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剣と魔法のセカンドワールド  作者: K.T
第三話 ②初めての依頼
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指名依頼



 シュウは2階への階段を上がってすぐに売店を確認してみたが、夜遅くまでは売店はしていないようで誰もいなかったので、左の本棚にある魔獣の事を書いている本棚を探すことにした。


 本棚を回りながらいくつかの本を手に取り軽く中身を見ていると、見た本の中で興味をひかれる題名の本を一冊手に取って軽く流し見てみたところ興味の惹かれる内容だったので、座って詳しく見ようかと思いテーブル席を見ると、見覚えのあるただの(・・・)ギルド職員と言っていた、バルデスが飲み物を片手に座っていた。


 目が合うと笑顔になり手招きをしたので、分かってはいるが一応後ろを見て自分以外に誰もいないことを確認して一度ため息を吐いた後に、手に取っていた本を本棚に戻してからバルデスが座る席へと向かうとバルデスの対面の席へと座った。


「お前さんもひどいな、ばっちり目もあって呼んでいたのにため息を吐くなんてよ」


「すみませんね、貴方と会うと厄介ごとが降りかかってきているような気がしていたもので」


「おいおい、ひどい言いがかりだな」


 バルデスは大袈裟に両手のひらを上にあげて首を振りつつ答えた。


「それで、何か用でもあるのですか?それとも、前に言っていた1つ貸しの件ですか?」


「そうだな、貸しで返してもらってもいいが・・・今回はやめとこうか。もっと大事な時まで取っておきたいからな。おい、そんなにめんどくさそうな顔をするなよ。それに前にも言ったがそんなに堅苦しい言い方しなくてもいいんだぜ。俺としてはもっと遠慮なく自然な関係でいたいもんなんだがな」


 この男が俺に何を期待しているのか分からないが、この男に貸しがあるままだと絶対にろくなことにならない予感がするのはなぜなんだろうな。返せる貸しはさっさと返しておきたい。


 バルデスは咳払いをした後に本題について話し始めた。


「さて、本題だが正式に冒険者ギルドから冒険者のシュウに指名依頼があってな。この手紙を届けてほしいんだ」


 そういいながらバルデスはテーブルの下から封筒の中に入れられている手紙と依頼書を取り出した。


~~~


指名依頼書(冒険者名・シュウ)


依頼内容

・手紙を人に届ける


報酬

・5000ベル


期日

・金曜まで(残り時間ーー:ーー)


特記事項

*依頼未達成の場合でも罰則なし


依頼主・冒険者ギルド


~~~


「・・・(手紙を届けるって、誰に届けるのかすら書いてないのだが)」


 あまりにいい加減な依頼内容なのに破格の報酬内容だった為に、言葉を失って前に座っているバルデスと依頼書を交互に見た。


「どうだ、割のいい依頼だと思うが受けてくれないか」


 確かに依頼内容だけ見ると簡単なのに報酬金は5000ベルも出るなら、簡単に儲かる依頼だとは思うし失敗したときの罰則もないからいい依頼だとは思うが、依頼主が冒険者ギルドだとしてもあまりにも怪しすぎる依頼に見えるな。


 そもそも、こんなにいい加減な依頼内容の依頼書を冒険者ギルドが依頼するのか?考えられるとすると、さっきからニコニコ笑っている目の前の男の独断な気がするんだけどな。


「・・・三つほど質問があります。その答えに納得が出来たなら受けるか考えてもいいと思っています」


「いいだろう。三つといわずいくつでも聞いてくれてもいいぞ。答えられる事なら全て答えよう」


 全て答える・・・か。よほどこの依頼を受けさせたいのか、それとも他に何か意図があるのか。笑顔でこちらを見ているこの男から悪意は読み取れないが、少なくとも善意ではないのは確かなんだよな。


「そうですか。でも、とりあえず聞きたいのは三つなので・・・いや、せっかくなので四つ質問したいと思います。まず一つ目ですが、この依頼を断ることは出来るのですか?」


「えっ断るのか?お前なら(・・・・)かなり楽に達成できて簡単に儲かるぞこの依頼」


「まだ断ると入ってません。ただ、指名依頼を断ることが出来るのか聞いただけです」


「いや、そりゃ~断ることはできるけどよ。お前さん(・・・・)なら簡単にできてかなり報酬がいいと思うんだが、出来れば受けてもらえると助かるんだがな」


 俺なら(・・・)・・・ね。何となく誰に渡せばいいのかは分かる気がするけど、出来れば確証が欲しいな。それと、出来れば何故そう思ったのかも聞いておきたいけどな。


「とろあえず、質問に全て答えていただいてから受けるか決めたいので、二つ目の質問をしますね。依頼内容には手紙を届けるとありますが、誰に届ければいいのでしょうか?」


「あ~それなんだが、この手紙を持っていると手紙を届ける相手に対面したとき知らせてくれるように、この手紙には仕掛けがしてあるんだ。だから手紙を持っていて偶然でもいいから出会った時に渡してくれればいい」


 手紙に仕掛け?それも本人確認ができて知らせてくれるような仕掛けか。どうやって手紙が本人かどうかを判断しているのか気にはなるが、それよりも誰に渡すのかを答えていないな。


 まあいいか、誰に渡すかは何となく分かってはいるからな。もし俺の想像している人物ではなくても、俺に責任は全くないようになっているようだからな。その点では気楽な依頼ではあるだろう。


「対面したときには分かるといいますが、どうやって知らせてくれるんですか?手紙が光ったりでもするのですか?」


「いや、それがな・・・・・・」


 なんだ?やけに言いにくそうにしているが、まさか危ない知らせ方とかじゃないだろうな。手紙が熱を持つぐらいならいいけど、手紙の外側が膨らんで破裂したりして知らせるとか変な知らせ方はやめてくれよ。


「手紙が、・・・だ・・・」


「・・・?、いまなんと?」


「手紙が話すんだ・・・」


「・・・・・は?」


「おいおい、そんな何言ってるんだこいつみたいな目で見ないでくれよ。あ~いや、確かに俺も手紙の説明で聞かされた時には同じような反応だったな。でも、本当に試した時には話すんだよ。本当だからな」


「はぁ・・そうですか」


 封筒に入れられた手紙を手に取り裏表を見てみるが、中の手紙の柄が透けて見えたのだが特におかしな模様はない普通の手紙に見えた。


 手紙が話して知らせるって、全然想像できないけどかなりおかしな光景になりそうだな。この手紙はあまり大勢の人がいる前では渡したくない代物だな。まあ、渡すのがあの人ならそんなことにはならないだろうけど。


「とりあえず、手紙が勝手に知らせてくれるのは分かりました。では三つ目の質問ですが、何故この依頼はおれへの指名依頼なのでしょうか。依頼内容を見るとおれでなくてもいいような内容に思えるのですが」


「依頼内容だけ見るとそうなんだが、手紙を届ける相手に問題があってな。いつも決まった土地にいない人だからなかなか連絡が取れない相手なんだよ。だから、冒険者だったらいろんなところに行く用事もあるだろうから、そのうち会えるかもしれないと思ってな」


「本当にそれだけが理由ですか?・・・」


 もし本当にこれだけが理由なら受ける必要はないな。報酬はいいが、別に金に困っているわけでも今すぐ必要なわけでもないからな。


 それに、相手にだけ隠し事がある(・・・・・・)話し合いの依頼なんて受けたくないからな。


「・・・・・はぁ~、わかったわかった。このままだと本当の事を言わないと受けてくれそうにないからな。でだ、警戒しないでほしいんだがお前さんを選んだ一番の理由は、冒険者シュウが魔術師(・・・)だからだよ」


「なぜそう思ったのかを聞いても?」


 予想はしていた為に一切の動揺も見せないようにしながら、バルデスの言葉を待つことにした。


「へ~、やっぱりお前さんは大した奴だな。一切の動揺もなしか」


「それ以外に、新人冒険者でこの町に来て間もないおれを指名する理由なんてないですからね」


「まあ、そりゃそうか。(しまったな、面倒だからと簡単に書きすぎたか。もう少し文面を考えるべきだったか・・・)」


 やっぱりこの男が依頼書を作ったのか。小声で言ってるけどこの距離なら聞こえているからな。


「でだ、お前さんが魔術師だと思った理由なんだが、魔術師ってやつはみんなが使っている魔力じゃなくて何か違うものを扱って魔術を使うんだろ?それがなんて名称なのかは知らないが、普通の人が纏っている魔力と違ってちょっと独特なんだよ。まあ、独特とは言っても知っている人にしか分からないような変化でしかないだろうけどな」


「変化、ですか・・」


 今の俺のステータスはペンダントのおかげで魔法使いになっているはずなんだが、もしかするとギルドカードの表記は騙せても人が見る魔力は騙せないという事なのか?首元から取り出したペンダントを見ながら考えていた。


「う~ん、俺の場合は感覚的なものだからな口で説明するのは難しいんだが、普通の魔法使いは魔力を纏っていてもこいつは魔力の量が多いんだなぐらいなんだが、魔術師はなんだろうな魔力が濃いというか、そうだな凝縮された魔力(・・・・・・・)を纏っている感じが一番近いかもしれないな。でも熟練の魔法使いも似たような感じではあるんだが、何となく何かが違う感じなんだよ」


「まあ実のところ最初はもしかしたら程度だったんだが、前にこのテーブルで会った時お前さん連れの女の子の背の高い方にそのペンダントを渡してただろ?そのペンダントに見覚えがあったってのが最初に気になった事の一つなんだが、ペンダントをはずしたお前さんを見た時に確信に変わったんだよ」


 そうかあの時か、よほどのことがない限り冒険者ギルドは冒険者同士の些細なトラブルにまで介入しないと言っていたのに、ただの冒険者にすぎない俺たちをなぜ助けたのか気にはなっていたが、あの時に俺が魔術師だと分かって利用価値が出来たからだな。


「はぁ、ばれたのは俺が迂闊だったからですか。わかりました。この依頼は受けることにします」


「おお、それはよかった。でも、もう一つ質問があると言っていたが聞かずに受けてもいいのか」


 バルデスは依頼を受けてもらえると分かって、安心したのか俺が席に着いてから一口も飲んでいなかった飲み物を飲みながら聞いてきた。


「もともと依頼について聞きたかったのは三つだけですから、それに疑問がなくなって楽な依頼なら受けますよ。でも、せっかくなのでもう一つ聞きたい事はあったんですよ。前にいただいたこの魔獣手帳の事なのですが、詳しく書かれていてとても助かっているのですけど変わった行動や攻撃的になっている魔物に多く出会いまして、それがよくあることなのか聞きたかったんです」


「変わった行動?具体的にはどんな感じなんだ?」


「そうですね。異なる種族の魔獣同士が協力して襲ってきたり、繁殖期でもないのに攻撃的になっていたりですかね」


「ん~、魔獣によっては魔獣同士で協力して襲ってくる魔獣もいるにはいるが・・・少なくともこの辺りにはいないはずなんだが。どの種族だったんだ?」


「ビッグベアーとキリングタイガーです」


「ぶはぁっ・・!?・・・っ・・・っ」


 バルデスは飲んでいた飲み物を吹き零しそうになって、気管にでも入ったのか咳き込んでいた。


「大丈夫ですか?」


「いや、それは俺がお前さんに言うセリフだと思うんだが、お前さんその二匹に襲われて大丈夫だったのか?いや、上手く逃げたんだな。たいしたもんだ」


「いいえ、少し危なかったですけど無事に倒しましたよ?」


「・・・そうか。(本当にあの人と関りがあるなら普通の新人冒険者なわけがないか)しかし、その二体が協力して襲い掛かってきたのか。普通ならあり得ない事だな。その場所は何処だったんだ?」


「北西の森に入って森の奥へ15分か20分ってぐらいのところですね」


「森の少し奥か、確かにその二体が出てきてもおかしくはないが・・・まだ何とも言えないな(まだあの時期ではないはずだからな)」


「・・・?そうですか。まあ、また行く用事があるのでその時もおかしなことがあったら原因も含めて報告はしておきますよ」


 クレハさんは何か知っている様子だったから、週末に一緒に調査できれば何かしらのことは分かるだろう。


「・・?そうか、それならもし魔獣の生態や異変で有益な情報を持ってきてくれたなら報酬も出せるぞ。受付嬢に俺の名前を言ってくれれば対応するからな。しかし、本来なら新人冒険者が行くようなところではないから止めるのが普通なんだが、お前さんなら問題ないだろう。これは今後とも長い付き合いになりそうだな。これからよろしく頼むぜ」


 バルデスが笑顔で握手を求めてきたので握手に応じながら答えた。


「ほどほどの付き合いでお願いしたいと思います。それでこの後に受けていた依頼の完了確認をしに行くんですが、この指名依頼の受付もした方がいいですか?」


「いやそれは別にいいぞ。こっちで処理しておくからお前さんは報酬の受け取りだけをしてくればいい。そろそろ依頼の完了確認も終わっていると思うぞ」


「そうですか。では俺はこれで失礼します」


「おう、よろしく頼むぜ。俺はちょっくらサボってから、いやいや一休みしてから仕事に戻るからよ」


 軽く手を振りながら頬に手をついているバルデスを横目で見ながら、シュウは1階へと降りていった。




お読みいただきありがとうございます。

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