第49話 毛皮
ズゴゴゴ……
チーン。
「はい次」
ヴィオラの中に毛皮を投げ込む。
ズゴゴゴ……
チーン。
「はい次」
またヴィオラの中に毛皮を投げ込む。
ズゴゴゴ……
チーン。
「はい次」
「いや終わり」
「終わりなの? 楽な仕事ね」
ヴィオラの横には、脂、ダニ、その他諸々が取れた皮が。
傷もない。
このまま加工すれば毛皮として使える。
ヴィオラの中に毛皮を放り込めば中でヴィオラが洗浄、泥取り、虫取り、脂取り、乾燥を全てやってくれる。
超高性能洗濯機及びゴミ箱。
まぁ機能するかはご機嫌次第だが。
ちなみに頼めば毛も取ってくれる。
普通の皮というのも需要はあるのだ。
特に服なんかはな。
ヴィオラがいることによって、毛皮の問題は大きく解決した。
ただ、狐尾族には皮をうまく使う技術がない。
雪兎族も同様。
これは他の部族にでも頼るしかないだろうか。
人間、とかな。
記憶する限り、人間はちゃんとした服を着ていた。
もしかしたら、頼ることになるかもしれないからな。
まぁ、半分解決、といったところだ。
俺だって裁縫技術だのがある訳じゃあない。
ただ、一応知識というか、学校で習った分の事はあるので、針と糸があれば不恰好なものはできるかもしれない、とは言っておいた。
ただまぁ、毛皮を残したままで出来るとはあまり思えないし、逆にそれをとって仕舞えばあまり意味はない。
どうやっても、未知の技術が必要だった。
「トモハル様は、いつも何かを考えておいでですね」
「おーおー、大変なんだよ。ラクも一緒に考えてくれ」
どうにも俺は表情から中身がバレやすいらしい。
ラクに見破られてしまった。
あと、少しだけ毛皮運びも手伝ってもらう。
一生懸命なところが可愛らしいところだ。
「それで、考えているというのは?」
「んー? 服をどうやって作るか、ってこと」
ラク達獣人は服装への頓着が薄い。
種族的に耐性があるのか、割と平気のようだし。
だが、元人間はどうしても思い込みというのかわからないが、寒さを理解してしまう。
そして心配性の日本人、みんなに着せなきゃと思うわけだ。
「なるほど……皮をそのまま羽織るのではなく、あくまで文明らしくあろうというのですね!」
流石トモハル様ですビームを目から発射され、目線が合わせられなくなる。
俺のわがままに付き合わせて申し訳ないなぁと思いながらも、結局これは解決するべき問題なのだ。
「衣服など、文明が進んでいる種族……聞いたことがあるのは、森精族、土守族そのあたりでしょうか」
いつか読み流した本に載っていたなぁ。
森精族と土守族。
森精族はその名前の通り、耳が長い森に住む長寿の民。
弓による狩猟を好み、精霊と呼ばれる存在と仲がいいのだとか。
土守族もそのまま。
金属加工においては人間を上回り、その豪腕は岩をも砕く……が、普通の種族よりもふた回りは背が小さく太い。
ただ、その種族達はどうにも雪国に適さないらしく、この線に頼るのは無理そうだ。
都合よくそんな裁縫が出来る手先の器用な種族がうちにいりゃあなぁ。
〜〜〜〜〜
帝国にて。
「何だ……何が起こっている……?」
いつもいるはずの警備はおらず、緊張高まるはずの作業もどこか全員そわそわとしている。
奴隷の私たちにはそんなもの関係ない、そう思い込んでいたが、これはどうにも臭う……
「……あぁ、どうやらお偉いさんが殺されたんだと。それも何人もな」
同僚が話しかけてきた。
聞かれていたらしい。
「お偉いさん? 貴族達か?」
「貴族も貴族、上流貴族さ。ま、詳しいことは知らないがな」
貴族が殺された、か……
確かに、そうともなれば国も揺らごうものだ。
それも上流ともなれば国の分裂を招きかねんからな。
「私たちにかける手間などない、ということか」
「あぁ、酷いところだとこれから飯1日1食らしいぜ」
そんなことをされては奴隷が潰れてしまう。
……いや、潰すつもりなのだろうな。
おおよそ、奴隷を抱えきれなかっただとかその程度の理由で。
「……私たちにも来る、ということだろうか」
「……まぁ、そうだろうな」
いずれ、私たちも命を削られる。
どれだけ命を削ろうとも、その余韻たるや水面に石を投げるが如く消えていく。
何一つ残らず、墓すら立たずに土へと還る。
それではわざわざここにきた意味すら無いではないか。
「……なぁ、爺さん」
横を向くと、その人の目は強く輝いていた。
私のように未来を悲観する目ではない、希望を見出す目だ。
「俺はこの機に乗じて国を出る。ここにいても死ぬだけだ。しかも、夜にもなれば脱出は楽だ。爺さんも乗らねえか」
なんと。
こやつは逃亡する気なのか。
奴隷が逃亡すれば連帯責任としてその奴隷と同じ場所で働く奴隷が虐げられる。
それでも、逃げるというのか。
「あんた、村長だったんだろ? それならよ、今日の夜に奴隷小屋を回って、明日の夜に脱出。できねぇか?」
それも、集団で行くのか。
そんなことをすればその被害は……
「わかるだろ、爺さん。みんな自分が可愛いんだ。あんたにこの話をしたのは信用してるからだ」
信用……か。
「……わかった。今日の夜に話し合おう」
これが一体どう転べばあのようなことになるのか。
今となれば笑い話だが、この時の私は知る由もなかったのだから。
改善点などあればよろしくお願いします。