第8話 地図の正体
「と、トモハル様は、ここで何を……」
「んー? 救助待ち?」
「き、救助……?」
あれ?
この子遭難者じゃないのか?
まぁ、察するにどっかから逃げてきたんだと思ってたけど……
いや、おそらくこの子が俺の予想通りの存在であるなら……
「ねぇ、ここら辺の地理について教えてくれないかな……」
「地理、ですか?」
「うん、そこに地図があるから、それが正しいのかと……何があるか」
少し心苦しいことはあるが、情報がないとこちらも何もできないのだ。
家の中から鞄を取ってもらい、地図を広げてもらうと。
「……だいたい、合ってると思い、ます……すごい……」
「おお、良かった」
何かと間違いの多い現在において、地図があっている事は本当に大きい。
「……多分、ここが現在地、ですよね」
「おぉ、わかるのか」
黒く塗られたところがそうだと、ちゃんと気づいた。
流石現地人。
「あれ、これは自分でお書きになったのでは」
「うんにゃ、拾ったんだ」
「そ、そうなのですか」
そして、次々とラクは地図に指を指し。
「えっと、この場所は多分森ですね。今は枯れてると思います。で、ここが大谷……近づいたらダメですよ」
そして、少し躊躇しながら。
「ここが……私の村、だと思います……」
小さな丸の集まる場所を指差して。
本当に村だったようだ。
「……帰りたい?」
「…………」
俺の顔色を伺うようにしながら、ゆっくりとうなずいた。
まぁ、多分逃げてきた子、だしなぁ……
それも、村からじゃない。
どこか大きな……それこそ、他国と貿易出来るほどの。
奴隷、という商品がある。
現アメリカ大陸にいた原住民など、その他多くの人間を、使い捨ての労働力として捕まえて売り払った、そんな暗い歴史も存在する。
故に……この子はとてもわかりやすい。
それか、家庭内暴力のどちらかを疑っていたが……どうやら前者なようだ。
「連れて行ってあげよっか」
「へっ……」
「一人じゃやっぱり難しい。でも二人なら……ね?」
「よ、よろしいのですか……?」
ぼわ、と耳と尻尾が膨れ、ゆらゆらと揺れる。
高揚……している、のだろうか。
「まぁ、やることもないしね……あはは……」
結局、いま自分が出来ることと言えば、多くの人とコンタクトして、情報を得ること。
そして、おそらく……これは、一番危険な、だが聞かなければならないこと……
「ねぇ、ラクちゃん……その……」
「は、はひ! なにぬでこじゃいましゃか!」
噛みすぎだ……
とりあえず落ち着くことを促し。
「地球ってさ、知ってる?」
「チキュー?」
可愛らしく首をかしげるラク。
少なくとも、地球を知らされていないほどの年ではないし、最低何かしらの知育系の本で知るだろう年である。
つまるところ……
「……アメリカ、ロシア、ヨーロッパ……日本、これで聞いたことあるものって、ある?」
「えっと……その、私が、無知で、申し訳、ありまっ」
「い、いやいいんだ、一部の人しか知り得ないことだから……」
この子は本当にコミュニケーションが取りづらい……
地雷が多すぎるぞ。
そのためにも、まずは村らしい場所に……
「とりあえず、服が乾いたら行こっか」
「は、はい……」
それから程なくして。
「地図は渡しておこうか、君の方が読めるだろうし、ね」
「よ、よろしいのですか」
「ん、もちろん」
準備を終え、ゆっくりと歩く。
「ここら辺には動物とかいないの?」
「動物は……今の時期はいないと思います。せめて草が生えないと……」
なんだ、時期が違うのか。
通りで本当に何もないはずだ。
「それに、これからもっと辛い時期に……越冬できるといいのですが……」
「げっ……」
こんなに辛いのにもっと辛くなるのかよ。
あんな子供の作った秘密基地みたいな家で大丈夫だろうか……
そんな適当な話をしながら。
「あぁ、見えました!」
小さな茶色いものが点々と、そこにはあった。
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