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第32話 説得?

「トモハル殿……よくぞ、ご無事で……」

「まぁ、波乱万丈ではありましたが……恥ずかしながらも帰って参りました」

「トモハル様おかえりなさいませ!」

「トモハル殿、この度は本当に……」


帰ってからというもの、村のほぼ全員から喜びや再会の涙を流されてしまった。

自分の過失だったのだが、いい人たちだ、全く。


それと。


「あの……ラクさん?」

「離れませんからね」

「えっと……ちょっと恥ずかしい……」

「知りません」


背中が重い。

ラクがオナモミみたくずっとくっついてるからだ。

ずっと寂しかった埋め合わせをしたいのだそうで。

ある意味三本目の尻尾が生えているように見える。


そうそう、尻尾が二本に生えたことには基本誰も関心がなかった。

なんというか、俺が帰ってきたんだから別にして何でもいいじゃん的な。

健康そうだし、と。

そんなことより今日の宴会の予定を組む方が大変とかなんとか。

気のいい奴らだ。


まぁ、最大の懸念事項はそんなものではなく……


「えっと……ちょっとマカの家行くから……」

「う……仕方ないですね……」


そういうだけで強情だったラクが離れる。

まぁ……そういうことである。


マカは俺と再会するやいなや……俺の顔面をぶん殴った。

ストレートで。

わけがわからないままにマカは家に帰るし。

正直悪いことはしたと思うけど、あんな女性らしからぬというかなんと言うか。


〜〜〜〜〜


「お、おーい……マカ〜……」


返事なし。

中にいることは確定……

気がものっそい滅入る。


「入る、ぞー……」


中に入るといの一番に映る、布の布団でいかにも機嫌悪いですオーラを出すマカ。

こっちを向いてさえくれない。


「あ、あのー……マカ、さん?」

ぴこ、ぴこ。


あ、耳動いた。

起きてるなやっぱ。


「……そのー、機嫌を直してくださいませんか……」

「……何を直せと言うのですか。私は全く不機嫌ではありません」


怒ってんジャーン……

どうするかな、こう言う時の対処ができるほど女経験なんてない……


「…………」

「…………」


不毛である。

だが、こちらからとっかかりがない以上、絶対に上手くはいかないのだが……

結局、地雷除去するには地雷源に入らなくてはならないのだ。


「まぁ……こうして俺も戻ってこれたんだし……」

「…………」

「意外と人間もチョロかったというか……」

「…………」

「結局、次捕まっても大丈夫だよ……なんちゃって……」

「……人は……」


へ。


「あなたという人は!」

「うわぁっ!?」


突如起き上がり、飛びかかられる。

そのまま押し倒され馬乗りになってしまう。


「どうしてその様なことを平気で仰る! ふざけないでください!」


掲げた右手は握り締められ、今にもこちらに飛んできそうだ。


「えっ、えっと」

「もう誤魔化しなんか聞きたくありません!」


あ。

声が、涙声だ。

目尻にも、ほんのりと。


「あなたは! こんな事があったのに! 怖かったとも! 嫌だったとも言わず! なんと言いましたか!? 次!? 馬鹿じゃないんですか!?」


マカの口は止まらない。

いつもの冷静でどこかつかみどころのないマカにはとても見えず、目の前にあるのはただ、ただ感情を吐露する少女だった。


「そんな馬鹿なことを受け入れないで……悲劇を誤魔化さないでください……」

「マカ……」


ぽす、と俺の胸元に拳が乗せられる。

そのままマカも崩れ落ち、胸に乗って泣き声が聞こえてきた。


そうだ。

俺がかけていた心配は、俺の考えていたものなどどこまでも通り過ぎていたのだ。

聞けば、村で一番我慢していたのはラクとマカ、その中でも押し殺していたのはマカだったらしい。


「……ごめんな、待たせて……とても……みんなに会いたかった……」

「ぐっ、ぐすっ、ぅ、あぁぁっ……」


ラクと違い、マカは静かに、ただ俺の胸の中で、優しく泣いていた。

こんなにも俺を心配してくれた優しいマカに、俺はあまつさえ次捕まっても大丈夫、などと言ったのだ……

そりゃあ、怒る。

当たり前だ、俺が悪い。


「殴ったところ、痛かったでしょう……ごめんなさい……本当に……あなたは一つも悪くないのに」

「いや、俺が悪かった……最初から言えばよかった、帰ってこれて良かった、また会えて良かったって……」


そのままマカが泣き止むまで背中を撫でる。

これからは一層用心しようと、硬く胸に誓う。


そして。


「……あのー」

「なんでしょうか」

「どうしましたか」

「二人とも……その、離れて……」

「「嫌です」」


前門のマカ。

後門のラク。

前後をがっちりとホールドされ、身動きが取れない。

マカの家だからいいものの。

ラクは騒ぎが終わったからおずおずと入ってきたのだった。


「本当、トモハル様を殴った時はどうしたのかと……」

「その、許せなくて……」

「いいえ、今ならその気持ちわかります。この人自分に興味がなさ過ぎるんですっ!」

「全くその通り。というか馬鹿なんですよ、さっきなんて言ったと思います? 次捕まっても大丈夫って言ったんです」

「はぁぁぁ? この頭本当に脳入ってるんですか壊れてるんじゃないんですか」


バシバシと胸は叩かれるわグイグイと髪の毛は引っ張られるわ。

挙句俺を挟んで俺のどこが悪かったか大会し始めるわ。


「二人とも悪かったってえ……」

「いーえ! 誠意が足りません誠意が!」

「ええ! 誠意0です!」


そんな前世のめんどくさいクレーマーみたいなこと言わないで……


「なんでも言うこと聞くからさぁ……」

「……へぇ」

「それはとってもすばら……誠意が感じられますね」


いま素晴らしいって言いかけなかった?

この提案をした瞬間二人ともにやけなかった?


「では、誠意を見せてもらいましょう……」

「もちろん身体で払っていただきますよ……ぐへへ……」


〜〜〜〜〜


「せま、狭いって」

「いいえ、これぐらいのほうがトモハル様を感じ取れますから!」

「ふふんっ……ラッキーです、ゴネてみるものですね」


こいつら。

完璧にハメやがったな。


マカの布団に三人でくるまり、俺の腕は二人に抱きかかえられ使用不可。

一切の行動ができなくなったのだった。

二人から言い渡された条件、それは……今日は三人で寝ること。

身体で払うと言われたときはどうしようかと思ったが……

まぁ、こう落ち着いて良かったというか。


「はぁ、じゃあおやすみ……」

「あっこら! 今日は私たちが寝るまで寝てはいけませんから!」

「そうですよ、何勝手に寝ようとしているんですか」


訂正。

全く落ち着いてなかった。

次は絶対に捕まるまいと……そう誓った夜だった。

この回は賛否あると思いますが、こういう風にちゃんと怒ってくれる人が好きです。


改善点などあったらよろしくお願いします。

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