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第35話 木材運び

数分後。


「本当に食事したいだけだった……?」

「さっきからそう言ってるじゃないの……」


半泣きである。

さっきのモンスター感やら強キャラ感覚やらはどこへ言った。


曰く、物理に関しては無敵のスライムボディだが、そもそも魔術は良く効くのだそう。

水属性の魔術は飲み込めるのでそうそう痛くはないらしいが、それも量がありすぎると溺れるらしい。

こいつスライムのくせに呼吸が必要なのか。


「で、どうしますかトモハル様」

「やっちまいますか」


お前らやる気満々だけどこいつ対処する手段持ってないじゃん。

肉体言語で語るまでじゃん。


「動機が動機だからなぁ……」

「あと一口、一口だけぇ……」


ヴィオラの口の中で八重歯が覗く。

たしかに冬の間動物がいなければ吸血鬼なんて種族ならお腹も空く……というか死ぬだろうしなぁ……


「……はぁ、本当にリスクはないのな」

「当然よ!」

「……ちょっとだけだぞ」

「「トモハル様!?」」

「本当に!? やたっ!」


グイグイとこちらに迫ってくるヴィオラの身体。

暖かいから尚更違和感がある。


「大丈夫なんです……?」

「さぁなぁ……」

「身の安全は保証するからっ♪」

「んっ……」


身体から力が抜けていく。

血が吸われているからだろうか、心なしか寒くなってきた気がする。


「はぁ……はぁ……」

「ん、ぷぁ……♪ 美味しかった……♪」

「……吸いすぎ」


ぽす、と倒れてしまう。


「あ、あれ?」

「「トモハル様ァァァァ!!!」」


〜〜〜〜〜


「契約はちょっと、だったよな」

「美味しくて……つい……てへ☆」


てへじゃなーい。

こちとら生死の分け目だったんだぞ!


「はぁ……今度ここにきた時は捕まえないでくれよ……」

「えっ、もういっちゃうの?」

「こっちは木材運びで忙しくてな。じゃあな」

「も、もうちょっと喋らない? ねぇ」


ずりずりとスライムの身体がこちらに寄ってくる。

進行方向の草を飲み込み地面に変えながら。

おいおい、ル○バかお前は。


「悪いな」


そのまま踵を返し、歩く。


「ねぇったら……」


すると。


視界に移った。

ヴィオラの通る道にあった枝や小石が……飲み込まれたこと。

そして、ヴィオラの見た目は変化しなかったこと。


「……なぁ」

「え! 何かしら何かしら! 会話する気になった?」


随分嬉しそうだが……

まぁ、会話といえば会話か。


「ヴィオラは……なんでも飲み込めて、吐き出せるのか?」

「え? うーん、なんでもってことは無いと思うけど……ある程度なら?」

「この木だったら?」


ポンと近くの木に。

ヴィオラはドヤ顔しながら。


「余裕よ余裕。何十本でもいけるわ!」


ほーう。


「吐き出せるのか?」

「もちろんよ! ほら、さっき飲んだ枝だって!」


ぷっ、と下の丸いスライムから吐き出された枝。

俺がさっき見たものと同じだ。

濡れてもいない。


……ほーう、ほーうほーう。


「なぁ、俺の血を過剰に吸ったぶんの貸し……返済してほしいんだけど」

「へ? 血は吐き出せないわよ……?」

「そうじゃない、ちょっと付いてきてくれ」


〜〜〜〜〜〜


「……確かに、何十本でも余裕とは言ったわ」

「言ってたな」

「でもこの量は多くない!? 酷くないかしら!」


総数50近い丸太。

総勢10人より少ない男衆故、こんな数が出来るとはあまり考えてなかった。

のだが、あのドヤ顔の契約は忘れんからな。


「さぁ行け。賃金の分は仕事をするんだ」

「……なんとなーく、対価の方が足りないような気が……」

「炎の〜匂い〜しみついて〜……」

「しないわっ! とっても正当な労働報酬を前払いでもらったのだわ!」


どうやらあのほのおのうずがよっぽど堪えたご様子。

不服そうではあるけどな。


「うっぷぅ……はぁ、結構な量だわ……」


……なんか大きくなってない?

ヴァンパイアのほうじゃない、スライムの方が……

なんか、かまくらぐらいになってるんだけど……


「40本目……うう、吐きそう……」


さらに肥大化していくヴィオラの丸い部分。

え、大丈夫なんかあれ……


「最後の、一本……ふぅ、飲んだわ……」

「よ、よし、じゃあこれから2日かけて村の方に……」

「2日ぁ!? 馬鹿じゃないの!?」

「帰ったら多少血吸ってもいいから!」

「ぐぬにぬぬぬにににぬぬ……」


葛藤しているご様子。

なんだかよくわからないが……大変そうだ。


「うぅ、わかったわよぉ……休み休みにしてよね……」


〜〜〜〜〜〜


「……何あれ」


何か赤いものが近づいてきます。

赤いというか……赤黒いというか……

しかも、普通の物体じゃない感じも……え?


「ま、マカさんっ」


急いでマカさんに相談します。


「どーしましたー?」

「村に近づいてくる変なものが……」

「変なもの?」


マカさんが家から出てくると。


「……何あれ」

「そうなりますよね……」


しかも、やっぱりこっちに近づいてるし。


……あ、でも。


「トモハル様の匂いがしますね」

「ですね、とてもトモハル様です」


あの人は普通のことが出来ない病気か何かにかかっているのでしょうか。

いつもいつも、騒ぎの中心にはあの人がいて。

世話を毎回焼かされます。

でもそこがいいというか、何というか。


「……ラクさんにやけてますよ」

「えっ、あっ、うぅ……」


ほっぺをぐにぐにとして何とか誤魔化せるようにします。

トモハル様にこんなみっともない顔見せられません。


「……もう、だめ……吐く……」

「よぉし上出来だ!吐いていいぞ!」


そんな不思議な会話が聞こえると。


ガラガラガラガラ!!

「「へっ」」


……突然、丸太が出現しました。

出現というか、あの赤黒いものから出てきたようですが……

もう訳がわかりませんいったい何が起こっているのですか、何をあの人は起こしたのですか。


「ぷっ、あはは……もぉ、ほんと馬鹿なんだから……」

「ま、マカさん!? なんでそんな嬉しそうな……」


随分とマカさんは嬉しそうです。

こんな異常事態ですけど……


「また殴らなきゃ治らないかなぁ……いやもっとかな?」

「そ、そんなことしたら怪我しちゃいます!」

「ふふ、冗談ですよ冗談♪」

「あっ、待ってくださいよ!」


マカさんが走って行ってしまいました。

はぁ、マカさんもうちょっと大人で綺麗な人だと思っていたんですが……

なんて都合のいい人材なんだ……

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