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第31話 帰還

「はっ……」


…………。


「はっ……」


…………。


「へくちっ」


あぁ可愛い。

じゃなくて。


久しぶりだな、この一面雪景色。

白い、真っ白な床と、青い空の天井。

ただ歩くだけ、こんなのもなかなか珍しいかもしれない。


「……もしかしたらあの死体とかもまだあるかもな」


いや、そんなはずはないだろう。

雪も積もっているだろうし、もういま歩いてるところのずっと下にいるはずだ。

見つかるはずもない。


とはいえ、とにかく様相が変らないので退屈である。


が。


「……おっ」


いつか見た、岩、のようなもの。

はるか遠くの物体。

あれはもしかして。


近寄ってみると。


やっぱり、あの岩、俺が座った岩だ。

形を覚えている。


「確か……」


雪を払いのけ、上に乗ると。


…………嘘やん。


遠くに見える黒いもの。

この岩より明らかに小さいが……

まさか。

半ば気分がダレながらも近寄ってみると。


…………。


やっぱり。


「えーと……この前はごめんなさい仏様……」


仏様というか、死体様というか。

いつかの倒れていた死体だ。

この死体の追い剥ぎを行ったお陰で俺は助かったのだ。

ある意味、命の恩人とも言える。


「…………」


まぁ、一応というかなんというか。


雪を炎で溶かし、地面を出す。

思ったよりも地面は近かった、1mぐらい。

その地面にクワで穴を開け、死体を入れる。

保存状態が良かったのか、ガスが溜まっていて臭いがひどいが……まぁ、我慢だ。

そして。


「燃えろ」


死体を燃やす。

火葬、というやつだ。

手を合わせながら、行く末を見守る。

どうか、安らかに。


灰になったら土を戻し、もう一度手を。

見知らぬ誰かよ、ありがとう。


「…….よし」


そうしたら、次は……

男の足は向こう側に向いていた。

向こう側にずっと行けば、多分……


〜〜〜〜〜〜


「やっぱり……」


いつかの宿にした木造の小屋……の成れの果て。

壊れて今は木片だ。

ここではもう休むことは出来ないだろう。

まぁいい、今回は多少なり装備があるからな。

少なくとも、凍え死ぬことはそうそうない、はず……


とはいえ、俺が知りたかったのはこの小屋の方向からの位置関係。

記憶が正しければ、この小屋からあの温泉の沸く場所に行けるはずだ。


「……よしっ」


気合いを入れて、また何時間も歩く。

肉体は参るが、精神の方は……まぁ、それなりといったところか。


〜〜〜〜〜〜


「ラク、ご飯出来たよ」

「うん……」


今日も食欲がありません。

プッチーは美味しいです、チコルの実だって、凄く。

奴隷だった時はこんなに広々と自由な生活なんて出来ていませんでした。


なのに、息苦しい。

寒い。

暗い。

怖い。

一人いないだけで、なにもかも崩れ落ちたみたいな。


トモハル様。


あの時、きっと私は……あの人に、特別な感情を持ったのでしょう。

女の子の大切な心を、あの人に差し出したのでしょう。


なればこそ、それは感情も心もいなくなったのと同じ。

トモハル様がいなければ、私は人形にしかなれないのです。


あぁ、今日も食卓に並べません。

お腹は空いています。

喉もカラカラです。

なのに、それ以上の飢えが、全部塗りつぶしてしまうから。


ですが、飲み物ぐらいは飲まないと。

身体を冷ますのも一緒にやりたくて、外で雪を取りに行きます。


「……ラク、ご飯は食べないとだめ、今日は食べないと寝かせてあげないからね」

「……わかった」


お母さんはわかっています、どうして私がこんなになったのか。

だから、強い言葉は使いません。

凄く、感謝しています。


外に出て、適当に雪をすくいます。

目の前には白い大地が。

あの遥か向こうに、トモハル様はいます。

もしかしたら、助けられるのを待っているかも知れません。


「トモハル……様……」

「だめです」


後ろから。

マカさん。

その顔は、とても怒っています。


「言いましたよね、村長が。誰一人向こうに行ってはならないと」

「……わかって、ます」

「わかってません」


マカさんは、凄く、怒っています。

なんで怒っているか、よくわかります。


「……トモハル様は死んでしまいました。こういえばいいですか」

「っっ!!!」

「忘れなさい。私たちはそうやって生きてきた」

「でもっ!!」


あの人が死ぬわけない、そう応えようとして。


「……あ、あれ……」

「……ラクさん?」


遠くから、匂いがします。

とても、好きな匂いです。

とても、懐かしい匂いです。

とても、一緒にいたい匂いです。


「あっ、待ちなさい!」


気づいたら走っていました。

春になって雪はまだ深いまま、転びそうです。

でも走ります。

走って、走って、走って。

転んで、でも、走って。

わかります、いまならわかります。


この匂いはーーーーー!!


「トモハル様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うわぁっ!?」

「うそ、ほんとう、ともはっ、ん、ほんとうに」

「あはは……ただいま……?」


この顔は。

そうだ、あの時助けてもらったときと同じ。

私を救ってくれた、"本物"の。


「うわぁぁぁぁぁぁっっ!! おか、おかえり、なしっ、あぁぁぁぁっっ!!」

「あぁっ! な、泣かないで、ごめんってほんとうに」

「……トモハル様」

「あっ、マカ……マカもただいま……へっ、何、なんでそんな怒って、待って、まっぶほぉっ!?」


そりゃあ怒られますよ。

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