第43話 客人
「呪術のことを?」
「あぁ、もっと知りたい」
マカに詰め寄る。
まずは何が起こるかわからない自分を律するために、何から暴走が始まるかを理解する。
どれだけスピードを上げればエンジンが爆発するのか、それを知りたいのだ。
その上で、あの謎の呪術とか、黒い狐とかのことを知ろう、というわけだ。
ちなみにここから離れた場所でもう一度詠唱からやってみたが、あの《千呪七星大紅蓮絵巻》どころか、《狐火》すら発動しなかった。
いま思うとものっそい恥ずかしい名前だけど……
なんやねん千呪七星大紅蓮絵巻って。
必殺技ノートある人だってそこまで行くか怪しいところだぞ。
ただまぁ、右目が疼いたりしなかっただけマシと考えるべきか……
眼科無いしここら辺。
多分。
まぁとにかく、まずは敵をよく知ること、と思ったのだが。
「残念ですが、私はあまり……」
「まぁ、そうだよねぇ……」
そもそも呪術は必要がないというか、需要がない存在なのだ。
魔術と比べて手間、コストがかかりすぎる。
魔術をよく知るマカが知る必要は無い。
「ニンゲンの図書館に行けば多少は何かがわかるかもしれませんが、それは出来ませんし許しませんからね」
それは俺だって思っていた。
人間は何かと保管したがりだからな。
もしかしたら、と思ってはいたのだが……まぁ、俺だってそんな賭けに出る気は無いし、まだ必要もない。
もう一度暴走でもされたらさすがになんらかの作を使い、やるしかないだろうが……
「まぁ、何かやるとなればお手伝いしますよ。魔力を枯らせば暴走もすぐに止まりますし」
それはつまり、いつかの時みたいに俺の魔力を根こそぎもらって行く宣言だな?
それは困るんだけど、あの感覚結構怖いんだぞ。
とまぁ、とりあえずマカへの相談はマカに手伝ってもらえるというもので終わった。
「トモハル様、大丈夫ですか?」
「あぁ、ラク……んん、厳しいかも……あはは……」
目処が立たないというかなんというか。
「あの、トモハル様……つかぬ事をお伺いしますが……あの、大きな魔術はどのようなものだったのですか……?」
魔術、魔術ね。
やっぱり、側からみたら魔術と大して変わらない……
って。
「あれ、ラクはあのときかまくらの中にいたんじゃ……」
「あ、いえ、その……見えてしまったというか……」
外にいたのか。
なんだ、悪い子だな。
髪の毛をわしゃわしゃとかき乱してやる。
あとデコピン。
一応やんわりと注意をした後。
「あれは魔術じゃない、おそらく……呪術だ、確信はないけど」
「え、でも」
そうだ、呪術は魔法陣、触媒、詠唱が行われないと使われない。
詠唱はやったとして、魔法陣はあのとき、足元に自動的に描かれた。
それがまぁ、魔法陣だと仮定しても、触媒がない。
俺自身を触媒に、なんてことをマカはしたことがあるが、別段そんな記憶もない。
分類としては魔術になるはずなんだ。
だが、なんだろうか、これも詳しく話すことは出来ないのだが……
「なんとなく、そう思うんだ」
「なんとなく、ですか?」
「あぁ」
まぁ、この話は掘り下げても俺に話す材料がない、次の話題だ。
「まずは《狐火》だが……あれは、カテゴリ、なんだろうな」
「カテゴリ?」
狐火、というカテゴリの呪術を用いる、という宣言。
図書館で自分の読みたい、例えば図鑑コーナーだとか、歴史コーナーに移動する、みたいなものと言えば分かりやすいだろうか。
「だから、《狐火》自体に魔術だとか呪術の実態はない。んで、《千呪七星大紅蓮絵巻》……だけど」
こんな痛々しい名前を言っても真剣に聞いてくれるラクが可愛いけどこっちが恥ずかしいんだけど。
「んん……あれはいわゆる幻覚の押し付けだ」
「幻覚、ですか?」
「あぁ、そうだ」
あの攻撃は、いわゆる精神攻撃。
五感に強い幻覚を与え、相手に激しい精神的なダメージを与える。
あの世界も、火柱も、全部がマボロシ。
本当は存在しない業火に焼かれた痛みで、泡を吹いて気絶したのだ。
我ながらえげつない攻撃だと思う。
「んで、黒い狐だが……あれはよくわからん」
炎が形取った、というのは俺の無意識下、なにかを考えてあぁなったわけではない。
「ま、そんなとこだ。質問はある?」
「あ、えっと……疑問はありますが、質問に出来るほどの知識がないです……」
「そっか。ま、そうだよな」
俺だって疑問ばかり。
なんであんなに突然暴走したのか。
なんで突然あんな力が使えたのか。
俺の中に正解があるのだろうけど、ね。
「まぁ、なんとか頑張ってみるよ。色々こわいけど、ね」
くしゃくしゃにしてしまったラクの頭を撫でておく。
「そうだ、久しぶりに毛づくろいしようか」
「ほんとですか!?」
ぴこぴことラクの耳が動く。
なんだかんだ最近ご無沙汰だったからな。
櫛でゆっくりのラクの髪や尻尾を梳く。
「ん……むぁ……」
気持ちいいのか、ラクはすぐに眠くなってしまう。
「寝てもいいよ」
「だめ、です……もっとおしゃべり、します……」
もううとうとどころか半目だな。
根性と気力で起きてるな。
そのとき。
「トモハルぅ〜、村のが呼んでるわよ〜」
うっわ、タイミングわっる。
「……何、お楽しみ中?」
「変な言い方をするな!」
ヴィオラに訂正を求めつつ、ラクをベッドに寝かせる。
すると。
「つれてってくらはい……」
「……眠いんじゃないのか?」
「ともはるさまの、せなかで、ねます……」
人をベッド代わりにするとな。
ますます悪い子だ。
とりあえず担ぎ上げ、背負い込む。
「……子持ち?」
「ますますちがうわ」
背負ったまま外に出ると。
「あぁトモハル殿。実は客人が……」
客人か。
さぁて、今度は鬼が出るか蛇が出るか。
藪を設置すればつつくと蛇が出るという、食料供給に一役買っては貰えないだろうか。
「えっと、どこに?」
「……ラク? 何をしているのだ」
「あぁ、一応預かっといて……」
ラクを渡す。
「んで客人は?」
「あぁ、向こうに。雪兎族が」
雪兎族。
この大雪原含め、雪の降るところに住むウサギの獣人。
高い身体能力があり、スノードームというかまくらを作って生活する。
はえー、また珍客が来たもんだ。
「とりあえず話を、と」
まぁ、一応話くらいは聞くか。
そんなに危険でもなさそうだ。
そして、現地に向かうと。
「もぉ歩けないよぉ……」
「助けてぇ……」
「お願いぃ……」
今にも干からびそうなウサギが20人ぐらいいた。
来年ものーんびりと行きます。
良いお年を。