第29話 仕事
バシュゥゥゥゥ……
「やっと終わったぁ……」
合計16本のクワ。
噂が噂を呼び、何人も持ち込んできてはこの有様だ。
ただ、後半からはだいぶコツを掴んできて、うまい具合に整形できるようになった。
綺麗なものほど後半のものだ。
とはいえ、後半に行くほど時間がかかったがな。
クワを各家に配分する。
どこがどこの家のとか全く覚えてないので荷車を借りて突撃隣のお家だ。
不思議と狐尾族たちは自分のクワを簡単に把握してはお礼を言って取って行く。
どんな目印があるのか不明だが、とにかくすごいと思う。
「ふぅ……」
結局全部終えるのに2日もかかってしまったのだ、ちょくちょく休んでいたとは言え疲れた。
俺に与えられた寝床は倉庫の藁。
俺が起きたところだな。
そこまで地面を這いずってでも行って、眠らせて貰おうか。
「おお、終わったのかちょうどいい」
ぐ。
お爺さんに見つかった。
この人、意外とスパルタなのがわかっている。
たしかに居候の身だ、好き勝手するのは忍びないが……
ちょっとぐらい休ませても……
「倉庫の整理を頼むぞ」
「……はーい」
というわけで倉庫の整理をすることになった。
目を背けていたが……ものすごい乱雑。
物の上に物を重ねて、できなくなったら前に置いて。
よくもまぁこんな酷いことになるまで放置したよ。
手ぬぐいを渡されたので水を汲んできては物品の埃を拭いて行く。
一つ一つ下ろしては中身まで。
「……うげっ!」
なんか臭うなと思ったら、箱の中に腐ってる小麦が。
慌てて外に出して汚物消毒ファイアー。
鼻が曲がると思った。
箱の方は……汚れてるけど、使えないわけではなさそうだ。
雪解け水を加熱したお湯に浸けて熱消毒しておく。
やっぱり火が使えると本当に便利だなって実感する……
これが文明をここまで発展させた力か。
それからも、無駄にしまってあったらしい腐った物を次々と消毒。
てか、積んであったものの10%ぐらいは腐った食べ物。
あとは小物とか。
これ、男世帯だから片付けが全くできなかっただけじゃないのか……?
とはいえ基本的にはゴミなど出ないような文明。
前世でいうゴミ屋敷みたいな酷いことにはなっていないだけ救いだ。
「おお、やってるな」
「あぁ、それなりに片付いてきたところですよ」
お爺さんが覗きにきた。
これだけサービスしているのだ、ある程度は感心して頂かないと。
褒められて伸びるタイプ。
「む? この箱の中身は?」
「あぁ、食べ物でした。腐っていたので外で灰になってますよ」
「む、そうだったか。奥の備蓄は腐っていたか……」
やっぱり把握していなかったご様子。
まぁ灰は肥料になるって聞いたことあるし、多少は使えるだろう。
「それと、小物は箱にしまってあります。一応確認とかしといてくださいね」
「あぁ、わかった……」
後ろでかっちゃかっちゃと小物が弄られる音がする。
箱の中に入るだけブチ込んで置いたものだ。
「……む」
「どうしました?」
「これ、どこで見つけた」
見つけたのは木製の十字架のついたネックレス。
確か、どっかの箱の中に入っていたものだ。
「すいません、よくは覚えておらず……」
「……そうか」
お爺さんはそれを大事そうにしまいこみ、戻ってしまった。
まぁ、大事なものだったのだろうな。
「……もうちょい丁寧にやろう」
何かあるといけないしな。
〜〜〜〜〜
「うわっ、めっちゃ綺麗になってる」
あのボケ息子と俺の中で定評のあるリハクでさえも驚く完成度。
なんということでしょう、あんなに乱雑にものが放置されていた倉庫の中がゆとりのある空間へ。
これには住民も大喜び……
と思いきや、リハクは壁に指を這わせ。
「……おい、ここいらに埃が残ってるぞ」
シンデレラの姉か、お前は。
「リハクよ、そういうでないわ」
「お、親父! そもそもこいつがちゃんとやってるわけ無いだろ! 玄関の灰を見ろよ、目につくもの焼き払って少なくしただけだぜ!」
てめぇは一生腐ったもん食ってろ。
「いいや、此奴はしっかりと仕事をした。文句は言うな」
「だがよぉ……」
「あとは休んどくれ。ご苦労だった」
「はぁい♪ 私、頑張りましたので。それはもう、しっかりと」
嫌味っぽく、あくまで。
おっほ、リハクの顔が真っ赤だぜ。
プギャーゲラゲラゲラゲラ。
〜〜〜〜〜
「あー腰いってぇ……」
マシンガンのようにポキポキ音を鳴らして藁に倒れこむ。
どんな労働量だ、全く。
たしかに飯も貰ってるし寝床ももらっているわけだが……
く、現代人は弱くなったというのはこういうことなのか。
いいじゃん甘えていこうぜ。
「寝よ……」
ごろん、と仰向けに姿勢を変える。
すると。
「…………」
無造作に積まれていたシリーズ。
本。
これもまた読めないので放置していたもの。
…………。
目に入ってしまったゆえ、気になる。
太めの、辞書ぐらいのをなんとなく手にとって開いてみると。
「……目次、なのかな」
それっぽいページ。
やっぱりどの世界でも最初のページはそうなるらしい。
目次一つ一つが全くわけのわからない文字。
しかもいちいち変わっている気が……
「……ん?」
なんだこれ。
いせかいご……いせかいご?
異世界語!?
って、日本語!?
ひらがなでいせかいご、と書いてある欄がある。
文字が似てるとかじゃない、完璧に"いせかいご"と記してある。
一体なんなのだ、これは。
激しく興味がある。
数字すらも文字が違う世界だ、面倒だがその頁を探す。
すると。
「……あった」
結構後に書いてあった。
そこには、こちら側の、異世界の文字と照合するように、あいうえお表が載っていた。
どうやらこちらの言語も一つの文字に音があるタイプの言語らしい。
ありがたい、これなら日本語との互換がわかりやすい。
そこには軽い例も載っていた、いろいろと調べていく……
が、意識は続かず。
そのまま瞼を閉じてしまうのだった。
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