第28話 居候
「ふむ、その面子はもっと奥の方の奴らであるな。今の時期は……山のふもとにおるはずだ」
「何か連絡手段などは?」
「無い。ここから3日はかかる距離だ」
ぐぬぬ。
お爺さんはどうやら、この村の村長らしかった。
試しにラクたちの居場所がわかるか聞いて見たところ、しっかりと認識していた。
だが。
「3日か……」
「これからは空も荒れる。吹雪くこともあるだろう、この村に留まって春を待て」
「そ、そんな! これ以上心配をかけるなんて」
確かに、昔よりだいぶ寒いし、曇る日も増えてきた。
危険だというのはわかるが……
「年長者の言葉は聞いておけ。年齢ではなく技術と知識を信頼してな」
「う……」
そう言われると確かに弱い。
俺はこの村、というか大雪原のことを1%も知らないのだ。
それなら、長くここに住んでいる人に知恵を借りた方がいい、というのもその通りである。
「それに、貴様は奴隷になりかけ、逃げてきたと言ったな」
これまでの経緯は話してある。
それと、黒い炎のことも。
どうやら誰も知らないようだったが。
「それならば、おそらく村の者たちはお主を諦めておる。心配などかけてはおらぬよ」
「なっ、そんな……」
「履き違えるな。逃げることこそが我らが生存の基本。蛮勇など間抜けに任せておけばいい」
例え、マカのように魔術に秀でたものだとしても、多数の人間がいればどうしようもない。
俺を助け出すなど、そもそも無理な話なのだ。
わかってはいた。
だが、改めて思うと……やっぱり辛い。
「ゆえに、来春だろうが何だろうが、お主がいつ帰っても何も変わらん。わかったな、今はここで待て」
「……わかりました」
というわけで、この村に留まることになったのだが。
「何か仕事などは? ただ居候させてもらうわけには」
「無い。そもそも冬支度も終わり、あとはただ耐える時期だ。やることなどありゃあせん」
とまぁ、こんな感じ。
やることも無ければ、やりたいこともない。
とりあえずお爺さんから櫛を借りたので、尻尾を毛づくろいする。
これが案外気持ちいい。
尻尾も綺麗になるしな。
「よしっ」
それも、小一時間あれば終わってしまう。
なんとも呆気ない。
そして、次にやることを探すわけだが……
ふと、目に入った。
「あれ、このクワ……」
見つけたのは農具のクワ。
土を耕し、畝を作るやつだな。
どうやら石でも打ったのか、刃がひしゃげたまま部屋の隅に放置されていた。
埃もかぶっていたし、おそらく何年も使ってない。
「あぁ、あれか。触らんでおけ、重いぞ」
「いや、そうじゃなくて……金槌とかあります?」
「直そうというのか? 鍛冶でもやっておったのか」
「いや、ないですけど……ちょっと試してみたくて、暇ですしね」
〜〜〜〜〜
雪解け水を集め、金槌を借りる。
玄関だともしかしたら何か起こるかもしれないので、外で。
「そら、何か始めたぞ。人の首を狩る鎌を作る気だ」
「黙っておれ」
平常心。
クワを使って工作する許可はとった、失敗してもどうせ元から直す気もなかったということでお墨付き。
これならば気兼ねなく能力を試せる。
これから俺が行うのは能力の実験。
このクワ、金属を変形させられるほどの熱を持たせられるか。
あるいは、熱を持たせるほどにちゃんと炎を維持できるか。
それによる。
「では、始めます」
集中して。
「燃えろ」
その一言で簡単に黒い炎はつく。
クワの金属の部分から外していない、完璧だ。
このまま集中して……
クワが赤くなってきた。
やはり、灰にするまでのプロセスは普通の炎と同じようだ。
ただ、熱量が段違いではあるらしい。
普通、こんなに早く熱を帯びることはない、と思う。
「行きます」
炎を消し、金槌を振るう。
カァンッ!
小気味いい音を立て、火花が散る。
大きな変形は見られないが、曲がってはいるはず。
カァンッ!
カァンッ!
カァンッ!
2回、3回と金槌を振るうと、ほんの少しずつ変化が見えてきた。
ひしゃげていたクワの刃が一打ごとに元の形に戻っていっている。
そして、50回は打っただろうか。
「これで大丈夫かな」
素人工作だが、それなりにはクワっぽくなったところで。
バシュゥゥゥゥ……
クワを水に投入。
大量の水蒸気が撒き散らされる。
熱した金属を一気に冷やすと硬くなる……らしい。
それ以上のことはわからない。
数十秒つけてからクワを出してみると。
「……おお」
お爺さんの唸る声。
クワは結局がたがた、まるで上手くはできていなかったが……刃の変形だけは直っていた。
「あ、あはは……失敗、ですかね」
「……半々、じゃな。そもそもが失敗からの始まりであった」
手厳しい。
まぁ、素人のやったことだ、どちらかといえば大目に見てくれている側面が大きいだろう。
第一、人の家の備品を好きにいじっているのだ。
すると。
「……わひっ!?」
玄関から覗く、数人の狐尾族。
村の住民だ。
「……なぁ、うちのも直してくれないか?」
「へっ」
見せられたクワ。
ヒビがいくつも入ってしまっている。
「うちのも!」
「こっちのも頼むよ!」
さっきまでの腫れ物扱いは何処へやら。
村長が害は無いといい、多少役になったらこれらしい。
なんとなく腑に落ちないが……
「わ、わかりました……」
結局、請け合うことになった。
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