表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/56

第54話 ハンター

ずっと歩いて1日。

今は日が出ているからまだいいが、これが冬場などであればと思うとゾッとする。

そんななか帰ろうとしていた自分にも。


大雪原にはやはりなにもない。

面白いものは無いし、結局のところ特に見るものもない。


こう、何もない時間が過ぎて行くとやはり村の方が心配になってしまう。

マカという最高戦力がいない間、まともな戦力……というか、さまざまなものに対抗しうる戦力はヴィオラと男衆しかいない。


魔術を仕込んだ魔法陣をいくつか既に村に用意してあったが、あれで村がどうなるか。

またサイレントウルフだのなんだのが現れなければいいが……


「村の連中の、魔術を鍛えるべきじゃ?」

「さぁな……いまのところその余裕はないからな」


村はいま成長期だ。

今は育てておくべきだが……


「それに、あいつらにはまだもうちょっと、働いて貰わないと、な」

「? どういう意味だ」

「ま、話してもしかたないさ」


口止めの魔術も今は使いづらいからな。

こいつらには悟られないほうがいい。

村の奴らにはもっと価値を増やして貰わねば。


「……む」

「どうかしたかラク」

「……ちょっと聞こえます」


ん?

耳をすませてみるが、特に聞こえるものは……


「……あぁ……わかりました、ほんの少しですが……」

「ほんの少し? いえ……あ。近づいて来てますね……」


む?

ラクの見ている方に耳をすませてみる。

すると。


『こ……の……はや……』


声。

あの方向には村だのなんだのは無かったはず。


ハンターか。

こっちには気づいてはいないようだな。


「何かあったのか?」

「獣人を捕らえるハンターだ。捕まると眠らされて起きたら奴隷になってる」

「恐ろしいな」


6人全員で身をかがめ、相手を探る。


「ええい、悪人ならば我が剣で」

「やめてフィアナ、なにが起こるか」


ケンジがフィアナを止める。

あぁいうのは結局殺したら増える。

俺だってこの前、攻撃したはず。

だがあのハンターじゃない、他のハンターが俺たちを一攫千金狙いで捕まえる気満々なんだから。


「ああいうのがいるから……」


ため息が出る。


「選択肢。捕まえて情報を得る。ここから離れる」

「捕まえた後はどうするのです?」

「記憶を消せるような魔術は?」


マカに、ケンジたちも全員首を振った。

まぁそりゃあそうだろうな。


「殺すか……良くて気絶させるか、だな」

「…………」


全員黙ってしまう。

俺だって、ようやく血に慣れて来たんだ。

いま人間を殺せば、どうなるか。


「縛り付けて放置、なんてすればいつか死ぬんじゃ?」

「そんなの殺すのと対して変わらないだろう」


そんなことを話していると。


「……ええい面倒だ! 我が剣! 貴様ら悪人を屠り、善人を導くための希望の刃!」

「お、おいフィアナ!」


フィアナが突っ込んでいきやがった!

ちょっ、まだ考えてる途中なのに、どんだけ脳筋なんだよ!


「お、追うぞ!」

「は、はい」


フィアナを追うと。


「成敗ッ!」


確かに、俺の見たことがある服装の、ハンターが……のされていた。


「安心しろ、峰打ちだ……」


格好良く空を切ってから納刀するフィアナだが……それ西洋剣だろ。

両刃の剣で峰打ちって……確かに無傷だけど。


「……フィアナ、見られたか?」

「む? 確かに見られはしただろうが……瞬殺なのだから問題ない! むふん」


むふんて。


……まぁ、好都合といえば好都合、なのだろうなぁ。

こいつらも災難だったな、あんなことに巻き込まれて……

こいつ、台風とかその類だろう。

突然来ては被害を撒き散らし満足したみたいに消える。


「とりあえず縛って、情報を得る。その後は……まぁ、こいつら次第だな」


それから5分ほど。


「……ぅ……」

「と、目が覚めたかの。とはいえ、目隠しじゃ、何もわからなかろう」


布で目隠しして、手足を縛らせてもらう。

そのまま上に乗り、暴れないようにして、フィアナには喋らないことをケンジが厳命した。


「お、お前、は」

「それを問う権利は貴様には無い。貴様の口は我が問いに答える義務があるがの」


喋るのは俺。

この中で最も弁がたつとか何とか。

マカのほうがよっぽどだと思うが。

身バレを防ぐためにもいつかの強キャラ口調。

これならまぁバレないだろ。


「我が問いに答えよ。獣人を狙っておったな?」

「だ、誰がそんなことを」

「世迷い言はまず、人の口を持って言うべきではないかえ?」

「……ひっ、な、なんだこれ」


男の首、喉仏に親指を。

そのまま埋めるように。


涅槃(ねはん)にたどり着けるかどうか、それは貴様の口にかかっている。いまだ現世に揺蕩いたいのなら……わかるな? 小童」

「わ、わがっだ、がら、やめっ」

「よかろ」


手を退ける。

男の唇が一気に青くなる。

ようやく、わかったようだな。

今の状況、狩人が獲物を捕らえた、のではない。

もう解体、調理が終わり、食卓に並んでいるのだ。

優位、などではない。

消費者と、犠牲者。

絶対的な地位が確立されたのだ。


故に、こいつに選択肢などない。


「もう一度、問うぞ? 獣人を狙っていたな?」

「……あ、あぁ……既に2匹、奴隷小屋に送った」


……捕まえてよかった。

心の中でフィアナを褒めたたえる。


「それはどこにある?」

「こ、このまま南に進めば道があって、そこから」


クラウドと別れたところ辺りか。

あの近くに奴隷を預ける場所があったんだな。

おそらく、そこから各地に配られたりする、流通の拠点なのだろう。

それが知れたら充分だ。


さて、これからだ。

魔術で契約させようが、この手の連中はなにかを起こす。


「…………」

「な、なんだよ、次のは、次のはないのかよ!」


殺すべきなのか。

こいつを。


「……やめとけ」

「…………」


ケンジが横から。


「傷にしかならない」

「な、なんだよ、複数いるのかよ!」


ますます男はパニックになる。


そうだな、傷になる。

俺はきっと、何をするにも引きずるだろう。

理由があるから殺す。

それは、ある意味正しい行為なのかもしれない。

腹が減ったとか、そこにいると邪魔だからだとか、自然界では当たり前だ。


だが、理性を持つ俺たちにはそれは……とてつもない傷を作り出す。


「……契約」

「了解しました」


マカに契約の魔術を使わせる。


「貴様。これより奴隷に関わること全てを禁ずる。よいな」

「よ、よいなって」

「誓え。でなければ殺す」


あくまで冷淡に。

俺の動揺を隠しながら。


「ち、ちかうっ、ちかう!」


即座に男の腕から血を採取、契約を結ばせる。


「以上だ。その縄はいずれ燃える。そういう魔術であるからな。ではな」


それだけ吐き捨て、男の元を去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ