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第37話 木材加工と来訪者

「おー、進んでるな」

「もちろんです!」


男衆はとにかく建築。

あれだけ潤沢に木材が手に入ったのだ、とにかく加工だ。

といっても木材の使い方は狐尾族が手慣れている。

その辺りに乱雑に投げられてるように見える丸太は、実はあれは生木を乾燥させているのだー、などと言われないと俺にはあんまりわからない。

だが、自然乾燥ではおそらく半年近くはかかる、ということぐらいは俺でも予備知識で知っていることだ。


ゆえに、現在製作中の。


「いやぁ、木材を使うための木造建築! 変なロマンがありますねぇ」


木材乾燥用木造倉である。

見た目はそのまま、縦長の部屋だが……その中身は面白く、切り出した木材をそのまま入れられるように棚のようにしてある。

長さ5m近い木材も一気に乾燥させるために、相当な苦労がされている。

狐尾族の木造技術もさることながら、この世界の木もなかなかガッツあるな。

木造でも燃えないのか。


と、思ったが普通に燃えるらしい。

なので倉庫の壁面には粘土を塗り塗りとされていた。

あとは地面に引いてある溝のいくつかに魔法陣を入れて着火、扉を閉めると内部の温度が上がり木材の水分が抜ける、という寸法。

古代の知恵って感じで見ていて面白い。

すでに大多数の木材は水分が抜け、第二次加工場に回されている。


第二次加工場……といえばそれっぽいがその実態はただのマカの家である。

設計図を地面に書き、その寸法通りにマカが風属性の魔術である《風纏(エアロ)》で加工する。

風纏(エアロ)》は普通なら鎧などに使って強い風を纏わせ矢避けにするものだが、今回は出力をあげ石のナイフに仕様。

高速回転する風の刃が木材を仕上げてくれる。

これ一つで切断、バリ取り、磨きまで行える便利な魔術だ。


ナイフに魔術を使うのはマカだが、ナイフでの加工は男衆。

流石に力はいるらしい。

女衆は木材を運んだり、家事をしたり、温泉に入ったりと忙しそうだ。

なんか最近女衆の肌がツヤツヤになってきた気がする。


そうして出来たのが、この。


「……脱衣所が最初って」

「いいじゃないですか、男女ともに要望多かったんすから」


なんということをしてくれたのでしょう。

それなりに希少な木材をふんだんに使用した最初の建築は、3mほどの高さと5m程度の広さの脱衣所。

それが二つ、男女分けである。

これを作るのに持ってきた木材の20%近く使われた。

たしかに作ろうとは思っていたさ。

それに文句はない。


だがしかーし、もっと必要なものがあるとは思わないのかねワトソンくん家とか!


「後は敷居……と思いましたけど、この温泉そんなに広くないっすからね。掘ったら出ます?」

「さぁ……拡張はやったことないし……」


この村の中心にある温泉の広さはだいたい5mほど。

大人が数人入ればいっぱいいっぱいだ。


ただ、この土地の土はかなり温かい。

地中は地上よりも暖かいとはいえ、おおよそ前世では考えられない温度。

おそらく、この場所の地下に源泉があるのだろう。

確かに、掘ったら出るかもな。

そうすれば、掘ったら多少いいことあるとは思うが……


「その管理、出来ると思う?」

「……トモハル様なら出来るでしょ」

「自分で言っといて俺に振るなよぉ」


とまぁ、掘った時の管理の責任は結局俺になるのだ。

あのチコルの木がどれだけ解毒できているかもわからないし……


「ま、今はあの温泉で我慢しとけ」

「ま、そーっすね」


と、そのとき。


ぼす……ぼす……

「ん……?」

「だれか歩いて来てるっすね……しかも下手。獣人じゃない」


雪を踏む音。

明らかに疲れているな、とんでもなく遅い。

んで、しかも獣人じゃない、と。


「……どうする?」

「いやそれはこっちのセリフでしょ。ニンゲンっすよニンゲン。怖くないんすか」


んー……

確かに、ちょっと前までだったら怖かったかもしれないけど……

優しいのもいる、って思い出したからな。


「さぁなぁ。ま、俺は任せるよ。守ってくれよ、男だろ?」

「えー……自分は面倒なのはあんまりなんすけどねぇ……」


とかなんとか言いつつ、ちゃんと仕事を置いてニンゲンの方へと向かう。

それと、一応。


「おーい、マカ。ちょっと話が」

「聞こえてましたよ。ニンゲンがこちらに歩いてるんでしょう」


と、聞こえてた。

マカはさっきまで食事を作ってくれていたはずだが……

適当に呟けば聞こえる狐尾イアーは凄い。


「マカ、一応援護してもらえるか?」

「はいはい。私としては本当は関わって欲しくないのですからね?」


マカにいざという時のために後ろについてもらう。

これで心強い命綱が出来た。


狐尾のみんなは俺が元人間だって知ってる。

クラウドって人間が俺を助けてくれたことも知っている。

助けること自体にはあまり不服ではなさそうだ、マカ以外。


「じゃ行くか。もう足音も聞こえないし」

「そうっすね、もう倒れてると思います」


ま、倒れてるならむしろ安心、てな。


雪の中を一応警戒しつつ進む。

すると。


「……お、いたいた」

「生きてはいるなぁ……チッ」


おい舌打ちするなよ、まだ善悪わからんだろ。


倒れていたのは男。

やっぱりニンゲン。

藁の傘や靴など装備は足りているが……呼吸が弱い、疲弊してるな。


「とりあえず持って帰ってやるか……このままじゃ凍傷になる」

「はいよー。右肩持ってくれます?」

「あぁー? お前男だろ」

「そんな口調で言うセリフじゃないっすね」


そんなこんなで。


「ぅ……」

「お、起きたか」


一応俺が言い出したことだ、監視は俺がやることに。

とは言っても意識を覚ますまで温泉に手足縛って転がしてただけだけど。

一応溺れないぐらいの配慮はしてやった。


「こ、ここは……ぐっ?」

「あー動くな、手足縛ってある」

「……あぁ、そう言うことか……」


俺のことを見るや否や自分の状況に気づいたな。

なかなかいい勘をしている。


「すまないな、助かった」


捕らえられた、という状況を理解しながらも、かなり安堵した顔。


「一応素性を明かして貰おうかな。こちらとしては人間はあんまりいい印象じゃなくてね」

「もちろんだ。俺はカイ、旅人だ」


カイ曰く、自分は全国を回る旅人らしい。

大雪原というものは知っていたが、聞いていたものと規模が違っていたために食料や物資が足らなくなり、今にいたるらしい。

どうりで装備だけは潤沢だったわけだ、旅人なら雪の心得ぐらいはあるだろう。


「敵意は?」

「もちろん無いさ。むしろ感謝してる、あのままじゃ腐ることも出来なかったからな」


んー。


「はい会議! 俺はいいと思う」

「半々ですね。状況に慣れている場合は犯罪的なことが日常な輩です」

「流石に早すぎだな、俺はダメだ」


とりあえずさっきの3人を収集しひそひそ会議。

まぁ、酷めより、か。


「じゃあ出て行ってもらう、でいいな」

「「賛成」」


人間を拾いはするが、別に万全にするのが俺たちの義務ではない。

命を救ったのだし、本当に旅人なら多少は回復する術も持っているだろう。


「というわけだ。我々にはあなたを信用するほどの材料がない」

「……ま、だろうな。それもわかってた、強制退去なら応じるよ」

「もちろんそれはしてもらう。だが、流石にそれではあまりに情がない。故に残り1時間程度の休憩と、こちらが用意した食料を渡す」


これはもとから決めていたことだ。

本物の悪人で無ければ、そのまま追い出すのではなく、多少は分け与える。


「その代わり、我々の事は内密にお願いする。契約を」


契約。

口約束などと甘いものではない。

儀式だ。


マカが魔法陣を描いた木の皮に、カイに指先をナイフで切ってもらい血を垂らす。


「貴殿はこの場所において起きたあらゆる事象を語ることを禁ずる。受け入れるか?」

「受け入れた」


そう俺の問いの後にカイが続くと、魔法陣の描かれた木の皮が燃えていく。

契約、魔術の一つ。

中級クラスの魔術であり、人に制約を課せることができるものだ。

さっきのように燃えてしまうことや、制約を破ると破ったものも燃えることで、火属性に分類されるらしい。


あのとき、個室でビルがやっていたのもこれ、なんだと思う。

あの後、俺もきっとやることになったんだろうな。


この魔術は一生ぶんのことを背負わせる、ある意味非道な魔術。

故に、あまり使うものはいないらしい。

一応、例えば今回の制約だと喋ろうと思ったら声が出なくなる、だとかのリミッターはあるらしく、それを押しのけてでも話そうとすると火だるま、という具合らしい。


それから1時間。

それなりの食料を与え、村を出たあたりでカイの手足の拘束を解く。


なんとなーく嫌な予感が残るままに、村の騒動は終わった。

やっと宿っぽいことが。

ここから某湯婆婆のアレっぽいのを目指します。

え、出来るの?

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