高校生活(生徒会室①)
俺と藤本さんと立花さんの3人は1年の教室を通り過ぎながら生徒会室に向かって歩いていた。
「ねえ、さっき何かしたの?」
「よく分からなかったけど、愁が何かしたから倒れていたの」
2人は歩きながらも興味深そうにこっちを見ながら聞いてきた。
う~ん、さっきやったことを詳しく教えるのはちょっと面倒なんだよな。それに正当防衛とは言ってもあいつも一般人に含まれるだろうから、万が一にも師範の耳に入ったら面倒な事になるからな。師範なら絶対に「一般人に手をあげるとは何事だ。その心を鍛えなおしてやる」とか言って、説教を建前に仕合をしてこようとするだろうからな。
藤本さん達の位置からは見えなかったはずだから、適当にごまかしておくか。
「何言ってんだよ。俺は何もしてなかっただろ、あいつが勝手に自分で転んだだけだって」
「本当なの?確かに私には愁が何かしたようには見えなかったけど・・・」
「理奈、真城君は嘘ついてるの。あの時、真城君の足が動いたのを見たの。一瞬だったから何をしたのか分からなかったけど、間違いなく愁が何かしたの」
えっ、見られてたのかよ。あ~そうか、立花さんは背が低いからあいつが掴みかかろうとしてた時にも足元がよく見えたのか。藤本さんは、目線の高さ的に上しか見えていなかったのか。あの時のみんなの視線は動いて掴みかかろうとしていた男に集中していたから、気づいていたのは純ぐらいかと思っていたが・・・やっぱり立花さんは俺にとって苦手な人かもしれないな。
「美羽はこう言っているけど、どうなの」
「白状するの、じゃないと・・・」
立花さんが藤本さんの服を引っ張り、藤本さんが屈んで立花さんが何やら耳打ちすると藤本さんの顔が少し赤くなり何やら照れているようだが意を決したのか、二人は俺に詰め寄るようにして左右から寄ってくると、体を押し付けるようにして腕をつかんできた。
「教えてくれないと、生徒会室までずっとこれで行くから」
顔をさらに真っ赤にしてまでしなくてもいいと思うんだが、ただでさえ注目を浴びてるのに2人がくっ付いてくると、黄色い声まで周りから聞こえてくるしもう勘弁してくれ。
生徒会室まで振りほどいて逃げようかな。いや、無理に振りほどくと後で絶対に怒るだろうし、周りから見ても良くは見えないだろう。ここは離れてもらってから、生徒会室まで逃げよう。そこでちゃんと話すのなら、逃げても許してくれるだろう。
「わかったよ。教えるから2人とも離れてくれ」
2人は体を押し付けるのはやめてくれたが、腕からは手を離してくれなかった。藤本さんは手じゃなくて服を掴んではいるけど。
「あの、手を放してくれるとありがたいんだけど・・・」
「だって、手まで離したら絶対に逃げるからって美羽が言うから」
立花さん・・・、思わず立花さんの方を見るとにこりと微笑みながら、「お見通しなの」と言って反対の手でピースしてきた。
頭と肩を落として歩きながら、さっきしたことを解説しながら生徒会室に向かった。
「さっきやったことを簡単に言うと、相手の軸足を足で払って胸から落とさせただけだよ」
「あの一瞬で?私には愁が振り返ったようにしか見えなかった・・・」
「起き上がってこれなかったのは、どうしてなの?」
「経験があったら分かると思うけど、胸や背中から勢いよく落ちたりすると肺の空気が押し出されて、呼吸が出来なくなる時があるんだよ」
「だから起き上がれなかったの?」
「ん~、まあそんなところかな」
ちょっと細工はしたけど、大体はそんなところだしな。
ふと視線を感じて下を見ると、立花さんと目が合った。
「な、何かな?」
「まだ何か隠してるの、洗いざらい白状するの・・・」
「分かったよ。別に隠すつもりはないんだけど」
聞かれなければ言わなくてもいいと思っただけなのに、どうして立花さんは俺の考えてることが分かるんだ。そんなに俺は顔に出てるのかな。
「普通は呼吸が止まると言ってもすぐに回復はするんだよ。だからちょっと回復するのを遅くしただけで、それ以外は本当に何もしていないから」
「回復を遅くするって、そんなことが出来るの?」
「簡単だよ。同じような衝撃を与えてやればいいだけなんだから」
「そんな、だってあの時に愁は背中に手を置いただけで・・・」
「あの動作だけで呼吸を止めるほどの襲撃を与えたの?信じられないの・・・」
「まあ、いろいろあるんだよ」
本当は人には使うなって言われてるから、あまり詳しくは教えたくないんだよな。
「ふ~ん」
「愁は謎が多いの」
さっきの事を話しながら3階にある1年の教室から階段を下りて、2階にある生徒会室まであと少しの所まで来た。ここまで来るまでに上級生にも見られながら来たのだが、もう生徒会室にいるだろう姉さんにまで見られたら何を言われるか分からないから、そろそろ本当に手を放してもらいたいんだけどな。
「それより、すぐそこなんだからもう手を放してもよくないか。誓って逃げないから」
「別にいいじゃない、もうすぐそこなんだから」
「ここまで来たら一緒なの。部屋の前までこのままなの」
「はぁ、分かったよ。でも入る前には手を放してくれよ」
そう言って生徒会室の前まで来たのだが、2人が手を離す前に目の前の扉が開いた。
目の前にいた姉さんが口元に手をやって驚いたような声と仕草をした後、とっさの事で固まっている俺たち三人を見ながら言ってきた。
「あら、・・・両手に花でずいぶん仲がよさそう。愁は付き合ってないとか言っていたけれど、照れ隠しだったのかな?」
俺は何か悪い事でもしたんでしょうか。最近の俺に対するこの仕打ちはあんまりだと思うんだけど、なぜこうもタイミング悪く面倒な事が重なって起こるんだろうか。
俺はただ高校生活ではただ変わらない毎日を送りたいだけなのに・・・。
藤本さんは慌てて手を離すとお辞儀をしながら、姉さんに向かって自己紹介をしようとしていた。
「あ、あの、わた、私は愁くんのどう・・・」
「ああ、まって。自己紹介も貴方の事も生徒会室に入ってから話しましょうか。さっきから周りの皆が見ているわ。さあ、入って」
姉さんは俺たちを招き入れて、扉を閉めると部屋の真ん中にあるテーブルとイスに座るように声をかけた。
部屋の奥の席から姉さんと俺が隣同士に座り、対面する形で藤本さんと立花さんが座った。
「さて、それにしてもさっきは驚いたわね。廊下が少し前から騒がしいから何かと思ってみてみれば、まさか原因が私の弟だったとは」
「言っておくけど、さっき姉さんが言ってたようなことは何一つないからな」
「ふ~ん・・・」
姉さんは始めに俺を見て藤本さん達の方を観察するように見たあと、さっき出来ていなかった自己紹介をし始めた。
「それじゃあ、自己紹介からしましょうか。その後に、お昼ご飯でも食べながら藤本さんの件を詳しく聞くわね。まずは私から、2年A組の真城 葵よ。学校では生徒会の会長をしているわ、そして横に座ってる愁とは姉弟よ。次は私の前の貴方からね」
藤本さんは姉さんに指名されて少し慌てた様子だったが、一度ゆっくり大きく深呼吸をしてから自己紹介を始めた。
「私は1年A組の藤本 理奈です。先週、愁くんに助けてもらった時にご相談させてもらって、力になれるかもしれないとのことで協力を願いました。今日は相談に乗ってくださりありがとうございます」
藤本さんは言葉の最後に頭を下げると、顔をあげることなくずっと頭を下げ続けていた。見かねた姉が声をかけて、顔をあげさせると隣の立花さんの紹介になった。
「私も1年A組の立花 美羽です。理奈とは中学校からの友達でいつも一緒にいたんだけど最近は、学校では一緒にいることが出来るのが少なくなって困っているます。どうか相談に乗ってください」
立花さんも言葉の最後に頭を下げた。藤本さんと違い顔はすぐに上げたけど、本当に困っているのだろう真摯に姉さんに頼んでいた。
さっき教室で橘木が話してた内容からすると入学式の日にはもう出会っていたらしいから、あれからずっと会うたびにさっきの調子で話されてたら面倒だし迷惑だろうな。
「本当に困っているみたいね」
姉さんも本気で困っていることを感じ取ったみたいで困った顔をしながら呟いたのだが、前から聞こえてきた「くぅ~」というおなかの音が聞こえてきて、藤本さんがお腹を押さえながら真っ赤な顔になって下を向いたのを見た後、姉さんは笑顔になって話し始めた。
「そうね、とりあえず本格的に対策を考えるのは後にして、今はご飯を一緒に食べましょうか。ここだとまず間違いなく邪魔はされないから、ゆっくり食べながら今までの事を話してみて」
そういうと、テーブルに置いてあった弁当を広げ始めたので、俺や藤本さんと立花さんも弁当をテーブルに置いて広げて食べ始めた。
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