第42話 戦闘のあと
ーーーとも……さま。
ーーー……のち……だめ……
ーーーこえ……きいては……
ーーーしなないで……
〜〜〜〜〜
「っ……ぐぁ……」
「おおっ……お目覚めに……」
「よかった……」
「トモハル様、なぜ……」
なんか、変な夢をみた気がする……
起きたのは俺の家、その布団で。
小さな家だが、村じゅうの狐尾族が押し寄せていた。
みんな心配そうな面持ちだが……
「……あ」
そうだ思い出した。
俺は、あんな……変な事を……
頭がいっぱいで……
「……ご説明、願えますよね」
マカの目は真剣だ。
それもそのはず、俺は何人もの狐尾族をそのまま大きな攻撃に巻き込んだ。
当たるはずはなかった、そういうのは簡単だ。
だが、目の前に火炎放射器を構えた異常者がいて、"お前らは燃やさないから"などと言われても誰が信用出来るか。
さらにいえば、その異常者は身内で。
信用に足る人物だったとするならば、その信頼は底まで下落しかねない。
俺の口から出る言葉は、狐尾族にとっては真実。
俺が、誰かに操られていた、人間の魔術にかかったと言えば、全員信じると思う。
そういう信頼は自負している。
もっとも……
「……わかった、正直に話す」
今から話すのは、それと大して変わらない、いや、もっとひどいマユツバもいいところな話だがな。
「……まず、サイレントウルフに騙されたときからだ」
サイレントウルフはその高い知能で俺たちを騙し、こちらに襲いかかってきた。
そのとき、何人かの味方が襲われ、前線が完璧に崩れた。
「それを見て、なんというか……頭に言葉が響いた。殺せ、殺せって」
人の声じゃなかった。
言葉が、急に浮かんだ。
単語が細かくいくつも、ぽつんと、意味もなく。
「それから……だと思う。俺が……壊れたのは」
正気を失った、ではない。
「なんていうかな……あれも俺の正気というのか、わからないけど……」
あれも自分の一つだ、そう思った。
実質、怒り狂ったとか、そういうものではない。
いうなれば二重人格。
「それからはみんなに見てもらった通りだ、記憶にもない変な……多分呪術を使ってみんなを巻き込んだ……」
いまだに節々が痛い。
起き上がるのも難しいが、これはけじめだ。
「すまなかった」
「と、トモハル様」
土下座。
当たり前だ、今回の行動はあまりに危険すぎた。
俺は正気だったにも関わらず。
やめられたにもかかわらず。
「……今後はどうなさるおつもりですか」
「……二度としない……と、言いたいが、わからない」
殺したいから殺した、のではない、殺さなくてはならなかったから殺した。
サイレントウルフから守るために。
大義名分などとは言わないが、俺は……
「……また、なってしまうかもしれない」
自信がなかった。
止めようと思えば止められた。
だが、実質止まらなかったのだ。
こんな不発弾みたいなやつと、誰が暮らしたいか。
「このまま俺は他の場所、みんなの離れて暮らす。それで勘弁貰えないだろうか」
「なっ……」
「と、トモハル様、それは……」
「静粛に」
凛としたマカの声が響いた。
ざわめいた狐尾族たちは一斉に静かになる。
「自分が抑えられるかわからない、ということですね」
「……あぁ」
「……村長。まずはご意見をお聞かせください」
村長、いまはもう元村長みたいなものだが、この村においてはいまだに権力者だ。
具体的には俺が一番だとして、二番。だが高齢なのもあり、実質何をしているということはない。
マカと権利はほぼ変わらない。
だが、この時ばかりは。
「……ともかく、トモハル殿。頭をお上げくだされ」
「……いいえ。まだそれは出来ません」
俺はまだ、許されてはいないのだから。
「……では、まずはわしの意見を述べさせていただきましょう。トモハル殿」
そして、村長は口を開く。
「なーにを馬鹿なことを言っとるか小娘が」
「なっ!?」
まだ耳壊れたままだったのか。
いかん、どうやって治すんだ。
「たかだか五年十年としか生きとらん小娘が抜かしおる」
「で、ですが、俺は」
「俺は俺はと、まだ自分しか見とらんのか抜け作が。マカに殴られた頬はもう痛まんのか」
「ちがっ、俺はみんなのために」
自分しか見ていないと言われたら話が違う。
「違わん。お前がどれだけのことをしたか、我らが忘れると思った」
コンッ!
「あだっ」
木製の杖で殴られる。
どこか、優しい痛みだ。
「小娘一匹の乱心がなんだ。我ら二十七匹の命はお前が救ったのだぞ」
村長の言葉は続く。
「なればこそ、お前が乱心すれば、今度は我ら二十七匹が救うのだ」
「っ……」
そんなこと。
言おうとした。
だが、できなかった。
何故なら。
「そうだ!」
「トモハル殿の乱心がなんだ!」
「むしろ俺たちは助かったんだ!」
懐疑の視線は確信の瞳へ。
狐尾たちは、全くの疑いもなく……俺を助けてくれると言ってくれた。
「……では、また聞くぞ。お主はこれから何を成す」
マカと同じ質問だ。
だが、意味が違う。
マカのは、これからの俺の行動を問うもの。
村長のものは。
「この村に相応しい、自分になろうと思う次第です」
これからの俺の結果の是非を確かめるもの。
そうだ、自信がないとか、そんなことを言っていられるか。
俺は、成るんだ。
「それでこそ、トモハル殿ですわい」
にへ、と村長の顔が年相応のものへと。
異世界に行こうがなんだろうが、年の功には勝てないらしい。
やっぱり怒られます。
村長空気だったのに。