで、メニューを操作してからメッセージの内容を見た。
とても短い文書で「早く帰ってきた方がいい」との一言のみだったので、何故早く帰った方がいいのかその理由も書かれていない為、何故だろうかと理由を考えてみたのだけど・・・。
何故だか分からないが、この一文だけの文章を見ているといろいろ嫌な感じがしてきて不安になるので、答えが出そうにない事を考えるのをやめて「すぐに戻る」とだけミュウに返信をすると、システムメニューを閉じて立ち上がり中央広場に向かった。
中央広場には着いたが、夜の広場とは思えないほどの人であふれていた。
どういう事なんだこの状態は?北の大通りから中央広場に向かって行くうちに人が増えているなとは思っていたけど、なぜこんなに何十人も人が広場に集まっているんだ?中央の噴水がある広場では怒鳴り声が聞こえてきて野次馬らしき人達も集まっているし、その他の冒険者らしき人達は何かを探すように動き回っている。
何かを探している人たちは生垣の奥や木々の奥にも人がいるから、このままだと見つからずに拠点に帰るのは無理そうだな。
周りの人達が話している内容から察すると、どうやらギルドで聞いていた有名な冒険者をこの広場付近で見失ったらしいので、冒険者の人達はその人に一目会いたくて探しているらしい。その有名な冒険者の人って誰だか知らないが、俺は急いで小屋に戻りたいのに面倒な事にしてくれたよ。なぜだか知らないけど、現実だけじゃなくてこの世界でもいろいろ面倒な事が起こって、それに巻き込まれている気がする。
はぁ、どうしようか。隙を見て拠点に帰るしかないだろうけど、これだけの人がいると絶対に見られずにすむ自信はないな。とりあえずは一か八かの賭けで試すより、周りの人に紛れて街灯の所まではそれとなく行ってみるか。
何度か隙を窺いながら街灯まで行って鍵を差し込もうとはしたけれど、近くに人の気配を感じて扉を作ることまでは出来なかったので、一旦広場まで戻り人が減るのを待つことにした。
それにしても、まだ噴水の所では人が集まっているし、冒険者の人達も少しは減ったけどまだ探している人たちはいて、まだまだあきらめて帰る人はいそうにないな。
その有名な冒険者が違う場所で見つかった情報でも出れば、少なくとも冒険者の人達はそっちに行ってくれるとは思うんだけど、・・・こうなったらすぐに拠点に戻るのは諦めて、晩御飯でも食べに行こうかな。まだこっちでは食べてないからあと少ししたらペナルティがつきそうだからな。
ミュウから送られてきたメッセージの内容は気にはなるけど、この状態だと行けないから仕方ないよな。
今の状況を理由にして嫌な予感のするメッセージの事をいったん後回しにしようと思い、とりあえず遅れる事をメッセージで伝える為にフレンドのメニューを開いた。ミュウ宛に「想定外の事態により遅れる」とメッセージを送ってシステムメニューを閉じて食事処でも探して歩き出そうとしたとき、近くから高く澄んだ鈴の音が聞こえてきた。音が聞こえた方を見ると首にどこか見覚えのある鈴をつけたロシアンブルーのような毛並みをした猫がこちらを見ていた。
この世界に来て初めて猫を見たので、この世界にも猫がいるのかと思いながら見ていると目があったままにゆっくりと近づいてきた。すぐそばの手の届く距離にまで来たので、しゃがんで撫でようと手を伸ばすと、猫は立ち止まり尻尾を向けて尻尾を器用に使うと手首に巻き付けた。不思議な事をする猫だなと思っていると手を引っ張るように力が掛かって、猫が顔だけを振り返って目を見つめてきた。
「ついてこいって事か?」
そう呟くと猫の首にある鈴の音がタイミングよく鳴って、まるで「はい」と返事をしたかのようだった。猫は尻尾を離すと歩き出して少し進むと俺が来るのを待っているように振り返って見てきた。広場がこの状況だと当分拠点には戻れそうにはないし、俺自身は空腹だから食事処にでも行きたい所ではあるんだけど、一度くらいは猫の気まぐれについていくのもいいか。おれとしては、この猫が美味しい食事処にでも案内して行ってくれると嬉しいけどと思いながら猫の後をついて行った。
「お供するよ、不思議な猫さん。夜の街への散策と行こうか」
猫の少し後ろまで行くと再び歩き出した猫に速度を合わせて歩いて広場の西の出口から出ると、西の大通りを進んでいって、猫は広場から出て20mぐらいは西の大通りを進んでいたが、着いてきているのを確認するように一度こちらを振り返った後に北への脇道へと入った。脇道に入った後は、入り組んだ道をどんどん進んで行くと徐々に街灯や生活の明かりもなくなり、今や薄暗い汚れた細道を猫の先導で歩いていた。
とりあえず猫の後を歩いてきたけど、この猫の目的地は少なくとも美味しい食事処とかではなさそうだな。ここの周りの雰囲気を見る限り、ここはストダの街のスラム街って印象かな。今歩いている道は薄暗いだけで先が見えるけど、脇道を見ると数メートル先は真っ暗になっており、道にあるゴミやガラクタ、汚水などで異臭がするようなところだった。だが、周りの建物がどことなく日本の古い建築に通じるものが所々に見受けられるのが気になるな。街の外観や大通りのから見る風景は中世や現代の外国によくみられるレンガ調の建物が多くて違う世界に来た印象がとても強かったが、スラム街で見られる建物は木造が多くどこか懐かしく馴染みのある印象をうける。
だが、今は周りの建物を見るよりここに入った時から殺意や悪意の目線を感じるけど襲い掛かっては来ないこの状況をどうするべきか考えた方がいいか。おれは今コートを着てはいるけど、よく見れば初心者装備をしている武器なしの不用心な冒険者に見えるだろうからすぐにでも襲い掛かってくると思ったんだけど、見られるだけで襲い掛かっては来ないな。
襲われた時の為に、【ソード Ⅷ(短剣)】のカードを何時でも使えるようにスラムに入る前から準備はしているんだけど、ここまでの悪意や殺意があるのに襲われないのは、経験上ないからどうにも変な感じだ。
一応気になる事と言えば、曲道の角や頭上の死角から襲ってくるだろうかと警戒したタイミングで猫の鈴が鳴るのが、あまりにタイミングが良すぎるから気にはなっているけど、一度や二度の偶然で判断することも出来ず今のところ支障もない為、あまり気にしないことにした。
その後も、猫の後をついて行きながら襲われないことを不思議には思いつつ進んで行くと、前がレンガで出来た壁で両隣には建物が建っている三方を囲まれた行き止まりに着くと猫が立ち止まり振り返った。
不思議な事にこの場所に来るすこし前からは悪意の視線を感じなくなっていて、少し前から猫の鈴が一定のリズムでなっていたので、やはり今までもこの猫が何かしていたのかもしれないな。
「ここが猫さんの目的地?」
そう聞くとまた返事をするように鈴の音が聞こえた。そして、猫がこっちを見たまま尻尾で目の前の壁にむかって数回叩くようにして触れると、前のレンガの壁に見覚えのある月のマークが入った扉が現れて自然に扉が開かれた。
「この扉は・・・」
シュウは少しの間唖然としていたが、猫が扉に向かって進んで行って見えなくなった後に、シュウも扉を通る為に歩き出して扉を通った。シュウが扉を通った後、扉は消えて数分後には刃物を持った男たちが誰かを探すようにして現れたが、何も見つからなかった男たちの怒鳴り声が辺りに響き渡っていた。
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