約束の場所
ログアウトしてすぐに部屋を出るとリビングには姉さんが家に帰ってきていた。姉さんはいきなり部屋から出てきた俺に驚いたみたいだが、特に怒っている様子でもなかったので晩御飯を作ろうとキッチンに向かった。
さて、晩御飯どうしようか。30分後には戻りたいから、手早く簡単に作れて姉さんに文句を言われない料理となると・・・メインは丼物がいいな。ご飯は炊いてないけど寮の時に備蓄していたワンパックのご飯があるからそれを使って、朝に弁当を作った時に冷蔵庫に鶏肉があったから親子丼でいこう。
本当は野菜室の食材で味噌汁とかも作れるけど、手早く済ませる為に今日はパックの味噌汁で作ってしまおう。
あとは冷蔵庫に野菜ジュースがあるから、それも出して栄養面で姉さんに文句を言われないようにしよう。前に肉ばっかり食べてたら、野菜も取るように姉さんが俺を見つけるたびに言ってきたからな。
調理と片付けを同時進行で段取りを済ませて、約十分以内には晩御飯を作り終えてテーブルに並べた。
後は、リビングで雑誌の様なものを見ていた姉さんをテーブルに呼んで晩御飯を食べはじめた。
姉さんにはログインする為に急いでいる事と料理に手を抜いたことを指摘されて「この後に何かやる事でもあるの?」などと食事中に追及されてしまったけど、何でもないとごまかしながら晩御飯を食べてあとかたずけをした。
まだ食べていて不思議そうにしている姉さんを横目に自分の部屋に戻ると、再度ゲームにログインした。
「30分を少し過ぎてしまったな。もし、まだ守ってくれているのなら謝っておかないといけないな」
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ゲームにログインしなおして目を開けると夜の星空が目の前に広がっていた。星空の美しさに目を奪われていたが、自分がログアウトしたときは木に寄りかかっていたはずだと思い出して、倒れて横になったのかと考えたところで、頭の後ろに何か柔らかいものがあるのが分かった。
「えっこれは・・・」
「なんじゃ、もう起きてしまったのか」
声とともに狐耳のユズハさんが頭の方から顔を覗き込むようにして現れた。
となると、頭の下にあるのはユズハさんの膝だから、俺はいまユズハさんに膝枕をされているのか。だが、いったいなぜ膝枕を?なぜこうなっているのか訳が分からなかったが、とりあえず起き上がろうとして頭を浮かそうとすると、手でおでこを抑えられてしまい頭をあげることが出来なかった。
「まあ、またぬか。そう急ぐこともあるまい」
そう言われて髪を撫でられるようにしてユズハさんの膝に押さえられると、ユズハさんは何も言わずにシュウの髪を撫で続けた。
依頼を果たして現実での食事も済ませたので特に急いで街に帰る理由もない為、シュウは無理に起きる事もなくされるがままに身を任せた。
そして、少しの間そうしていた後にユズハさんが呟くように話しだした。
「この場所はな、そこの墓に眠る者と初めて出会って、そしてある約束をした場所なんじゃ」
「約束・・・」
約束の場所、そしてもう二度と会うことのできない人との約束・・まるで・・・。
「もうその約束が果たされることがないのは分かっているんじゃが、どうにも忘れることが出来なくてのぅ」
「・・・・・・」
「今もこうして年に一度ここにきては、この場所を残せるように結界を張ったりしてのぅ。だが、もうそれもやめることになりそうじゃ」
「もしかして、先ほどの手紙ですか?」
「ああ、我の知りたかったことはあの手紙に書いておったゆえな」
この場所でどんな約束があったのかは分からないが、あの手紙でユズハさんの気持ちの整理をつけることが出来たのなら、今日この時間この場所へと来れて本当に良かった。
「だが、後日に少しこの森を調べる事にしようかのぅ。お主の話を聞いて少し思うところがあったからのぅ。お主が戻るのを待っている間に少し森の気配を探っておったら、確かにいつもと違うようじゃからな。いずれは結界の効力がなくなり自然の摂理に飲まれようとも、今はまだこの場所を荒らされるのを見たくはないからのぅ」
「そうですか、・・・では」
シュウは体を起こして、座っているユズハさんと向き合って告げた。
「森の中を調査するなら、俺も手伝いますよ」
もともと気になっていたのもあるが、ユズハさんの話を聞いた事で森の調査をするなら個人的にも協力したくなった。
ユズハはシュウが手伝うといった時に驚いた顔をしたが、微笑みながら言った。
「よいよい、我が勝手にやることゆえな。それに、其方に手伝ってもらうほどでもないじゃろう」
「それなら、俺も勝手に手伝いますよ。それに守ってもらっている間、膝枕までしてもらっていたみたいですから、それだと俺の方が得してることになりますからね。今度は俺が恩返しで、貴方とお墓で眠る人の大切な場所を守るお手伝いします」
「其方は・・・そうかそうか、これは一本取られたのぅ。しかし、其方が体験したように少し森の中はいつもより危ないみたいじゃからの。実力のない者ではついてこれぬぞ?特に、今のお主では・・・な」
ユズハが、シュウを上から下まで見て何かを確認しするよう見て告げた。
今の俺では・・・か。まあ、ゲーム内のLv.では一桁だからな。平日は時間がないけど効率的に動けばロールとスキルのLv.を今よりは数レベルは上げれると思う。
となると、あと一つユズハさんには確認しておかないといけない事があるな。
「クレハさんは先ほど後日に森を調べると言っていましたが、それは何時なんですか?」
「そうじゃのぅ。今日から5日後にはもう一度ここへと来ようかと思ってはおるがのぅ」
5日後ということは土曜日か。土曜日なら午前中でも問題なくログインできるから時間は問題ないな。あとは、その日までに上げれるだけレベルを上げてユズハさんが納得できるレベルまで上げるしかないな。
その為には、効率的にレベルを上げるのはもちろんだけど、ギルドの依頼を受けてランクを上げるのとお金を稼いで防具の更新ぐらいは出来るならしておきたい。あとは、タイミング次第だが師匠の試練もやっておきたいな。
「わかりました。じゃあ、その日にもう一度ここで会いましょう。俺は必ずここに来ますので、その時にもう一度見て実力が足りないか確認してください。ユズハさんが納得する実力になっていれば森の調査に同行させてくれたらと思います」
「ほぉ、そうか、そうか。其方は人を驚かせるのが得意じゃのぅ。ならば、その時にもう一度見て決めようかのぅ。その日は、昼前にはこの場所におるゆえな。楽しみに待っておるぞ」
ユズハはシュウが諦めるだろうと思っていたようで、もう一度来るとシュウが言った後には驚いた顔をして楽しそうに笑っていた。
シュウは先に立ち上がってから、ユズハが立ち上がるのに手を貸した。
「それでは、俺は街に戻りますけどユズハさんはどうするんですか」
「我はもう少しここに残ってから帰るとする」
ユズハはそういうとお墓の前に歩いて行った。
「分かりました、それでは、お気をつけて」
「其方もな」
シュウはユズハに一礼した後、街の方へ向かって森の中に入っていった。
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星空の夜が広がるシュウがいなくなった丘の上で、ユズハは墓の前に立って墓に話しかけるように喋りかけた。
「人種にもまだ面白い男もいたものじゃな。お主もそうは思わぬか。お主と同じ魔術師のようじゃが、なかなか面白そうなスキルを持っておったのぅ。それに、見た時にわかったがあの娘の弟子のようじゃからな。あの娘をからかう為にも、一度遊びに行ってみるのもいいかもしれんのぅ」
ユズハは楽しそうにそう呟くと丘の上に強く風が吹いた。風が収まった時には丘の上には木とお墓があるだけでその場には誰もいなくなっていた。
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