第53話 遠征計画
「ついてくるって……まじでか?」
「まじだ」
ケンジに交渉。
多少なりニンゲンに慣れている方がいいからな。
それと……
「最悪、何かあってもお前の奴隷って設定にすれば何かと楽そうだ」
「なるほど」
隠れ蓑はリアルなほどいい。
人が隠れ蓑になるなら、おおよそ問題はないだろう。
「んで、ついて行くのは」
「俺とマカ」
「と私です!」
横入りしてきたのは。
「ラク、だから遊びじゃないって何度言えば」
「遊びじゃなくても! 嫌なんです一人で待つのなんて! マカさんはついて行くらしいじゃないですか!」
ラクがこの旅に同行したいといって聞かない。
危険なのはわかっているはずだが。
「私だって魔術は使えます! 護衛ぐらい」
「あのなぁ……」
「いいじゃないか、連れていってやったらどうだ? 俺は構わないぞ」
「ケンジ……」
だがラクは子供だ。
そんなことさせられるはずも……
「……ラクさん。また奴隷になりたいんですか」
「なりません!」
マカの一言にも強気で返す。
ラクは変に強情なところあったりするからな……
「いざとなったらトモハル様! 守ってください!」
「おまっ、このやろ」
こともあろうに俺に守ってくださいだと……
「私は弱い、子供です。でも、気持ちはトモハル様と同じなんです! 立場だって、きっと変わらないはず」
「ぐ……」
この集落で奴隷になった経験があるのはラクのみ。
俺と同じ立場で、同じ考え方ができるのも、ラクだけなのだ。
「私は助けたいんです! お願いしますから!」
必死の懇願。
ラクが子供だとか、弱いだとか、そんなことはわかっている、だけど力になりたいと。
「……はぁ……」
ため息。
結局、俺だってマカに無茶言ったわけだしな……
「とりあえずラクんとこの両親に話はしてくる。片方でも反対したら諦めろ。わかったな」
「……ほんとですかっ」
わさわさと尻尾や耳が動く。
本当に嬉しいらしい。
「トモハル様……」
「わかってる、だけどラクとマカも同じ気持ちからついて行くんだ、これ以上文句は言えないよ、俺も」
結局、待つのが嫌だという理由でついていく。
俺だって、待ったままに奴隷になるものがどんどん増えていくのが嫌だというのがそもそもこの旅に向かう理由だ。
「結構大所帯になったな。大丈夫とは言ったが、一応隠密で行くんだろ?」
今回の想定している作戦は、ケンジを隠れ蓑にして馬車の存在を確認するというもの。
そのためには、俺たちを悟らせず、とにかくケンジの所有物、さらには人間の誘拐や強盗といった犯罪にも気を張り巡らせる必要がある。
一人いればリスクは倍に増える。
ただ、やるしかない。
俺たちの文明の進展と、奴隷を救うには。
「頼む」
「……いいよ、わかってるさ」
ケンジも危険なのをわかっている。
それに、さっきまでのが俺たちの建前であるということも。
既に、昨日のうちに俺たちには技術が足りないということは全て話してある。
俺たちが奴隷になる前にそいつらを助けたいのは本当だ。
だが、本音はもう一つ。
結局のところ、欲しいのは技術と人手だ。
そいつらが効率よく得られそうだから、助けに行く。
それは紛れもなく、本音なのだ。
そんな私利私欲を知っても、ケンジは助ける、と言ってくれた。
しかも、そのことに関して話したのは突然だったというのに。
「まぁなんとかなるだろ、お前ら獣人は宝石と同じだ、盗まれれば噂が立つ」
それも本当だ。
俺たちはその見た目から目立つ。
いなくなれば、多少わかる。
「ほいだら、早速準備しとけ。奴隷らしい、とかは考えなくていい、ただ縄は使うからな」
そして、俺たちの遠征計画は始まるのだった。