第33話 木材
「木材だぁぁぁぁ!!」
「「「ウオオオオオオオオ!!」」」
木材。
それは人類をここまで発展させた文明の縁の下の一つ。
だが、それだけではない。
というか、ぶっちゃけ木材が無いと人類文明洞穴暮らしから変わらない、変われない。
それどころか火も起こせず、おおよそ猿から進化しなかったかも。
というわけで。
「森ッ! 刈らずにはいられない!」
「全速全身だッ!」
「サーチアンドデストロイ! サーチアンドデストロイ!」
アホみたいに士気を高めた男衆と雪中行軍。
女衆はやれやれ男ってバカね顔で見送っていた。
それもそのはず、森まで片道1日はかかるのだ。
簡単に1日というが、これは目安。
こんな大人数で動けばそれはもっと時間がかかるに決まっている。
だが、木材にはそれだけの価値がある。
無茶をしてでも持って帰る意味がある!
「行くぞ野郎ども!」
「「「ウオオオオオオオオ!!」」」
故に俺たちはこんなアホみたいなテンションで行軍する、例え女性陣から冷ややかかつ嘲笑の目を向けられようとも!
というわけで、目安の二倍、2日かけて。
「おお……」
森についた。
森ではまだ花が5分咲きといったところだ。
立春……は過ぎて、初春一歩手前、といったところか。
本来なら夏に取りたいところだが、致し方ない。
「野郎どもかかれー!」
すこーんっ!
すこーんっ!
すこーんっ!
手斧を手に木を切り倒して行く様はまさに強盗団である。
見た目明らかにヤバい。
だが、これも自然の恵みを貰っているのだ、感謝しながら木こりだ。
「倒れるぞー!」
どこんどこんと辺りから木の倒れる音が。
こうしちゃいられん、俺もさっさと切り倒さねば。
すこーんっ!
すこーんっ!
「はぁっ、はぁっ……一旦休憩……」
やはり男性と女性では筋肉がちがうか。
「おら、任せてくださいよトモハルさん」
「おっと、お願い」
「おお、男見せろー!」
「トモハル殿に恥ずかしいとこ見せんなよー」
囃し立てられつつ、俺のこっていた木へと代わってくれたやつが斧を振るうと。
メシッ……
「おっ!」
マギマギマギ……
ズゥン……
「おお一撃だぁ!」
「さっすがぁ!」
なんと、半分以上残っていたのを一撃で仕留め切りやがった。
豪腕め。
とかなんとかしつつ。
「……さぁ、どうやって運ぶか!」
ノリノリで切った50近い丸太。
転がそうにも雪の上だ、滑るのも難しい。
肩に担ぐにも片道2日。
「……ソリでも作るか?」
第1案、この丸太自体でソリをつくってしまう。
向こうで解体すれば確かに木材として戻ってくる。
問題は丸太だけで組み上げるような、そんな技術はないこと。
第2案。
地道に運ぶ。
正直これしかない感じもしないでもない。
第3案。
……特に無し!
思いつかない!
ゆえにこの二つになるわけだ。
ここに移り住む?
だめだだめだ、温泉がない。
狐尾にもだいぶ中毒者っぽいのいるし。
いや硫黄中毒じゃないよ?
「はぁ、ちょっと休憩……」
「腹も減ったなぁ……」
気合いによるドーピングが切れたのか、座り出す男衆。
まあ、俺より頑張ってたしな。
「木の実か何かないか探してくるよ」
「あぁ、ついていきますよ」
もちろん食料は持って来たが、色があった方がいいだろう。
2,3人で適当に森へと進む。
まぁまだ花も咲いてるか咲いていないかという頃だ。
ないだろうなぁとは思いながら歩く。
すると。
「……なにあれ」
赤い……泥?
なんか半透明の液体がある。
あるっていうか……纏まってる?
道のど真ん中、そこだけ草が無い……
……なんか嫌な予感がする。
「なんだありゃあ……」
「見たことねぇ……」
狐尾族たちもどうやら知らない様子。
これは、ちょっとヤバイか?
そのとき。
ズズズズズ……
「おいおいおいおい!」
動いてやがる!
とりあえず逃げる。
三十六計打たずとも逃げるに如かず!
だが。
ガシッ。
「へっ」
脚に浮遊感。
掴まれてる!?
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「トモハル様!?」
そのまま掃除機のコンセントのごとく、さっきの泥の中へ……
《ふふ、捕まえた♪》
そう、耳にくぐもる音を感じながら……
捕まりました。