第5話 動きだす
さて。
身体も温まり、何も恐ろしいことは……
いや、今もあの木の実食ったことは心残りすぎるが。
今もなお、あと一個ぐらい食べるかどうか迷っている。
まさしく、木の実は食いたし命は惜ししである。
とりあえず、この地帯を探索してみようか。
このあたりは結構広く茶色い大地のようだ、うまくいけば色々なものが見つかるかもしれない。
温泉から上がり、服を着て、また歩き出す。
早く温泉に戻りたかったが、今は生存するために進まなくては。
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進んでいるうちにわかったこと。
ここには温泉が多数あること。
それと、植物は一種類、あの木だけ、ということ。
小さなものはすべてあの木の幼いものだったということだ。
それは葉っぱの形から理解した。
たしかに雑草の類すらも生えていないなと思っていた頃だったが、やはりこの植物だけが異常なのだろうか?
何か、硫黄を無害化して、自分の栄養、すなわち糖に変えるような……
何とも面白い木だな、本当にそういうものであれば、とても良いのだが。
うーむ……
ここは何ともいい場所だ。
臭いことを除けば。
それも、鼻が曲がりそうというレベルではないし。
……本格的にここに住みたい。
あの掘っ建て小屋に戻る気も起きない。
せめて、救助が来るまで……まぁ、来るのか知らないけど。
まぁ、木があるのだ。
ある程度、文明的な事も可能である。
道具もある程度は作れるだろう、その道具を使えば……まぁ犬小屋程度の物は作れるだろう、大型のやつ。
それなら、多少は住んでいける……と思う。
まずは、あの男の持っていたナイフで木を加工することから始めてみようか。
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とある村にて。
「探検隊が大雪原より帰りました」
「まことか!」
村長が叫ぶ。
あまり声の荒げることのない村長だが、今回ばかりはやはり、期待と不安を隠せなかった。
領土が少なく、土地の痩せていたこの村では、隣接する大雪原でどこか移住できる場所を探すしかない。
王国からの輸入に頼っていた防寒具ではギリギリの選択だったが、踏み切る他なかった。
遊牧民として生きるか、村民として死ぬかの瀬戸際だったのだ。
だが。
「カヤ? カヤ!」
探検隊、と勇気ある若者を集めた最後の希望は、一人を残し、自然に還った。
帰ってきた一人だって、唇は真紫に、ガタガタと震え続ける。
火を起こし、体を当て続けても。
魂でも取られたかのように。
「……カヤ、その……どうだったのだ」
村長は問う。
半ばわかっているのだ。
カヤが、首を横に振ることなど。
「そう、か……」
自分の命令は数多くの仲間を殺した。
村長はもう、限界だった。
「そ、村長」
「……もはや、私は村長ではない、人殺しだ」
「ち、ぁ、う……」
カヤ、と呼ばれた女性は震えながらに、その目を村長へと向ける。
「そん、ちょ、わるぐ、なぁ……みんな、かく、ご、して、だれ、も、わるく、な、ひ」
「カヤ、だめだ、喋るな……もう、休むのだ……」
人肌で温めることが一番よい、と知っていた。
「誰か、カヤを温めてやってくれ。頼む。本当に、ありがとう、カヤ」
それだけ言い残し、村長は自分の部屋へ。
女性は湯と布を。
男性は食事と寝床を。
そして、村長は、自分の部屋にて、王国への嘆願書を書いていた。
限界だという、嘆願を。
法外に過ぎる輸入品の値段。
反して、輸出品はあまりに安く見積もられ。
少し温暖な場所に近づけば、ここは王国の土地だと突っぱねられ。
王国の定めた6等地であるこの地帯は、王国からの被害により、破滅していた。
ほんの僅かでも、希望を持てば収穫される。
そうして、王国は周辺の土地へ次々と等級を付け。
自分たちに媚びへつらう者たちは上位に。
反して、この村のように何もできないとか、反乱の意思があれば、下げられ、上位の村に疎まれる。
そして、最下位となった土地にすむ者たちはいずれ、この村のように破滅していく。
そうしてなり得る未来は一つしかなかった。
王国民の奴隷。
命だけは保証される最悪の立場。
絶対的な下位者。
それになるしかなかった。
そして村長は、嘆願書を書き終える。
"村民を奴隷として買い上げて欲しい"と。
なんかそれっぽいこと書いてますが人間どもがちゃんと描画されるのはドチャクソ後です。