エレファントバッファロー
草原の魔獣と戦闘してレベルを上げたスキルの確認を終えて、次は依頼の場所がある森の中へと入ろうとした時に、草原の方から小さな悲鳴が聞こえてきたので草原の方を振り返って悲鳴が聞こえた方を見た。
まだ距離はあるが、さっきまで草原で探していた時には見つけることが出来なかったエレファントバッファローらしき魔獣がこっちの方向に向かってきているところだった。
「どこから現れたんだ?それにさっきの声は・・・」
悲鳴を上げた人を探していると、迫ってきている魔獣から離れている位置で1人の女の人が倒れた状態から立ち上がってこちらに走り出していた。最初はあの女の人が魔獣に追いかけられているのかと思ったが、よく見ると魔獣が追いかけているのは今も走って魔獣から逃げている男のようで、男の方がただ逃げるにしては不自然に女の人を追いかけるように走っていた。
様子を見るにパーティー戦闘の崩壊で逃走している訳ではなさそうだが、両方とも着ている装備がプレイヤーの初期装備だから両方ともプレイヤーかな。女の人がこっちに来ているという事は森の中に逃げ込もうとしているのか。確かにエレファントバッファローの大きさを考えると、森の中に入れたら逃げ切ることの出来る確率は上がるだろうな。
「さて、どうするか・・・」
俺もただ逃げるだけならこのまま森の中に入れば関わることはなさそうだけど、魔獣に追われる男のおかしな行動は着にはなるよな。悩んでいると魔獣に追われる男の前を走っていた女の人が、森の前に俺がいるのに気づいたようで慌てて声をかけてきた。
「そこの人!逃げてください!森に隠れて!」
そう声をかけてきた時と同時に、魔獣の前を走っていた男がエレファントバッファローに突き上げをくらって空中で叫びながらエフェクトと共に消えていった。
「死亡するとあんな感じなのか」
初めて見たプレイヤーの死亡エフェクトを見ていると、標的にしていた男がいなくなったことにより魔獣の狙いが移ったのか、突き上げた男を探すのをやめると女の人の方に方向を定め再び走り出そうとしていた。
「何してるんですか!早く逃げて!私が時間を稼ぎますから!」
森の近くにいる俺のいる位置からまだ50mは距離があったが、女の人は森まで逃げるのを諦めたのか、女の人はエレファントバッファローに立ち向かうようにこちらに背を向けて、シュウから離れるように走り出した。
助ける義理はないし面倒ごとに関わらないなら確かに女の人が言う通り森に入れば、面倒な事に巻き込まれないのは分かってはいるんだが・・・この世界に来てまで戦いから逃げていたら、この世界に来た意味がない。
「もともと草原の魔獣とは一通り狩っておきたかったからちょうどいいだろう。それに・・・もう誰かに守られて生き延びるなんて二度とごめんだ」
最後に呟いた言葉は、顔を伏せて胸に手を当てながら誰にも聞こえないぐらい小さな声で呟くと、シュウはエレファントバッファローに向かって駆け出した。
「なぜこっちに・・・」
俺が逃げることなく向かってくるのを不信に思ったのか俺にも警戒するような目で見てきたが、エレファントバッファローが動き出した為にこちらを気にする余裕がなくなったようで、エレファントバッファローに向き合い何かを唱え始めていた。
さてと、俺があの魔獣を狩るにあたって1番いい結果になるのは、2人とも生き残ってあのエレファントバッファローを倒して、なおかつ魔術の事がバレない事になる。だけど欲張りすぎると全てが中途半端になるから、戦闘が長引いた場合は魔術がバレる事は仕方ないと思っておこう。
女の人が素直に逃げてくれるなら人目を気にせずに戦えていいんだけど・・・・・とりあえずはさっき手に入れたスキルを使ってなるべくうまく誤魔化しながら戦ってみるか。
「さて、『デッキ』・『スプレッド・フォーカード』(マナ6/15)」
先ほどLv.UPさせた新しい『スプレッド・フォーカード』のスキルを唱えるとデッキから4枚のカードが展開された。
***
★ロール
・・・ 魔術師 Lv.3
次のLv.まで 6/100%
所有マナ 6/15 12→15
1分間のマナ回復量 0.1
●スプレッド・フォーカード(展開法) Lv.2 New‼
(詳細)
・カードを4枚展開できる
・消費マナ 1
*選ばれるカードはランダムで決まる
*種類の違うカードなら一度に2枚使用することが可能 New‼
*ソードのカードは手に握ることにより発動
*ペンタクルのカードは対象にカードを投げることにより発動
*展開した全てのカードが使われるまで再使用は不可能
*12分間展開可能 UP‼
LvUPまで0/2
・
・
・
SP 0 (0/12)
***
新たなスキルで使えるカードを確認すると思いもよらなかったカードが展開されているカードの中にあった。
「おいおい、ここでこのカードを引くのか、やっぱりこのカードの条件は・・・。確かめようとは思って試しながらカードを使ってはいたが、このカードを引いたプランは考えていなかったな」
このカードの図柄なら、魔物が俺に狙いを定めた後は女性プレイヤーには逃げてもらうのが1番楽に終わらせることが出来そうだけど。
「素直に逃げてくれたらいいんだが・・・」
スプレッドで展開された4枚の中から2枚のカードを取ると1つは右手で『ソード Ⅱ 』の片手剣を実体化させてもう1枚は左手の人差し指と中指に挟んで持つと、エレファントバッファローに向かって走っていった。
どうやら女性プレイヤーは魔法使いだったらしく、火の球を操りエレファントバッファローの顔周辺を狙っているようで魔獣の突進をなんとか逸らそうとしながら戦っていた。火の玉を魔獣の目の近くに当てることが出来たのか、エレファントバッファローは女性プレイヤーからわずかに逸れながら突進をし続けて通り過ぎていくと女性プレイヤーと魔獣との距離は20mほど離れることになった。
そこへすれ違いざまに女性プレイヤーの人に声をかけながら、シュウはエレファントバッファローに向かって行った。
「俺が戦うから、逃げるつもりなら今のうちに逃げてくれ」
そして、突進から止まって火の粉を払うように頭を振っているエレファントバッファローの後ろ脚の膝裏に斬りかかった。
「っ!チッ・・・浅いな」
片手剣では魔物の体が硬く思うように斬れなかったのと、魔物が前足を振り上げながら振り返ってきたために、追撃する間もなく後ろに飛びながら片手剣を手元に戻すしかなかった。
「厄介だな」
エレファントバッファローの体には大きく弾力がある皮と厚い脂肪がついているが、当然その体を支える足にも太く厚い脂肪がついていてその全体重を支えている為に筋肉の密度も大きい。今の片手剣だと皮や肉を斬るのにも苦労するし骨や筋肉に到達するには、一度斬りつけたぐらいではまるで届きそうにない。その上、すぐに再度斬りつけることも出来ないほど魔獣の反応も速い。
本当は目を狙って片手剣を突き刺す事が出来たら楽に狩ることが出来るんだけど、魔獣が頭を振っていたのと鋭い角が邪魔で後ろからは狙うことが出来なかった。このままこの位置に足止めする為にも少しでも動きが鈍くなればと思って足を斬りつけたが、全てが簡単に思い通りになるほど甘い魔獣ではないようだ。
でも、斬りつけた事と近くにいた俺を見つけたことで、魔獣の狙いは俺に変わったみたいだな。
エレファントバッファローは一度は奥に見える女性プレイヤーの方を警戒するように視線を向けたが、俺の正面に体の向きを変えると2本の角を前に出しながら後ろ足を蹴って再度突進の構えをとっていた。
さて、後は早く女性プレイヤーの人が逃げてくれれば余計なことを考えずに魔獣と戦闘することが出来るんだが・・・。横目で女の人がどうするのかを見るとどうやら逃げずに戦うことを選んだらしい。女性プレイヤーは杖を持って次の呪文を唱えようとしていた。
素直に逃げてくれたほうがよかったんだがな。仕方ない、まだ武器の使用時間は余裕があるからギリギリまでは片手剣で粘りながら戦ってみるか。片手剣とカードを構えてエレファントバッファローに向き合った。
エレファントバッファローは突進して角による突き上げをしようと頭を下げて襲いかかってきが、シュウは右手に持った片手剣を地面に水平になるようにして構えると、角が片手剣に触れる直前まで引き付けて角と片手剣が交差するタイミングで目を狙おうとした。
だがエレファントバッファローが左の角を下から突き上げる速度が思ったより速く、目をねらえる軌道から片手剣が逸れてしまったので、右に体をずらしてエレファントバッファローの角がシュウの着ている服を引き裂くように通り過ぎた瞬間、一度斬りつけた後ろ足に再度同じ位置を斬りはらいより深く斬りながら、左手に持っていた『ワンド Ⅱ (火)』のカードを投げつけた。先ほどより深く切れた傷にカードを投げるとカードは具現化せずに傷口に刺さった。そして、タイミングを計りながらエレファントバッファローから素早く距離を取ると、女性プレイヤーが放った火の球がエレファントバッファローの体に当たると同時に魔獣の脚からも火が上がった。
まだ後ろ足が使えないようにする迄には至っていないようだけど、多少の効果はあったようで脚を少し引きずるようになっていた。カードの効果を色々確かめておいたのが役に立った結果だ。色々試しているうちに気付いた事が、通常はカードを投げて自身から2m離れるとカードの効果が具現化されて効果が現れるが、2m以内で何らかの対象に刺さった場合は自身が2m以上離れてから出ないと効果が発動しなかった。その効果を利用してより魔物に深手を負わせるのと、片手剣で戦っている俺が魔術を使って攻撃した事を気づかせずに動くことが出来た。
女の人は魔物が足を引きずっているのを見て倒せると思ったのか。
「大技を使います。合図したら離れて下さい」
そう言って女性プレイヤーは詠唱を始めると、女性プレイヤーの目の前に大きな魔法陣の様なものが作られようとしていた。
まだまだエレファントバッファローは結構元気がありそうだけど、あの女性プレイヤーの大技で倒せるのならあのカードを使わなくて済むし、特に疑問も持たれないまま終われるから全然いいな。
「じゃあ、大技とやらが使えるまで時間を稼ぐか」
シュウは再度、片手剣を正面に構えてエレファントバッファローと対峙した。
エレファントバッファローは足に負傷を負ったことを警戒しているのか少しの間はすぐに向かってこようとはしなかったが、再び突進の予備動作をすると角による突き上げをしようと頭を下げて突進をしてきた。
先ほどと同じ様に躱して斬りつけようかと思ったが、何か違和感を感じたので様子を見ようと数歩後ろに下がった時、エレファントバッファローが下げていた頭を上げると勢いのまま体ごと横に倒れる様にして巨体で押しつぶそうとでもするようにして迫ってきた。
「このっ!面倒な!」
すぐに片手剣を地面に刺して踏み台にして、横に倒れて迫るエレファントバッファローの上を体を丸めて縦に一回転しながらやり過ごすとそのまま転がる様に受け身をとった勢いで体を起こした。
「あぶなかった。違和感を感じ取れていなかったら潰されていたな。剣は、消えたか・・・」
違和感の正体は突進してきた時の魔物の角の向きだった。一度目の突進の時とさっきの突進の時とでは向かってくる角の向きが最初は水平に向けられていたのが僅かに角が上を向いていた。視界をよくして確実に俺をつぶす為だったんだろうが、その行動のおかげで避けることが出来た。
片手剣が耐久が無くなり消滅ことにより、目の前に現れた2枚のカードの1枚【ワンド Ⅵ (木)】を取って、横向きから起き上がろうとしているエレファントバッファローの地面についている前足めがけてカードを投げた。
【ワンド Ⅵ (木)】のカードから具現化された木の球が前足に当たると木の球から木の根が生えてきて、前足と地面を固定するようにして拘束した。
「草原でワンドのカードの効果を確認出来ていてよかった。一部分のみの拘束なら効果時間ギリギリまではもつだろ」
そして、カードの効果時間が切れる数秒前に「準備が出来たからこっちに来て」と聞こえたので、エレファントバッファローを警戒しながら距離を取り女性プレイヤーの方に向かった。
女性プレイヤーの近くまで行くと、いつの間にか女性プレイヤーの後ろに隠れる様にしてもう1人の子供?がいた。
「その子は?」
「私は精霊術師なの。で、この子は精霊のホムラちゃん」
そういうと女性は後ろを振り向き隠れていた子を両手で抱えると、エレファントバッファローの方を向いた。精霊と言われた女の子は見た目は深紅の髪に綺麗な赤い目をした110cmほどの大きさだった。あと髪留めや着ている服が火のように揺らめいていて、たぶん火の精霊なんだろう事は分かった。
「とりあえず今は自己紹介は後からにして、今から最大火力で火を放つから私より後ろにいて」
言われた通りに後ろに下がり女性プレイヤーがする事を見ていると、エレファントバッファローが起き上がって、こちらを見つけて向かって来ようとしていた。
「いくよ!ホムラちゃん!最大火力でファイヤー!」
女性プレイヤーが指をさして、子供が両手を前に突き出すと魔法陣から火が渦を巻く様にしてエレファントバッファローに向かって噴き出した。火の渦はこちらに向かって来ていたエレファントバッファローに正面から直撃した。
それから5秒ほど火の渦は続き、収まった時にはエレファントバッファローは全身が黒く焼けていて、膝を折って顔が地面に埋まっている様子で立ち止まっていた。
「ど、どんなもんよ」
女性プレイヤーは火が収まると同時に座り込み、肩で息をしながらこっちを見て言った。精霊の女の子はお疲れ様とでもいう様に、俺からは隠れながら女性の背中をポンポンと叩いていた。
「すごいですね。だけど・・・」
「凄いでしょ。・・・・ん?だけど、なに?」
「ちょっと気になる事があって」
エレファントバッファローの倒れている姿勢がまるで火から顔を守るために地面を掘ったように見えた。思った事を伝えようとして女性の方を向いた時、物凄い雄叫びが聞こえてきて雄叫びが聞こえたエレファントバッファローの方を見ると、黒く焼けていた皮膚が剥がれていって中から黒の皮膚に赤い血管のような模様が全身に入った姿になって立ち上がっていた。
「そんな・・・」
「もしかしたらと思ったけど、死んではいなかったか。そしてあれが手帳に書いてあった凶暴化って状態かな」
「何をのんきなこと言ってるの、私のことはいいから逃げて」
「貴女は逃げれるのか?」
「私は、・・・無理。魔力を全部使ったからまだ動けそうにないかな。でも今なら、私がターゲットにされてるはずだから、今から逃げればまだ間に合うかもしれない。お願い、逃げて!」
「・・・それじゃダメなんだよ」
「え?」
あれだけの攻撃をした女性プレイヤーから魔獣の注意を俺に向けるには、よほどの深手を与えないと無理だ。さっきまでの俺の攻撃ぐらいだと、向かってくるエレファントバッファローには無視されて動けない女性プレイヤーが倒されるだろう。そんなことになるぐらいなら、この状況で確実に助けることが出来る方法があるならそれを使うべきだろう。俺の目的やこの後の面倒は二の次にするべきだな。
「とりあえず、何とかするからその場にいてくれればいいよ」
そういって、座り込む女性の前に歩いて行った。
「なんとかって、貴方、何を言って・・・」
困惑する女性プレイヤーを背後に、残りのカードの内の1枚を手に取り凶暴化してこっちに襲いかかって来ようとしているエレファントバッファローに向かって投げた。
「焼き尽くせ。インフェルノ」
『ワンド A 』のカードが具現化されると白い炎と青い炎が混ざり合った直径10cmほどの炎の球が真っ直ぐ飛んでいった。炎の球が突進してくるエレファントバッファローに直撃すると、一瞬の静寂と閃光の後にとてつもない爆発音と火柱が上がり爆風と熱がこちらまで届き、体が後ろに倒れそうになるほどの熱風が体に吹きつけられた。
そして、火柱と熱風が収まって魔物がどうなっているのかを確認するとエレファントバッファローの姿はなく、エレファントバッファローがいた地面には炎によって融解された地面の跡とエレファントバッファローのドロップアイテムだけが残っていた。
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★魔術師 Lv.3 次のLv.まで 42/100% (+36Exp)
●デッキ(ソード・ワンド)
●スプレッド・フォーカード New‼
●トリック
①チェンジ
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SPスキルポイント 0(0/12)
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お読みいただきありがとうございます。




