第36話 吸血
「ーーーということだマカ!ラク!」
「「……?」」
えー伝わらないの。
ただ木材取りに森へ行ったら森の中にスライムヴァンパイアがいて飲み込まれたら結構な量吸血されたからその対価に丸太を大量に運んでもらっただけだ。
……伝わらないな!
「きゅぅ……」
んで、その当人と言えば現在ダウン中。
そりゃあ腹の中に50本近くの丸太を入れてここまで移動したのだ。
そりゃあ休憩の時は吐き出しもしたが。
「あーマカ、一応治癒魔術だけかけておいてあげてくれ……」
「はいはい、わかりましたよ」
〜〜〜〜〜〜
「不服よーっ!!」
あーうっさい。
「何がだよ、正当な労働報酬を」
「低賃金よ! 圧倒的な! これは詐欺だわ詐欺!」
バンバンと床を叩くヴィオラ。
外は寒いとかで家の中へ。
回復するやいなや俺に申し立て始めた。
「後払いでも貰えるって契約だったわよね! ねぇ!?」
…………。
かるーく、イタズラ心が。
「そんなこと言ったっけかなぁ」
「へっ」
ヴィオラの顔がカチン、と固まる。
可愛らしいが、まぁ……これ以上は本当に詐欺か。
「嘘だよ嘘、ほら吸っていいから」
「ほんとっ……!?」
今度は物凄い嬉しそうな声である。
あー……いじり倒したい。
なんだろう、この……犬に待てと言いたい気持ちと言うのだろうか。
だがこれ以上は。
首筋を見せ、背中を向ける。
「死なないぐらいにしてくれよー?」
「もっちろぉん!」
はきはきと、スライムらしからぬ動きで近寄ってはこちらの首筋に身体を乗せてくる。
ひんやりとしているがどこか暖かい……不思議な素材である。
「あーん……」
噛まれるの、意外と痛いんだよなぁ……
若干力入れながら待つ。
すると。
「……ひっ!?」
「なんだどうしたーーー」
本能が叫ぶ。
振り返るな、死ぬぞ、と。
これが野生の勘というものなのか……っ。
「何を、しているのですか?」
聞こえたのはマカ、の声。
身の毛がよだつほどに、殺意。
「こ、これは正当な権利、そう権利……」
「トモハル様? この不明物体Aの言っていることは本当なのですか?」
うおおおお背筋が絶対零度の冷たさを!
待って!
ていうかなんでそんなに怒ってるの!
マカさんキレ芸にでも目覚めたの最近!
「そ、そうだよ。ここまで丸太を運搬してもらったから……」
「ほぉう……?」
「ほ、本当なんだから!」
なんかヴィオラまでブルついてる気がする。
どんだけマカって怖いんだよ。
「……でしたら、その吸血が完了するまで私が監視いたしますので。トモハル様に万が一が無いよう、よろしくお願いしますね?」
「ま、万が一なんて起こさないし……」
「お願い、しますね?」
「ひゃ、ひゃいっ……」
心なしか、こちらの首に歯が立つのすら優しくなった気がする。
「……んっ……」
さっきまでの容赦のない吸血と違う。
なんか、優しく全身を温められているような。
そうか、血が足りないから身体が作ろうと必死になってるんだ。
「んっ、はぁっ……はぁっ、ん、ぁ……」
なんかへんな声が出てしまう。
これが俺の喉から出ているのかと思うと面白いが……
なにせ、心地がいい。
身体全身がぴりぴりとして、へんな気分になる。
「び、びおらっ、もう、やめ、ぁ……」
「もうちょっと……んっ……」
なんでマカは止めないんだ……
殺気も病んでいたのでマカの方を見てみると。
「…………」
顔を真っ赤にして棒立ちだった。
えっ、何その顔。
「んっ……」
「ひゃっ……」
こちらが艶かしい声を出すとマカはびく、と震える。
……あー、なーる。
これはちょっといじるネタが出来たが……
そろそろ、ちょっと意識がふわふわしてきた……
危ない感じだ……
「びおら……もう……だめ……」
「う……わかったわよぉ……」
名残惜しそうにヴィオラの牙がこちらから抜かれる。
ベッドに倒れ込み、呼吸を整えていると。
「……はっ、破廉恥! 破廉恥です!」
おおー……まさかそんなセリフを生きている間に本当にお耳にかかれるとは……
びしぃっ、と指をさすマカの顔は相変わらず真っ赤である。
可愛い。
「なん、なんですか今のは! スライムヴァンパイアとか言いましたね!?」
「だ、だって……別に何かしてたわけじゃ……」
「そ、そんなことありません! トモハル様があんな、あんな……き、気の抜けた顔など!」
マカ……認めたくない気持ちはわかる……
っていうか、マカってもっと上手のお姉さんみたいなキャラじゃなかったのか。
こっち側はめっちゃ奥手、ということなのだろうか……
これからだいたい1時間後。
「その、大変な無礼を……」
「い、いやいいのよ……」
どうやら和解したらしい。
マカは失礼なことをしたとヴィオラにめっちゃ低姿勢だし。
ヴィオラはマカに怯えっぱなしだし。
また不思議な関係が出来上がったものだ……
マカさんはヤンデレじゃありません。
不器用なんです。