地図と魔獣手帳
冒険者ギルドで初めての依頼を受けた後、依頼の品を届ける場所を確認する為に冒険者ギルドの2階にある地図を見に来ていた。
2階への階段を上がってすぐの正面には、丸められた紙束や手帳などが並べられて値段が書いてある売店があった。左右を見てみると、左側は本棚がいくつか置かれていて奥の壁には大きな地図が貼っているようで、右側はロビー上部の吹き向けの奥の通路に吹き抜けを見下ろせる位置にテーブルとイスが置いている休憩スペースのようになっていた。
まずは地図を見てみようと思い、本棚の間から見える地図が貼ってある壁の所まで歩いて行った。
壁に貼っていた地図には、【オノコロ】の街を中心に周辺の地形情報が描かれていた。
四角い地図の中心に【オノコロ】の街があり、東方面には山を一つ越える距離にカザーナ村という村があるようで、地図の尺図では街から約20kmのところにあるらしい。南と西は地図には街や村の表記がなくて地図では道は続いているが草原が広がっているように描かれていた。
そして、依頼の目的地である北方面を見たのだが・・・。
「これは、林?・・・いや、森の表記だな」
地図の北の端には山岳と細く続く道の先に街と鉱山が描かれていたが、北西の方向には地図の端まで森を示す表記がされていた。
「目的地は、北西にある丘の上のお墓だったはず?」
一応ギルドカードを取り出して、依頼の内容を確認したが依頼内容には北西の丘の上と書かれていた。
「う〜ん、森の中に丘があるのか?」
地図上の森の中に丘がないか詳しく地図を見てみたが、丘やお墓の表記は見つからなかった。
「地図には載ってないほど小さな丘なのかな?たどり着くには、導の腕輪を使えば行けるんだろうけど、ある程度の距離がわからないとどれぐらい時間がかかるか検討つけられないな」
今の時間が午後2時前か。今日は敵対生物との戦闘の動きも確かめてみたいから、戦闘での動きと依頼で大体4時間ぐらいは使えるかな。具体的な目的地の場所が分からないから時間が足りるか分からないけど、もし今日中に依頼の場所にたどり着けなかったら、平日の夜にでも場所を特定できるようにして時間が取れる来週の土日に依頼の達成を出来るようにはするとしよう。
やることが決まれば、さっき2階に上がってきた正面の売店に地図らしきものが売られていたから、地図を買って街の外に出てみるか。ほんとは冒険者ギルドにどんな本があるのかも気にはなっていたけど、依頼の事も考えるとみるのはまたの機会にするか。
周りの本棚の背表紙を見てどんな本があるのかを軽く見ながら、2階正面にある売店へと向かった。
カウンターに貼っている見本の地図の下に、丸められて真ん中を紐で縛っている地図があったので、一つ手に取りカウンターの奥に居た男性に声をかけた。
「この地図を下さい」
「地図一つで1500ベルだ」
1500ベル(残金4200)を渡して地図を買うとすぐに立ち去ろうと思ったが、さっき地図を見て思った事を一応聞いておこうと思い、売店の男性に話しかけた。
「すいません。いくつか聞きたい事があるんですけど、今いいですか」
「・・・・・大丈夫だが。なんだ?」
若干顔をしかめた後にめんどくさそうに売店の男性は対応した。ギルドの販売担当がこんなに愛想が悪くて大丈夫なのかとも思ったが、答えてくれるようなので聞きたいことを聞いてみた。
「これより広く載っている地図はないんですか」
「ん?ん~そうか、お前は星渡りか。えーっとな、冒険者ギルドが扱う地図はギルドがある街から大体20kmまでの地図しか取り扱う事が出来ないんだ。国がそう決めたからな」
「なるほど。それと、もう一つだけ聞きたいのですが」
カウンターに貼っている見本の地図の森の部分を指差しながら聞いてみた。
「この地図で北西の森なんですけど、ここにお墓がある丘ってありますか?」
売店の男は覗き込むようにして地図を見ていたが、思い当たる事はないようで首をひねった後に不審なまなざしを向けて答えてくれた。
「この森の中に墓がある丘?少なくとも俺は聞いた事ないな。この森に何か用でもあるのか?」
「依頼で物を届けに行くんです。その場所が街から北西の丘の上と依頼に書いてあったので、知っていれば教えて貰おうかと思っていたんですが」
そうか、ギルド職員でも知らないのか。というか、この人は本当にギルド職員だよな?下の受付の人とあまりにも対応が違って大雑把というか、喧嘩腰というか。俺としては聞きたいことは答えてくれたから別にいいんだけど、短気な人相手だと喧嘩になりそうだな。ギルド職員が原因で問題が起こっていないといいけど、他人事ながら心配になるな。
勝手にギルドの心配をしていると、俺が不安そうにしているように見えたのか一言忠告の様な事を言ってきた。
「まあ、そんなに不安ならあの森に行くとしても森の奥に行かない事だな」
「どうしてですか?」
「最近になってだが、森の奥から悲鳴が聞こえたとか、唸り声が聞こえたとか、ゴーストを見たとか、1つもいい噂は聞かねえからな。しまいにはその森で新人の冒険者の行方不明まで出てやがるからな」
「そうなんですか」
「・・・・お前、全然怖がってないな」
「いえ、話だけだと実感がないだけですよ」
話を聞いても実感がわかないのは当然なんだが、その噂のどこが怖がる話なのかが分からなかった。
「はっはっは。お前、なかなかいい性格してるな。新人でも冒険者はこれぐらい肝が据わってないとな。よし、サービスでこれも付けてやる」
そう言って渡されたのは、一冊の手帳だった。
「それはな、この地域のギルドが把握している魔獣の情報が載った手帳だ。大体の事は載っているから役に立つと思うぞ」
パラパラと手帳を見ると魔獣の絵と解説が載っているのが分かった。
「ありがとうございます。貰えるものは貰っておきます」
「おう、貰っとけ。依頼頑張れよ」
「はい。初依頼ですし個人的にも達成したい依頼なので、絶対に依頼達成しますよ」
当初の予定していた地図を買うことが出来て、役に立ちそうな手帳も貰えたからいよいよ街の外に出ようと売店を後にして2階から降りる時に、1階からギルド職員の服を着てメガネをかけた女性が急ぐように上がってきた。女性がすれ違う時に危うく階段でこけそうに体勢を崩したところを手を貸して助けると、女性は助けてもらったことを頭を深く下げて謝罪と感謝をするとこちらから声をかける間もなく売店の方に走って行った。大事にならなくて良かったと思いながら1階に降りると、2階から先ほど階段を上がっていった女性の怒った声がギルド中に響く大きな声で聞こえてきた。
怒られている内容は、本来の仕事をしていなくて苦情が来るから絶対にやるなと言われている売店でサボっているからだと言っているようで、2階の売店にいた男性が怒られているのが分かったから手帳をくれたから多少は手助けしようかと思ったけど、怒られている内容を聞いてみたらあの男の自業自得だったからやめた。
「触らぬ神に祟りなしだ。行くか」
街の外に出る為に冒険者ギルドを少し早足で後にした。
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