第46話 雪兎の力
「森に行くのも久しぶりねぇ」
「恋しいのか?」
「いいえ、向こうの方が楽しいわ」
ヴィオラ、および雪兎族と森へ。
木材が少ないのと、食料、あと出来れば毛皮も欲しい。
「またあんな無茶しなければ、こんな仕事ぐらいやってあげるわよ」
「悪いな」
ヴィオラは今回も木材運び担当。
前回は無茶させたので、今回は半分以下、20本ほどにする。
どうせ木の大量伐採を行なってもいいことはないからな。
それに。
「吸血、していいのよね」
「まぁ、な」
「やた♪」
ヴィオラはスライムとヴァンパイアのハイブリッド。
本来食事であるはずの吸血はどちらかといえば嗜好品になった。
スライムで何かを食べれば栄養になるからな。
ただ、血液を飲んでいた頃の味は忘れられず、飲みたくなるらしい。
んで、村の中では俺の血が一番美味しいとか。
なんでかはしらん。
「ヴィオラ〜、血って美味しいの〜?」
「人によるわね。トモハルのはすっごく甘くてアタシ好みなの」
「へぇー……じゅる」
寒気が。
ヴィオラと雪兎族は割と仲がいい。
物珍しさからか、かなり雪兎族側からアプローチしているみたいだし、ヴィオラは割と話好きだからな。
「お、見えた見えた」
「あっ! 森だ!」
「いっぱい食べるぞー!」
それは主たる目的ではない、というか現地で消化されても困る。
「先に言った通り、5人で木を、3人で食料を確保してもらう。いいなー」
「「「はーい!」」」
幼稚園児みたいな返事だが大丈夫だろうか……
結局、借りられたのは8人の雪兎族だし。
なんとかなる、と思いたいが……
「本当に大丈夫だったのか? 道具なしで」
「大丈夫だよ〜」
この雪兎族、なんと自分たちは斧やナイフといった道具は必要ない、と言った。
まさかそんなことはないだろうとは思っていたが、あの怪力や俊敏を見ると幾らか期待してしまうものもある……
一応ナイフを予備に4つ、斧を3つソリに乗せて持ってきたので、最悪その自信が失敗を招いたとしても、一応何かしらの成果はある、はずだ。
「俺は木材班につく、食料班は……まぁ、果物とかならどんどん食べて構わない。タネとかは取ってくれるとありがたい、向こうに植えるからな。目標はなるだけ肉。多く取れたらここで余分を食べよう」
「はーい!」
血抜きだのなんだのの知識はそれなりに身についた。
皮を剥ぐのは苦手だし、内臓には未だ慣れないが……まぁ、食べるぐらいは出来るはずだ。
食料班が森の中へ入った頃。
「よーし、俺たちも始めるか。んでだが……道具も無しにどうやるんだ?」
「それはね〜、こう!」
雪兎族の1人が1本の木に狙いを定めて助走距離を取る。
結構立派な木だ、斧を振って切るまでどれほどかかるか。
そして。
クラウチングスタートから。
雪を巻き上げて走りだし。
「おりゃあああああ!!」
飛び蹴りをかました。
メシメシメシッ……
嫌な音がしたのは、足では無く木から。
「よーし、次!」
「よーし、次! じゃなぁい!」
「ほえ?」
ほえでもない。
「そんな力任せにやって大丈夫なのか……?」
「大丈夫だよ〜、こんな感じだからいっつも〜」
なんだこの首狩りウサギは、こんな力技で土地を開墾していたのか?
もっとこう、理知的な、文明的な行動はないのか!?
「おりゃああああああ!!」
メシメシメシメシメシメシ!!
ウサギの足にさらされた木は、大きな亀裂を伴い。
そして。
「倒れるぞー!」
ズズゥゥゥゥ……
木材の原料となった。
「……ねぇあれ本当に村に入れて大丈夫だったの」
「……わからない」
今だけは、ヴィオラにお前もなと言う気力はないのだった。
うさぎキック。
相手は死ぬ。